第139話 Jヴィレッジにようこそ!! その7

 最終日の練習では、司が監督に頼み込んで朝一番から5バックのラインコントロールのトレーニングを行っている。


「板谷、もっと早く!!山下の動きをよく見て」

「はい!」


「もっと、小刻みに上下動を繰り返す」

「はい!!」


「山下に合わせるんじゃなくて、DFラインが主導になってラインを動かす」

「はい!!!」


 司のスパルタ塾の開校だ。監督もコーチも興味深げに見守っている。


「なあ、鳴瀬、アイツ、クラブでもこんな感じで教えてるの?」と高柳監督。


「いや、クラブってよりもうちの中学の部活を教えてますね」


「へー、部活にも顔出してるんだ」


「はい、ほどんどが小学校の時からの仲間なんで、クラブで習った練習とかすぐに部活で試してみるんですよ」


 まあ、実は、前の世界で習った練習法とかの方がメインなんですけれどね。


「へー、真面目なんだなー」


「まあ、奴の最終的な夢は日本代表の監督になってワールドカップで優勝することですから」と司の夢をちょっと大袈裟に盛って話してみる。


「ヤバイ、ヤバイ、オレ失業しちゃうじゃん」そう言ってケラケラ笑う監督。


 すると、「おーい、神児、ラインに入ってくれー」と司。


「オッケー」


「じゃあ、ちょっと、神児に、最終ラインに入ってもらいますので、室田さん、神児の動き、よく見ててくださいね」

「了解」


 そんな感じで5ラインのコントロールを徹底的に叩き込む司。

 


 それが終わると、三苫君や山下君達にお願いしてディフェンス対オフェンスのミニゲームを始める。


 スムーズなマークの受け渡しの練習だ。


 午前中の練習が終わるまであと1時間、さて、一体どれだけディフェンスの精度を高めることが出来るのか、北里コーチの腕の見せ所だ。


 ちなみにそれ以外のメンバーは監督とコーチの考えたメニューをこなしている。


 しかし、その間もちょくちょく、監督、コーチ、そして選手のみんなも興味深そうに司の考えた練習をちらちら見ている。


 まあー、そりゃー、そうだろう、今やってる司の練習、2021年にチェザーレ大阪が川崎フリッパーズの快進撃を止めた時のDF方法だもん。


 まだこの時代には発明されてない。


 5バックはゾーンで守って上の4枚はマンマーク、逆サイドが来てなかったら、DFラインの端の1枚が上にあがって4-4のブロックを作って4-4-2なる可変システム。


 そこでボールが刈り取れれば一気に翔太と堂口君にロングカウンター。


 はてさてうまくいきますことやら。


 まあ、その前にいろいろと仕掛けがあるんですけれどね。


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330664161219557


 午前中の練習が終わるとシャワーを浴びてリフレッシュ。


 クラブの練習でも午前と午後の合間にシャワー浴びたいなー。まあ、その分着替え持ってくるのめんどくさいんだけれどね。


 お昼ご飯はトマトのパスタにアボカドと鶏むね肉のサラダ、フルーツの盛り合わせにビシソワーズっていうジャガイモの冷製スープ。


 これおいしい、今度司の母ちゃんに作ってもらおう。


 さあ、決戦の始まりだ。



 U-15全日本VS青森大山田セカンド4本目!!


 高柳監督に頼み込んで、「最後まで柴崎君お願いしますね」と向こうの監督に頼み込んだら、なんと、4本目から出てくれたガッ君。


 もしかして、今日、3本とも出てくれるのかな?


 そんなことを考えながら、司の周りにはDFラインの5人衆が集まり、ガッ君のパスの出すタイミングをみんなで計っている。


 1本目の最後の方にはなんとほとんどのメンバーがパスの出すタイミングを合わせられるようになっていた。


 恐るべきは北里司、たった40分で柴崎学君を丸裸にするつもりか!!


 流石は前の世界で八王子SCのチーフアナライザーをしていた司。


 八王子SCに北里司ありと他のチームから恐れられたその分析力はこちらの世界に来てもまったく衰えていない。


 それともそれに合わせられるこの5人のDFもすごいのか?


 そういやお前って、昔っから人の弱みを見つけるのがうまい嫌な奴だったよな…………

 

 ちなみに結果は4-0の完封負け。恨めしそうに引き上げてくる山下君達。


「なあ、司、こんなんで、本当に奴らに勝てんのかよ」と数馬君。


「ありがとうございます。だいぶ柴崎さんのパスのタイミング分かりました」と司。


 昨日の自由時間のミーティングでは、みんなで話し合っているうちに、いつの間にか、この合宿で生き残って日本代表に選ばれることよりも、U-17キャプテンの柴崎さんのいる青森山田セカンドに一泡吹かせることの方に主眼を置くようになってしまった皆さん。


 なんかどうもすみません。


 20分の休憩の後、5本目、すると、俺と司がベンチから出る。


 相手チームを見ると柴崎さんが5本目も出てくる。まあ、最後まで出てくださいとお願いされたとあっては、U-17のキャプテンたるものおいそれと逃げるわけにはいかないってか……


 するとうちのチームも大竹さんがトップ下で先発だ。司を除くDFラインの4人はこの試合も見学しながら途中でゲームに参加する予定。


 では、5本目行ってみよー!!


 この試合5バックの一番右で出た俺のミッションはズバリ相手の左サイドバックのスタミナを削ること!!


 まあ、途中で居なくなってしまったらそれまでなんだけれど、そこはまあ、いろいろと考えています。


 さあ、楽しいフットボールを始めようじゃないか!!


 すると、5本目にもなると、青森大山田の寄せの速さにも慣れてきたのか、明らかに昨日よりもボールが回り始めたU-15のメンバー。


 予定通り、両サイドを徹底的に使って攻撃を展開する。もっとも俺は右サイドを駆けあがっても、よっぽどのチャンス以外はセンタリングを上げることなく、ボランチにボールを返して静々とDFラインに戻るのを繰り返す。


 反対側にいる三苫君が微妙な顔して俺のことを見ている。うーん、なんか嫌なこと思い出しちゃったかな。


 試合も中盤になると、明らかに息を切らせ始めた敵のサイドバックが

「お前、クロス上げるんならさっさと上げろよ」とクレームを入れ始めてきた。


 嫌ですよー、そんな数的不利な状況でクロス入れたところでカウンターの餌食になるだけなんだから。


 すると逆サイドでは三苫君がライン際をゴリゴリにえぐり続ける。


 おやおや、青森大山田の人達、1枚じゃ押さえきれなくて三苫君に2枚付けているすっごいなー。三笘君。


 しかし、三苫君も作戦通り、よっぽどチャンスじゃない時以外は渋々司にボールを戻している。


 青森大山田にボールが入ると、即座にリトリート(ゴール前に引いて)ブロックを作って青森大山田の攻撃に備える。典型的な弱者のサッカー。


 でもしょうがないじゃないですか、トップの代表だって、ブラジルやスペインと戦った時はこういう戦い方してたよね。


 大竹さんも柴崎さんにしっかりついて体力を削ることに協力してくれる。すいませんね、面白くもないアンチフットボールで……


 そんな感じでじりじりと時間だけが過ぎていく5本目、もしかして、このまま初勝利行けちゃう!?!?と思い始めた、後半の30分、


 コーナーキックからニアサイドに走り込まれてセットプレイで決められてしまった。ギャフン!!


 これなんだよなー、格上のチームとやると、十分わかっていたことなのに、どうにもならない身長差を使ってセットプレイで仕留めてくる。


 こういうことはこの先もよくあることだ。気を引き締めねば……と思ったら、すぐさま反撃、司ー三苫ラインで左サイドを突破すると大竹さんが詰めている。


 決めちまえーと思ったところでシュートブロックされ青森大山田のカウンター発動。


 いつの間にかセンターライン付近にいた柴崎さんが上がった司の裏のスペースに槍のようなスルーパスを出す。


 青森大山田はCBの二人を除いて全員がゴール前に飛び込んでくる。もちろん俺とこの試合散々かけっこをしてくれた左のサイドバックの人も。


 俺はここまで来て負けてたまるかと死に物狂いで付いてくると、ゴール前のラストパスをギリギリのところで体を入れてタッチラインに逃げれた。


 恨めしそうに俺のことを見つめる左サイドバックさん。


 ここで俺の最後のひと仕掛け、「俺、6本目も出るんで、白黒はっきりつけましょうよ先輩」と言ってニヤリと笑った。


 ギリギリと歯ぎしりをする音がここまで聞こえてきた。


 しかし、健闘むなしくこの後も互いに点を決めることが出来ず、5本目は1-0でまた負けてしまった。


 しかし、今までの試合で一番手ごたえがある。


 さあ、最後の一本、思いっくそ後味悪く青森に帰らせてあげちゃうぜ!

 

 ガッ君!!

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