第3話 昼休みの食堂②
「なんで昼まで一緒に食べることに……」
「学食に決まった席はないからな。俺がどこに座ろうと自由だ」
「それはそうだな」
言い分は正しい。ただし感情は別腹。
「だがな、これだけは言わせてもらうぞ。俺はホモじゃないからな」
「いや、お前をホモだと思ったことはないが?」
「さいですか。じゃあもうこの話は終わりな。昼前の奇行は水に流すからこれで遺恨はなしってことで」
「そうか。まあ先程は少しやり過ぎた節もあった。そこは謝ろう。悪かった。贖罪と言ってはあれだが、俺のうどんを食べるか?」
「いらんわ。もう次の喧嘩売られてんのか俺は?」
なんで贖罪が食べかけのうどんの譲渡なんだよ。しかもなんでちょっと残念そうにしてんだ。普通にいらねえよ。やはりこいつはどこかズレてるな。
「違う。俺は神崎と友達になりたいんだ」
「はい?」
「神崎と友達になりたいんだ」
「大丈夫聞こえてないわけじゃないから」
「そうか」
会話がそこで止まる。
え? なんでそこで黙るの? この後俺が話切り出さなきゃいけないの? 全然切り出し方わかんねぇんだけど。
「ハカセは俺と友達になりたいの?」
とりあえずハカセの言葉を復唱してみた。
「そうだ。今日の行動は全てそのために行ったと言っても過言ではない」
「過言なんだよなぁ」
ハカセの行動を頭の中で再現する。まず言われたのが俺はお前に興味がある。すでに友達云々から離れている気がするんだけどこれいかに。
いや、無理でしょ。この始まりの落としどころが友達になりたいとか絶対理解できないから。心の声を読めてようやくスタートラインに立てる感じからなこれ。
つか、俺と友達になりたいって話のために神崎ホモ疑惑をかけられたの? 全然割にあってねぇよ……いやどんな話でも割に合わねぇよなこれは。どうせだったらもっとぶっ飛んだ話の方が救われるまであるんだが。友達になりたいって割と普通よりの話じゃん。ホモ疑惑のマイナス大きすぎんだろ。
「なんで俺と友達になりたいんだ?」
これは純粋な疑問。友達なんてもんは、俺と友達になろうぜ! わかった今日から俺たち友達だね!! みたいな感じでなるもんじゃないと思っている。
契約みたいなことをしなくても、時間が経てば気づいたらお互い勝手に友達になってるような、友達ってそんなもんだろ。違う?
だから敢えて友達になりたいと言ったハカセの真意を聞いてみたかった。それに俺友達多い方じゃないし。誰とでも話せるけど、友達かと言われたらそうじゃない感じ。意外と複雑な関係が多いのよ俺は。
「お前に興味があるからだ」
「そこに帰って来るかぁ」
いやぁ、このままじゃまた振り出しに戻っちゃう。もうあんな思いはごめんだから。
しかし、友達になりたい、ね。そこまで熱を入れてくれるのは嬉しいけど、俺のどこにそんな魅力があるのかね。そんなんリアルで言われそうなのはクラスのイケメンこと佐伯と、大天使相原くらいだろ。
ほんとよくわかんねぇけど、冗談言ってるようには見えねぇしなぁ。
「ま、いきなり俺たち親友! とか言えないけどさ、話したいときとか一緒に昼食いたいときとかさ、好きに来いよ。俺は別に拒否ったりしねぇから」
友達に向けた第一歩。落としどころとしてはこんなところだろう。
「ではそうさせてもらおう」
「あいよ。ハカセも、もっとわかりやすく言って欲しかったよ」
そうすりゃ神崎ホモ疑惑は生まれてねぇからな。いやほんとどうすんだよこれ。時間が解決してくれるのを願うしかねぇか。でもハカセと一緒にいたら疑惑は深まるばかりでは? やっぱ一緒にいるのやめた方がいいかな?
「さっきから気になってたが、なぜ俺のことをハカセと呼ぶ? 俺は博(ひろし)だが」
「ん? ぱっと見た時にさ、白衣を着たらハカセっぽいなと思って。嫌ならやめるけど?」
ハカセの第一印象は、こいつ白衣めっちゃ似合いそうだった。その流れで俺はこいつのことを勝手にハカセと呼んでいた。
「いや、いい。あだ名で呼ばれるのも悪くない」
「その代わりと言っちゃあれだが、俺のことも好きに呼んでいいぞ。悪口以外ならな」
「わかった。ではお言葉に甘えて八尋と呼ばせてもらう」
そう言って、ハカセはチラリと視線を動かした。
「そろそろいい時間だ。教室に戻ろう」
俺も時計を見ると、確かに昼休みも終わりの頃になっていた。食堂にいる生徒も大分減っている。
「午後のホームルームでは来月の体育祭の出場種目を決めることになっている。八尋も何に出たいか考えておくといい」
「と言われても、去年休んだからどんなイメージすりゃいいかあんまりわかんねぇんだよな」
楽できそうな種目があれば、それにするかな。運動自体は苦手ではないが、あまり疲れたくない。
去年の情報は誰も教えてくれなかった。あれ、やっぱり俺友達いないのかな?
返却口にお盆を戻して、俺たちは道すがら体育祭について話しながら教室に戻った。
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