第154話 フットボーラー補完計画 Ⅳ その2
「おいっ!プレスに行け、プレスに!!」と順平。
「そんなこと分かってるって、それよりコース絞れコース!!」と西田さん。
「だからもっと体寄せろって!体!!」と大輔。
「キーパーブロックー!!」と拓郎。
「あーあーあーあー」と武ちゃん。
山下君達のコンビプレイにDFラインをズタボロに切り裂かれる八西中。
「いやー、間近で見てるとエッグイなーあれ」と健斗。
「うん、息ピッタシだよね、山下君達」と翔太。
「こりゃ、後期のリーグ戦もやっかいだなー」と司
「何気に二人でディフェンス嵌めるのもうまいんだよなー」と俺。
シュートを決めた山下君達は気持ちよさそうに二人並んで上半身だけ平泳ぎの真似をしながらスイスイと歩いてる。
あのゴールパフォーマンスされるとイラッとくるんだよなー。
拓郎たちが山下君達の実力を見てみたいってので、八西中のフラットスリーと順平VS山下君達で戦わせて見たのだが、うちの選手達、自信喪失しなきゃいいんだけれどなー……
先に5点取るか、5回カットされるかでやってみたのだが、うちの方が数的に優位なのに、5点取られたのに3回しかカットが出来なかった。
引き上げてくる拓郎達
「ダメだー、全然ボールに触れないのねー」と拓郎。
「なんか、トラップから次のプレイまでちょー速いんですけどなんで!?!?」と大輔。
「一回のプレイで何度フェイントしてくるのか訳分からん」と武ちゃん。
「全然素直にシュート打ってこない」と順平。
「全ての判断が段違いだ」と西田さん。
その一方で、納得いかない顔で引き上げてきた山下君達。
「ちぇー、三回もカットされちゃったよー」と翔馬君。
「いや、思ったよりも手ごわかったんで驚いた」と和馬君。
うん、なんとなくわかって来た。ちょっとお兄ちゃんっぽい発言が数馬君でワンパクな感じが翔馬君だ。どうなんでしょ!!
「ってか、今の練習面白そうだな、ちょっと俺にもやらせて見ろよ」と健斗。
「まあまあまあまあ」と司。「いや、今日の練習の目的は山下君達のトラップとフェイントを見てもらおうと思ったんだよ」
「ほほーう」と皆さん。
「トラップって俺達となんか違うのか?」と健斗。
「うーん、僕も気付かなかったなー」と翔太。
「確かに山下君達のトラップって足に吸い付く感じなんだなー」と俺。
「じゃあ、とにかく見てみよう。山下君、いいかな?」
「おっけー」
するとみんながぞろぞろと山下君達を囲みながらパス練習を見る。
「なんか、こんなにたくさんの人たちに見られると緊張するなー」と和馬君。
「えっ、なんか、スターになった気分がして気持ちいいじゃん」と翔馬君。
なるほど、性格の違いが段々と分かって来たぞ!って、見るのはそこじゃないって。
1年生たちが「おおおー」と思わず声を上げるくらいのスムーズなパス練習。こりゃ、司よりも上手いんじゃないのか?と思ってしまう。
しかしそれ以上に目を引くのはトラップの巧みさだ。本当に足元にピタッ、ピタッっと収まるのだ。しかも、トラップする足はほどんど動かしていない。
どういうカラクリだ、コレ!!
通常ボールをトラップするときはトラップする側の足を持ち上げて、ボールが来た瞬間に土踏まずでボールを迎えるように足全体を脱力するのだ。
それなのに、山下君達は別段、足を持ち上げる素振りも見せず、脱力をしている感じもしない。
「どういうこっちゃ、司、コレ!!」
「うーん、訳分かんない」と翔太。
「優斗はどうだ?」と司。
「……なんか、昔、フットサルで見たことがある」……と。
「あー、このテクニック、フットサルの選手が使ってたりもするか」と司。
「なんだよ、司、勿体ぶらずに教えろよ」と健斗。
「じゃあ、ちょっといいかな、和馬、ボール貸して」と司。
「おっけー」そう言って司にボールを渡す数馬君。
えっ、司とはもう名前を呼び捨てで呼ぶ仲なのですか?聞いてないですよ!?
「合羽(あいば)、ちょっといいかな」とそばにいた1年生に声を掛ける司。
「はい」とちょっと緊張しいしいの合羽君。
司は合羽君にボールをパスすると、「俺にゆっくりボールを蹴って」とリクエストする。
「は、はい」と返事して、慎重にボールを司に渡す。
「ふつう、ボールをトラップするときは足の土踏まずでトラップするだろ」
司はそう言いながら合羽君の蹴ったボールを確実に右足のインサイドでトラップする。
「うんうんうん」とみんな。
「ところが」司はそう言うと、合羽君にボールをわたし「もう一回いいかな」「はい」
ボールがコロコロ転がって来る。
「山下君達がトラップするのは土踏まずじゃなくて、親指の付け根、母指球の横で受けるんだ」
そう言うと、右足の親指の付け根の横でボールをチョンとトラップする。
「はぁ!!、な、なんで、わざわざそんな取りずらいところでボールをトラップしなきゃなんねーんだよ」と取り乱した感じで健斗。
「それはな、健斗、こういうことだよ」
司はそう言うともう一回ボールを合羽君から蹴ってもらい、ボールをトラップする瞬間にクイッと器用に足首を回転させる。
「分かったか?」
「マジかよ」と顔を引きつらせる健斗。さすが理解力はハンパないビクトリーズU-14のキャプテン。
「なになに、どういう事!!」と拓郎を含めほとんどの選手たちがわかんないようだ。
「つまりな、トラップする足全体でボールの威力を吸収する所を、足首を曲げるだけでボールの威力を吸収するんだ」
「げっ、そんな事、出来んのかよ」と武ちゃん。
「今、山下君達がやって見せただろ。悪い、もう一回見せてくれない?」と司。
すると、タネがバレた手品師のように幾分気まずそうな表情になりながら、
「なーんだ、バレちゃってんじゃん、和馬」そう言いながらボールを蹴る翔馬君。
「まあ、でも、バレたからって別にどうだっていいだろ」と和馬君。
たしかに、トラップのタネがバレたからって試合をするにおいて別に不利になるようなことは何も無いもんな。
さっきと同じように、相変わらず小気味よくボールを蹴り合う山下君達。
確かによーっく見ると、足の先っぽを使ってトラップしているのが分かる。
「こんなん、出来んのかよ」
「ってか、実際やってんじゃんか」
とざわざわと周りで声が上がる。
「まあ、でも確かに、足首だけでボールの威力を吸収出来たら次の動作に素早く移れるわな」と健斗。
「でもー」と拓郎。
「これ、ちょっとリスキーすぎるだろ」と西田さん。
そりゃ、そうだ。これまでは土踏まずという面でボールをトラップしてたのを、母指球の付け根の横という点でトラップすることになるのだ。
ちょっとでもズレたら、トラップミスに直結してしまう。
「もちろん、DFラインのパス回しでこんなリスキーなことする必要はないさ」と今まで通りのトラップを見せる司。
「そ、そりゃ、そうか」と真人。
「これは、ペナルティーエリア内とか、ここ一番の時に使うトラップだ。敵が来ていないときはセーフティーに今までのトラップを使えばいいさ。
でも、テクニックの引き出しの一つに入れておいてもいいよな。特に優斗、お前にはな」
「う、うん」と頷く優斗。
きっと優斗は瞬時に理解したのだろう、このテクニックを一番必要としているのは自分なのだと。
そして、自分のためにわざわざ司が山下君達をここまで呼んできてくれたのだと。
もし、トゥーキックと母指球横のトラップというテクニックを手に入れたとしたら、稲森優斗というフットボーラーは一体どのように成長するのだろう。
「さあ、練習を始めるぞ」司が言った。
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