第164話 タイタン オブ チャイニーズ その2
……二日後、
対中国戦、の前に行われた韓国対香港戦をチームのみんなとVIPルームで見る。
相変わらず空調は万全で空気清浄機も快適です。
チームのみんなはドリンクバーでアクエリアスやらオレンジジュースやらコーヒーを飲みながら、あーだこーだ言っている。
「うわさのファン・ソンミン君のおでましやでー」と堂口君。
「今日は韓国が赤で香港が白なんだ」と和馬君。
「いいなー、セカンドユニフォームがもらえてー、監督ー僕達もセカンドユニフォーム下さいよー」と翔馬君。
「そうだ、そうだー」と川崎の4人。
「がんばって次の大会でも呼ばれたら渡せるよ」と監督。
「ブー」とあちこちから監督へのブーイングが上がる。
そんな感じで韓国からのキックオフ。
香港は早々に自軍に引っこみブロックを敷き、ファン君にマンマークを付けている。果たしてどこまでしのげるのでしょうか。
すると、ファン君はトップ下にポジションを移してゲームメークに勤しんでいる。
ドリブルだけでなくこういう事も出来るのですね。
「なんでもできるなー、ファン・ソンミンは」と司。
そういや、ファン君って左ウイングも右ウイングもどっちもできるから、司が相手する可能性も十分あるんだよな。
俺は心の中で、日本戦はどうぞ右ウイングにポジションをチェンジしてくださいとお祈りした。
すると、司が俺の心の内を見透かしたのかギロリと睨んでくる。
こういう所がおっかねーんだよなー。
すると、フォワードに出したパスがファン君の足元にリターンされると、右サイドから切れ込んで、香港のゴール左隅にシュートを叩きこんだ。
ゴラッソー!!
「うわー、早速決めてるじゃん」と田中君。
「今日は何点取られるんだろ」と三芳君。
「ってか、今のシュート左足で蹴ってねーか?」と岩山さん。
「ああ、そういや、ファン・ソンミンって両利きらしいぞ」と以前ウィキペディアで知った知識をひけらかす司。
「なにー、あの精度で両利きだぁー、どういうこっちゃ!!」と衝撃を隠せない富安君。
頑張って押さえてね。
その後もファン君は左サイドからゴリゴリ、右サイドからゴリゴリ、トップ下からゴリゴリと、前半のうちのハットトリック達成で後半はお役御免。
後半に入ると香港も盛り返すが、点を取るまでにはいかず、時折繰り出す韓国のカウンターが効果的に決まり終わってみれば7-0で韓国の勝利となった。
「多分、日本戦に合わせて体力を温存してるんだろうな、ファン君」と司。
「アレと、前後半がっつり対峙しなきゃなんねーのかよ」とうんざりした顔で岩山さん。
「ともかく、午後の中国戦、しっかりと勝ち点3をもぎ取りましょう」と大竹さん。
「そうだ、まずは目の前の敵に集中しよう」と森田さん。
すると韓国ベンチにいたファン君が俺達がVIP席で観戦していることに気が付いたのか、暢気に手を振ってくれた。
俺達もお返しに手を振り返す。
さあ、しっかり飯食って中国と戦いますか。
昼食はすぐにエネルギーに変わる炭水化物中心の食事を軽めに取り、いよいよ中国戦。
フォーメーションは基本の4-2-3-1でメンバーは香港戦と同じメンツだ。
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中国の選手が入場してきて互いに並ぶと、最初は中国の国歌を、次に日本の君が代を歌う。
試合の前に「君が代」を歌うと気持ちにスイッチが入る。やはり国を代表しているという気持ちが心の奥底から湧いてくるのだ。
そしてそれぞれのポジションに着いた時に中国の異変に気付く。
なんとヤン・ミン君がセンターサークルにいるのだ。そしてすぐそばには泣きそうな顔して翔太がいる。
こうして見ると、ヤン・ミン君、190cmありそうだね。150cmそこそこの翔太とはまるで大人と子供(しかも幼稚園児くらい)の差を感じる。
「神児くーん」となぜだか俺に助けを求める翔太。
安心しろ、ヤン・ミン君がフォワードだとするとお前とマッチアップはしないから。
そして、中国のキックオフで試合は始まる。
すると、中国はセンターバックまでボールを戻すと、一気に前線に放り込んできた。
ボールを競り合う岩山さんと富安君。でも、ヤン・ミン君の方が明らかに頭一つ、いや、下手したら二つ分飛び抜けている。
岩山さんも富安君も背が低いわけではないが、なんせ、まだ発達途上の中学生。それぞれたしか175cmくらいだったと思う。
そう考えるとヤン・ミン君はやっぱ190cmはありそうだな。
幸いキックの精度がよくなかったおかげで富安君と岩山さんに競り勝ってヘディングシュートを打つが、GKの大和田さんがキャッチしてくれた。
ファーストシュートは中国に奪われてしまった。
すると、中国チームは前線にヤン・ミン君を一人残して全員でベタ引き。
分かっていたこととは言え、ここまで徹底されるとさすがにやりずらい。
攻撃はヤン・ミン君の頭目掛けてロングボール、そして守備はファイブバックでゴール前をガッチガチに固めている。
こういう攻撃をされると、やはりどうしてもディフェンスラインが間延びしてしまう。
すると、日本のお得意のショートパスを回した攻撃が機能しなくなってくる。
そして横パスで狙われて、ヤン・ミン君に縦パス一本。
すがすがしいまでのアンチフットボールで仕掛けてくる中国。
ここまで徹底されると、ある意味尊敬してしまう。
ボールがタッチラインを割った時に司と話をした。
「考えてみれば、韓国との後半は中国が勝ってるんだよな」と司。
「ああ、そうだな、ファン君いなかったら、あの試合中国の勝ちだろうな」と俺。
ここで、今一度、頭の中でネジを巻き直して認識を改めなければならない。
代表としてのゲームの入り方を間違えてしまったが、中国は強敵なのだと。
そして、日本が最も苦手とする縦パス一本のアンチフットボールを仕掛けてきたことを。
「どうする、司、点の取り合いに持ち込むか?」俺は司に尋ねる。
俺と司がオーバーラップを仕掛け乱打戦に持ち込むこともできる。
「いや、しばらくは様子見だ。中国も韓国に劣らずのラフプレイを仕掛けてくるからな」
そうだ、韓国の荒いサッカーに目を奪われがちだが、中国も少林サッカーと揶揄されるラフプレイを仕掛けてくるチームなのだ。
そうなってくると、DFラインが間延びしたゲーム展開になり、あちこちに広大なスペースが生まれてくる。
しかし、今の日本にはこの状況を得意とする絶対的なドリブラーがいる。
さあ、翔太、お前の出番だぞ。
そっちがヤン・ミン君の縦ポン一本で来るなら、俺達も翔太と堂口君を徹底的にワイドに張らせて、前の三人で崩すとしよう。
幸い、日本には北里司という高精度の長距離砲があるのだから。
中国のロングボールを回収するとすかさず司に預け、糸を引くような正確なフィードで翔太の足元目掛けて放り込む。
中国のDF陣も翔太に付きたいのは山々だが、翔太にマークを付けると、対角の堂口君に司のピッチを切り裂くようなサイドチェンジが展開される。
だんだんとヤン・ミン君が前線で孤立し始めると、仕方がないと言った感じで、徐々に下がっていく。
司の詰将棋のような戦略で、確実に日本のボール保持率を高めていくと、ついに前半の25分、マークのズレた中国ディフェンス陣に翔太のドリブルがさく裂した。
一瞬で敵センターバックを振り切ると、あっという間にゴールキーパーと1対1。
相手ゴールキーパーは体を投げ出し必死にシュートコースを防ごうとするが、翔太は冷静沈着に飛び出してきたキーパーを外すと、走り込んできた南君にラストパス。
南君は無人のゴールに流し込む。
日本は待望の先制点を手に入れた。
前半25分、日本対中国は1-0となる。
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