第2話 昼休みの食堂①
昼休みの食堂。みんなが友達と和気藹々と昼ご飯を食べている中、俺は内なる怒りに身を震わせながら席に着いていた。
全ての元凶は目の前で素知らぬ顔をしているもんだから、余計に腹が立っていた。
「そういつまでも怒るな。カリカリしてても何もいいことはないぞ。そもそも、なぜそんなに怒っている?」
「どの口がいってんだよおい。1000%お前のせいじゃねぇか」
「心当たりがない」
まるで本当に自分のせいでは無いと確信しているかのような態度に俺の怒りボルテージはさらに上昇していく。
「あんなことしておいて心当たりがない、だと? どんな神経してんだお前?」
「まずは落ち着け。俺は喧嘩しにきたわけじゃない」
なぜ俺が諭されているんだ? 元凶は目の前のこいつだと言うのに。
とは言え、一理あるのでそこは突っ込まない。俺もべつに喧嘩をするつもりはない。この世の理不尽に怒りを覚えていただけだ。
「で、本当に心当たりはないのか?」
「全くない」
この男、頭のネジを何本か落としてしまったようだ。可哀想に。
焼き魚をひと口。温かくて美味い。お前が俺の癒しだ。
「ほころで」
昼食のうどんをすすりながら奴は言う。
「食うか話すかどっちかにしろよ……」
ハカセは大きな音を立てて飲み込んだ。
「ところで、話を戻すがお前は何をそんなに怒っている?」
「たしかに怒ってたんだけど……はあ、なんかもうどうでも良くなってきた」
頭の悪い会話をしたせいか、熱も冷めてしまった。定食の味噌汁を一口。出汁の旨みが広がる。去年から薄々気づいていたがこの学校、学食のレベル高いな。
「それはよかった」
ハカセは満足そうに首を縦に振る。よくはねぇんだよなぁ。
「はあ…………疲れた」
反対に俺はがっくりと肩と落とすのだった。
憩いの時間の昼休み。いつも通り学食で一人ランチを楽しもうとした俺の目の前に現れたのは
そもそも、俺がなぜこの男にイラついていたかと言うと、それは昼休みの前、3時間目と4時間目の間の休憩時間まで遡る。
「俺は、お前に興味がある‼︎」
3時間目が終わり、次は社会の時間だったなと授業で使う道具を入れ替えている時、それは起こった。
不意に目の前に現れた男、藤原博、通称ハカセはクラス中に聞こえる程張り上げた声で言う。
なんだ? 俺は男に告白されたのか?
いや、まだ俺と決まったわけじゃない。後ろの席の木村へ言ったのかもしれない。なんて一抹の希望を胸に顔を上げると、眼鏡をかけたキリッとした長身男とガッツリ目が合う。
「俺は、お前に興味がある‼︎」
ああ……これは俺だわ。
「…………」
窓から差し込む春の日差し。少し空いた窓から入り込むそよ風はカーテンを優しく揺らし、そのまま頬を撫でる。春の陽気全開なひと時。クラスの空気は氷点下に差し掛かっていた。
2年生になってクラス替えがあるとは言っても、1週間も経てば、クラスでは自然とよく話すグループが出来上がっている。各々のグループで話に華を咲かせていたはずが、この男の一言、いや2回言ったから二言かもしれない発言により全て中断され、しんと静まり返った教室。
興味の対象が俺とハカセに全集中していた。
みんなが俺達に注目しているのがわかる。変な奴に絡まれた時の対処方法についての実践練習としてだろうか。
「俺は、興味ないなぁ」
少し震える口から出たのはそんな言葉だった。
「俺は、お前に興味がある‼︎」
あれ、こいつ同じことしか言わないな。求められている回答をしないと先に進まない的な?
「えっと、俺今告白されてたりする?」
そう言うと、ハカセは右手の甲を顎に当ててすこし悩んだ後、答えた。
「違う……いやある意味では違わないか」
「ヒェッ……」
背筋が凍る。春なのに脚が震えて来たんだが。俺マジで告白されてんの? 一目惚れされちゃったの⁉︎ 男に⁉︎
「神崎、そっちの気があったのか……」
誰かが不意に呟くと、俺とハカセの関係を考察する声が波紋のように広がっていく。まずい、この流れはいかん!
「待ってくれ!」
バッと勢いよく立ち上がり振り返って続ける。
「みんな誤解している! 俺はノーマルだ!」
「必死に弁解すると逆に怪しく見える現象ってあるよな」
隣の佐伯が面白がって茶々を入れる。
「違うわ。第一、なんで俺が疑われるんだ⁉︎ 先にとんでもないこと言ったのはそっちだろ⁉︎」
ビシッと諸悪の根源を指さす。
「俺は何かとんでもないことを言ったか?」
「自覚ないんですか⁉︎」
「俺はお前に興味があるのは本当のことだからな。強いて言えば、お前と言う男に興味がある」
「その言葉はより誤解を生むからやめろ!」
「俺はお前に興味がある。それにどこに誤解する要素がある?」
「おおおおおおん? お前は本当に男が好きだったのか⁉︎」
「は? 違うが?」
なんでそこでムッとした表情をするんですか?
「俺は人としてお前に興味がある。そこに恋愛感情が何故出てくる?」
「誰か、誰か助けて‼︎ 俺の手には負えないんだ!」
佐伯、目を逸らすな。お前が一番近くにいるんだぞ! お前ら、さっきまでの興味はどうした。なぜ普通に談笑しているんだ?
誰か助けてくれえええええ。
心の慟哭を察してくれたのか、4時間目開始のチャイムが響く。
「授業か。まあ目的は達した」
一人満足気に、ハカセは自分の机に戻って行った。
春の嵐。ここに発生したり。
「いやはや面白いね〜」
脱力する俺に、斜め後ろに座る篠宮がニコニコしながら語りかけてくるのだった。俺は全く面白くなかったぞ。
回想終わり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます