第122話 フットボーラー補完計画 その2
練習がひと段落着くと、ポカリを飲みながら俺と司と優斗の三人で話す。
「とりあえず、今の練習、毎日やって」と司。
「毎日ですか……」と優斗。
「早朝でもよかったら俺も付き合うし、部活でも声を掛ければ誰でも付き合ってくれるから」
そういってふとグラウンドを見ると、優斗に触発されてか、あちこちでL字の練習をしている。
「……みんな、できてるんやなー」と優斗。
「これ、出来るようになったら、今度はダイレクトでも練習するからな」と司。
「これ、ダイレクトでもやるんですか」と優斗。
ふと見ると、拓郎と武ちゃんと順平が器用にこなしている。
「CBとGKなのにうまいんやなー」と感心している優斗。
「ゴール前の混戦でこそ生きるテクニックだからな。まあ、ボコボコの土のグラウンドだったらリスク背負わないでとりあえずクリアと言ってるんだけれど、それだけだとつまんないだろ」とポカリを飲みながら司。
「そういや、優斗、お前リフティング何回くらいできる?」と司。
すると、顔をパッと明るくさせて、「リフティングだったらまかせてや、何時間でも出来るで」と優斗はリフティングの妙技を俺たちに見せてくれる。
アラウンドザワールド、クロスオーバー、ミラージュ、レッグオーバー、最後はクラッチヒールでボールを止める。
「おおおおー」といつの間にか人だかりができてきた。鼻高々の優斗。なにわのガウショは伊達では無い。
「じゃあ、優斗、それ全部、左足でやって」といきなりの司の無茶ぶり。
「えっ、いやっ、あの……」そう、次々と難しいトリックを見せていたが、左足はツナギだけでほとんど聞き足の右足でやっていたのだ。
「じゃあ、ちょっと、交代」司はそう言うとボールを受け取り、優斗が今やったトリックを、左右の足でやってのけた。二の句が継げない優斗。
「言いたいことわかるよな」と司は言うと、優斗は何も言わずにこっくりと頷く。利き足に頼るなと言いたいのだ。
「これはどれくらいできる」そういって司は左足のアウトサイドでボールをリフティングする。今度は左足のインサイド、そして左足のインステップ。
司が優斗にボールを渡す。
すると、左足のアウトサイドのリフティングが3回も続かないうちにボールを落っことしてしまった。
周りのみんなからは、司は意地悪だなーと言った感じの空気。
「別にケチを付けている訳じゃない。どういう意味かって、こういう意味だよ。神児、頼む」
司はそう言うと、俺にボールを預けて、左サイドのタッチライン際を走る。
俺は司に合わせて、左足のインフロントでカーブをかけてパスを出すと、タッチライン際で、左足のアウトサイドでトラップしたボールを、そのまま自分の頭の上を通して、ボレーでシュートした。試合中にできればゴラッソだ。
「おおおー」と声が上がりパチパチパチと拍手が鳴る。
「別に最後のボレーはオマケだ。このプレーの意味分かるよな」
コックリと頷く優斗。「そうやってトラップすれば敵にボールを取られないから」
「ご名答」と司。そう言って足下のボールを優斗に返す。
「お前、右利きの選手だったら、左サイド走ることが多いよな」
「うん」と優斗。
確かに右利きのFWは左サイド、左利きのFWは右サイドに配されることが多い。その方がシュートコースが広がるからだ。
「まあ、右サイドになることもあるけれど、左右の足で出来ることに越したことは無いだろ。それに、左足でトラップできるとプレーの選択肢が広がる」と司はかつての自分に言い聞かせるように優斗に言った。
司が今言っていることは、前の世界で利き足が使えなくなって考え出したことだ。実感がこもっている。
「それに代表では、左には翔太がいる。お前は前ならどこでもできるくらいの覚悟でいた方がいい」
「……わかったで」と優斗。
この年代最高のフォワードと言われている翔太とプレーしている司だからこそ、言葉の重さがあるのだ。
司の一言一言を金言のように受け止める優斗。
「お前、両足でルーレットできるんだろ。訓練すれば、すぐにできるさ」と司が言った。
「ありがとうな、司君、俺、今日からでも左足でも右足と同じようにリフティングできるように練習するわ」と優斗。
「そういや、神児、お前はなにかあるか?」と司。
これ言っちゃうとアレなんだけれど……と思いつつ、優斗の方をチラッと見ると。
「大丈夫や、神児君、何でも言ってや、俺、頑張るさかい」と健気な優斗。
だったらしょうがない、俺も覚悟を決めて優斗に告げる。
「優斗、お前、ディフェンスゆるゆるだよ。サッカー舐めんなよ」俺は思いのたけの全てをぶつける。
まさか俺からこんな強烈なダメ出しをされるとは思ってもみなかった優斗。目を見開いて口をパクパクさせている。
「だいたいお前、なんでボールロストしたらそこで足止めるの?ボールを取られた者がファーストディフェンダーだろうがよ!!」
「はい」
「あと、シュート打って何ボールの行方眺めてるんだよ。お前は中村俊輔か!!詰めるんだよ、ゴール前に、テメーの蹴ったボール悠長に見てる暇あるんだったら」
ヤバイ、止めよう止めようと思っても言葉が止まらない。
「おいおい、神児、そのくらいにしとけ」司が言ってくる。
「だいたい、優斗、お前、うちの部活の練習でスライディング一回でもしたことがあるのか?」
「ないです」
「スライディングすれば取れるシーンいくつかあったよな」
「……はい」
「なんでしなかったの?」
「その……練習やから、そこまでせんといても」
「練習でできないものをどうして試合で出来るんだよ」
「その……ゴメンな、神児君」
やばい、やばい、俺の中のもう一人のトルシエが止まらない。
「お前はスターか?それとも優斗か?」
首をかしげる優斗。
「そのー、稲森優斗です」
「だったら、死に物狂いでボールを奪うんだよ。代表になりてえんだろ!!」
「はい」
「代表になるってことは、ドイツやスペインやブラジルと闘うってことなんだよ。おまえ、ブラジル相手にそんな緩い守備で勝てると思ってるの」
「おもってません」
「じゃあ、やれよ!」
と、そこで、いきなり司から頭をパコーン!!と殴られた。
「お前は誰だ?」と司。
…………アレッ?
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