掌編小説・『三分間』

夢美瑠瑠

掌編小説・『三分間』




掌編小説・『三分間』


           1 電話相談

 高名なスピリチュアリストのDR・若松氏は、特許取得数が、世界一という、発明家でもあった。

 彼は「科学とスピリチュアルの融合」という難しい課題について日々考え続けていて、何とか自分がキリストと釈迦とダーウィンとエジソンを、そうした偉人たちの資質を全て兼ね備えた「エヴァンゲリオニスト(福音伝道者)」に、なりたいと考えていた。

 優秀極まりない頭脳は底抜けなほどに前向きで、発想も明るくて、既に億万長者なのだが、何とかして人類に貢献したい、何とかして全ての問題をおれが解決したい、88歳、米寿になってもその情熱は相変わらずだった。

 残り少ない時間を有効に使うためには何をしたらよいか?

 彼は考えた末に、「DR・若松の電話相談」のダイヤルを開設することにした。

 それぞれの人に割ける時間は三分間、しかしその三分間で己(おのれ)の経験や知識、超能力や発明の数々の情報、そういうものを総動員して、相談者に逐一コミュニケートして、幸福にしてあげよう・・・

 そういうボランティアを始めることにしたのだ。

<0120-558-391001>「ココハ サンクチュアリ」という番号にした。

 ネットニュースにも取り上げられて、もともと有名人だから、開始初日の朝9時から早速沢山悩み相談の電話がかかり始めた。

「もしもし、彼女に振られたんですがー」

「あーそー。まだ好きなの?あきらめられないならね、その原因を探りなさい。容姿か?経済条件か?性の不一致か?そうして思い当たる原因をね、合理的な発想で解決して、それから再アタックしなさい。分からなければ彼女に訊けばいい。

 聞くは一時の恥です。まごまごしてるうちに人生なんてすぐ終わっちゃうからね、積極的に行動しなくちゃだめだ・・・」


・・・こういう調子で一刀両断に凡人たちの悩みを斬り捨てる「お悩み相談」は

大評判、大好評になって、博士の数々の「発明品」にも再びスポットが当たって、

カルト的なブームになった。

 

 さて、しかし?


        2 奇跡

  「もしもし、あーやっとかかった。DR:若松さんだね。本物のスピリチュアリスト、オカルティストで発明家、ハーバード大学の「最も賢い人物」ベストアワードを何度も受賞している折り紙付きの一流人士、間違いないね」

「ああそうだ。あんたはいったい誰だ。悩み相談は3分間、ウルトラマンじゃないけどその間に決着しなきゃならん。急いでくれ」

「おれたちはテロリストだ。破壊活動も辞さない過激派だが、究極的には全世界の同時革命、民衆の解放、現状国家の最終的徹底的な破壊、殲滅が目的だ。信じられないかもしれないが、宇宙人の援助を今度取りつけた。エイリアンも地球の現状を憂慮している。できたら何らかの方法で根本的な人類全体への意識革命を起こして、速やかなオーヴァーロードへの権力の移譲を図りたいらしい。

 時間が無い。

 この電話はあらゆる電波網、通信網、全人類の意識閾に到達する電磁デヴァイスに

サブリミナルにメッセージその他を送れるように設定されている。

 あなたの能力は調査済みで、可能性を検討すると、この電話を使うのが最も安全で効果的だという結論が出た・・・」

「ちょっと待て。ここは精神病院じゃないぞ。妄想を言いたいならそっちのドクターの方に・・・」

「三分間が過ぎたらいつつながるか分からない。信じろ。あんたの科学的、超常的な知見や能力を総動員して、世界に革命を起こしてくれ。終末時計は100秒を切っている。全人類の意識を変革するんだ。最終的なエヴァンゲリオニストになる最後のチャンスだ。エイリアンとて不死身でない。既に電話は傍受されていて、権力の魔の手は迫っている。一度だけ試みてくれ・・・」


「うーむ。そういう話は嫌いじゃないんだ。よろしい。信じてやろう。世界に革命を起こしてやろう!」


 DR.若松は受話器に向かって、「聴く人の意識を完全に受動的にする特殊な呪文と念波」を20秒送った。タブラ・ラサになった心に、「平和」、「愛」、「共生」、「国境の撤廃」、「国家と貨幣の撲滅」「兵器の消滅」、「戦争の放棄」・・・

・・・その他あらゆる「ポジティヴでデモクラティックな観念、ジャンジャック。ルソーその他の無政府主義者の思想」を送り込んで、完全に洗脳しようとした。

 三分間は過ぎようとしていた。

「私は信じていない。だがベストを尽くした。あんたのお伽噺に乗ってやった。

妄想がこれでやんだらいいと思ってな。それじゃあ、お大事に」


 ・・・しかし、電話は妄想ではなかった。


 一瞬にして全世界の人間は政府や権力を嫌うアナーキストとなり、日を経ずして世界中の政府が倒れて、強力な超能力を持つエイリアンたちが管理する社会になった。

 それは完全に平等で平和なコンピュートピアで、「エイリアン革命」の立役者となったDRには、イグのつかない本当のノーベル平和賞が贈られた。


 この「三分間革命」のあと、戦争、殺戮、紛争、犯罪塗れの従来の三面記事的な「歴史」は事実上終焉して、幸福と平和のユートピアが築かれていく牧歌的な道程が、「神話」めいたポエムで描かれていくようになった。


 破滅しかけていたエイリアンの星の同胞たちが移住を求めてきたが彼らは全く平和主義的で友好的で、地球人たちももはやこうした「異星の客」を嫌わない寛容な精神状態になっていた。


 地球は再び「エデンの園」になっていくであろう・・・




<了>


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