ナイスな大豆Days

欧流 内斗

ナイスな大豆Days


ハードワークな1日を終えて俺はアメリカ人の同僚と共に居酒屋へ寄った。


俺の行きつけの店で、落ち着いたいい雰囲気と可愛いお姉さん店員のいる、穴場居酒屋である。


聞くところによると西洋では、レストランの様に食事だけ、とかバーやパブの様に酒類が主でツマミが付け足しみたい、とかばかりで居酒屋の様に豊富な酒類と共に豊富すぎる種類の料理を注文出来る店がないらしい。


初めて来た居酒屋の雰囲気に興奮気味のボブを宥めながら、取り敢えずビールと枝豆を注文した。


くーっつ、やはり、仕事明けのビールは格別ですなぁ。


「ヘイ、ジュンイチ!

このエダマメってヤツは旨いな。

アサヒのビールと完璧なハーモニーを奏でているぜ。」


サムアップしながらボブがのたまう。


「ちなみにコイツは何のマメなんだ?」


「大豆だよ。大豆が熟する前に採って茹でたのが枝豆なのさ。」

などと説明したところで店員のオネーサン登場。


「失礼しまーす。

冷奴をお持ちしましたあ!」


恭しく目の前に置かれた冷奴を見てボブの瞳が鋭く光る。


「む、こ、これが、、、。

食べ応えがあってカロリー少なめだとアメリカでも人気の豆腐料理か。。。

ジュンイチ、豆腐って何から作るんだ?」


またか。溜息を吐きながら俺は答える。

「大豆が原料だよ。」


「おー、これも大豆か!

ジュンイチは物知りだな!

これはこのソイソース(醤油)をかけて食べるんだよなー。

んーーー旨い!」


本当に美味そうに食べ切ってから俺を見る。

展開の読めた俺はボブの機先を制して言い切った。


「醤油の原料も大豆だが、何か質問は?」


さあ、呆れただろう。

と、思って見ているとボブの反応は俺の予想の遥か斜め上を行っていた。


「ふむ、同じ材料の食べ物をバリエーションで作り分けて組み合わせる事でこんなに美味くなるとは!!!

恐るべし、日本の料理とは深い、深いぜよ。。。」


か、感動してやがる! どれだけポジティブに考えたらそうなるんだ?


そうこう言いながらメニューを漁るボブの瞳が怪しく光る。

どうやら彼の好奇心を掻き立てる料理をリサーチしたようだ。


「ジュンイチ、私はピザが滅法好きでね。

それを日本風にアレンジした料理を見つけて私の胸は高鳴っている。」


「滅法好き」とかどれだけ日本的表現に詳しいんだと内心ツッコミながら無表情に頷く。

「オーケイ、好きなモノを注文してくれ。」


不敵な笑みを浮かべて高々と手を挙げて奴は言い放った。


「オネーサン!注文オネガイシマース‼️

『厚揚げのチーズ焼き』をダブルでヨロシク!」


ご存知の方も多いと思うが、ビールが気管に入るとかなり苦しい。


まあ、水芸よろしくビールを噴き出さなかっただけいくらかマシだが咽せまくって本気で死ぬかと思った。。。。


この野郎、全部わかった上でやっているとしか思えない。


「オウ、ジュンイチ、こんなステキなオフタイムには焦っちゃダメね。

リラックスして飲まなきゃアサヒのドライに失礼ね、オーケイ?」


アホらしくなってノーコメントでいると、届いた厚揚げのチーズ焼きをパクつきながらボブの詳細を極めたレヴューが展開された。


「オーマイゴット!こ、これはまさにフードにおける、日本とアメリカのマリッジね!

こんなに完璧な異文化のハーモニーが存在するとは想像不可能ね‼︎」


おいおい、酔っているとはいえ大袈裟過ぎないか???

ていうか、ピザはイタリアだろうが、勝手に米国産にするな!!!


「そう、食感的にはピザ風の蕩けるチーズと焼いた油揚げの中に熱を通した豆腐を包んだ様な、、、、、、、、、??ジュンイチ???」


気付いた様だな、ボブ、お前の推理力は称賛に値するよ。

「オーマイゴッド! 何故かワタシこの居酒屋で大豆以外食べてない気がするネ?

ホワーイ⁉︎⁉︎」


ホワーイ、じゃねえ。わざとやってないか、お前??


それでも美味い美味いと感激しながら完食してのけた後、『甘納豆アイスクリーム』をデザートに注文した時はさすがに爆笑してしまった。


「もうね、大豆を喰らわば皿まで食うと決めたよ、オーケイ⁉︎」


それ、毒をくらわば、、、なんだがお前の覚悟はしっかり伝わったよ。


そして、先人達の並々ならぬ『大豆へのこだわり』が実感できた夜でもあった。


会計を済ませて居酒屋を出た後、不意に見上げた半月がなぜか大豆に見えたのは、軽い幻覚であったと思いたい。。。



                                        

                 ー 了 ー





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