第184話 熱闘!関東大会 その8

「ちょっと、そこのカボチャ取ってよ」と遥。


「これ、まだ、煮えてないんじゃないのか?」と司。


「莉子ー、おかわり頂戴」と翔太。


「翔太君、七味いる?」と莉子。


「お肉もっと入れてよー」と拓郎。


「お前、肉ばっか食ってんじゃないよ、もっと野菜食え野菜」と武ちゃん。


「ご飯お代わりー」と順平。


「お新香も下さーい」と翔。


「ってか、これ、うどんなん?」と優斗。


「うどんってか、ほうとうだ」と俺。


 今はホテルの宴会場で全国大会出場のお祝いを兼ての昼食会。


 っていうか、昼飯で山梨名物のほうとうを食べているだけなんだけどね。


 クタクタに煮込まれたみそ味の平打ち麵が食欲をそそる。


「暑いときに、また熱いほうとうってのがいいねー」と親父臭い事を言う武ちゃん。


 汗を拭き拭き、かれこれもう3杯目だ。


「ってか、可哀そうだったね、韮崎中の人達」と莉子。


「本気で戦ってたんだからそういう事言うなよ」と順平。


「でも、韮崎中の人達も、普通に戦ってたら、こんな風になって無かったよね」


 結局試合は7-0で八西中が勝ち、関東大会第七代表の座を手に入れた。


「別にこの試合に勝ったからって、八西中が韮崎中よりも優れているって訳じゃない。向こうは三試合全てに勝ちに行こうとし、俺達は三試合のうち一勝を目指しただけの違いだ」


 憮然とした表情で司。


「でもなー、なんか後味が悪いというか」と竹原さん。


「それでしたら、こんな、24時間で3試合も戦わせる運営の方に文句を言った方がいいですよ。真夏に24時間以内に3試合、しかも全国大会の代表を決めるような強度の高い試合を育成年代にさせるだなんて、いつ故障してもおかしくないようなスケジュールですよ。育成年代の選手にさせるスケジュールとは到底思えません」


 司はそう言うと、明らかに不機嫌そうな顔をして、ほうとうをかっこんだ。

 

 俺達がいた2022年、全日本柔道連盟の山下泰裕会長の判断により、小学生の柔道の全国大会が廃止されることになった。


 理由は、「行き過ぎた勝利至上主義が散見される――」という事だった。


 その考えは、サッカー界にも伝わって来た。


 そもそも、育成年代の小学生や中学生に日本一を決める意味はあるのかと。


 しかもタイトなスケジュールによって明らかに体を酷使するような環境下に置いて……バーンアウト症候群、スポーツ障害、ネガティブな要素は数多とある。


 その一方でプレイヤーとして日本一を目指すという魅力には抗いがたい。


 でも、やはり、一日に三試合をしなければならないようなスケジュールなら俺はやらない方がいいと思ってしまう。


 コンディションの管理もフットボールの一部と言われれば返す言葉も無いが、そもそもプロのフットボーラーだって公式戦を一日に三試合させることなど無いのだ。


 プロのクラブならせいぜい一週間に二試合が限度だ。


 体がまだ出来上がってない育成年代の選手にそれ以上の負荷をかける意味を出来たら俺に教えて欲しい。


「なあ、お前ら、体どこか痛めたところは無いか?」


 司が心配そうにみんなに聞いてくる。


「大丈夫ー」と拓郎。


「元気、もりもりやでー」と優斗。


 ほっとした表情をする司。


 すると、「関沢先生、この後って閉会式出ないといけないんですか?」


「いや、閉会式にはこの後に行われる決勝の二チームが出ればいいだけだぞ」と関沢先生。


「だったら……この後の決勝は見ないで、ホテルのプールで羽を伸ばしませんか?」と司。


「えっ……プールかー」と関沢先生。


「試合見るよりプールの方がいいー」と拓郎。


「でも、お前ら、水着持ってきたか?」と関沢先生。


「もっちろーん」とみんな。


 ホテルにプールが備えているので泳ぎたい人は水着を持ってくるようにと伝えてあったのだが、やはり全員持って来ていた。


「夏休みに入ってから、ずーっとサッカーだったから一日くらいはいいわよねー」と遥。


「一日っていうか半日だけどね」と弥生。


「僕水着持ってきてないよー」と春樹。


「大丈夫だよ、そこの売店で売ってたから後で一緒に買いに行こう春樹」


「やったー!!」

 

 夏休みのほんの合間のひと時、みんなは明日から全国大会に向けて練習が始まる。


 そして俺と司は週末のリーグ戦に向けてクラブが始まる。


 たまには、こういう日もあってもいいよな。


 これだけ全てをフットボールに捧げているんだ。

 

 フットボールの神様も少しくらいお目こぼしをしてくれるだろう。


「おかわりー!」


「おれもー!!」

 

 食欲魔人、成長期真っ最中のフットボーラー達はおかわりをもらうため、自らの頭上にお椀を高く掲げた。

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