第97話 U-15 その4

https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330664058943213


 大場さんにスローイングをお願いすると、俺は再びディクソン君の裏に走り込みボールを要求する。


 すると、まるで瞬間移動したかのように、追いついてくるディクソン君。そしてライン際でボールを取り合い、また、タッチに逃げる。


「おまえ、なかなかやるな」とディクソン君。


「どういたしまして」と俺。


 そして、相手のアタッキングサード付近までボールを運ぶと、ボールへのガードを緩める。


 途端に、ディクソン君の足がニュっと伸びてきて俺のボールを刈り取った。


「カウンター」と大場さんの大声。


 けれども俺はその声よりも前にディクソン君に体を預けながらライン際を並走する。


「お、おまえ、しつこいな」とディクソン君。


「褒めてくれてありがとう」と俺。


「別に褒めてないから」と言いつつゴリゴリとライン際を走るディクソン君。


 そして、自軍のアタッキングサードに入ると、「プレース!!」と声を上げ、俺と大場さんと沖田さんでディクソン君からボールを刈り取る。


 俺はディクソン君の足元にスライディングして進路を妨げながらボールをキープする。


 審判が注意深く俺のプレーを見つめている。でも、大丈夫、俺、ボールにしか行ってないでしょ、審判さん。


 最終的に、中央のCBの為末さんまでやって来てボールを奪うと、俺は、一瞬も足を止めずに、またディクソン君の裏のスペースにボールを要求する。


 さあ、ディクソン君、俺とかけっこしようじゃないか。どっちの足が先に止まるか勝負だ!!


 一瞬の間も置かず、俺はディクソン君の裏にできたスペース目掛けて全力疾走、すると、狙い通り、おっかねー顔してディクソン君がやって来た。


 さあ、今度はどこまでボールを運べるかな。


 どうやら、大場さんも沖田さんも俺の狙いに気付いてくれたのか、ディクソン君にボールをあててマイボールにすると、すぐさまスローイングをしてくれる。


 相手チームも、俺の意図が分かり、中央からディクソン君にフォローが来たその瞬間、俺は左足を思いっきり振り下ろして、矢のようなパスを翔太の足元に入れた。


 そんだけ、スペース空いてりゃ、決められるだろ、翔太!!


 左サイドにぽっかりとスペースを開けてしまった府中武蔵野FC。


 次の瞬間、翔太の稲妻のようなドリブルが発動すると、最後はキーパーまで交わしての3人抜きのゴールを決めた。

 

 なんだよ、翔太、今日、そんなに切れてるんなら、もっとさっさと決めとけ。

 

 してやられた感のディクソン君、奥歯をギリギリと噛みしめながら俺のことを睨みつける。


 いいね、サッカーやってるって感じがビンビン伝わって来るよ。


 と、「すげーな、神児、翔太のことずーっと見えてたの?」と大場さん。


「いや、さっきから、ずーっと暇そうにしてたんで、チャンスがあったらパスしようと思ってたんですよ」と俺。


 するといきなり首に腕を掛けられ「ナイスパス、神児」と今度は司。


「おお、お前か」と俺。


「よく見てたじゃん」と司。


「いや、てっきり、お前と翔太のコンビで崩すかと思ったら、一人で行っちゃいやんの、アイツ」


 と、そこで、「神児くーんありがとー」と翔太からのハグ。


「おう、後で、ポカリおごれよ」と俺。


「えー、せこいなー」と翔太。


 前半18分、東京ビクトリーズと府中武蔵野FCのスコアは1-0となった。


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330664059178500


 キックオフ直後、火の出るようなサイドアタックを仕掛ける府中武蔵野FC。


 ディクソン君の目の色が明らかに変わった。いいねー。本気出してるって感じがなかなかだよ。

 

 俺はボールには一切目をくれず、ディクソン君の視線と体の向きだけを注視する。


 別にいいのだ。ボールなど取れなくても。ディクソン君をこちらのサイドで足止めして、スタミナを奪えれば。


 そして、沖田さんがこちらにやって来た瞬間を狙って、ディクソン君のコースを防ぐスライディング。


 行き場がなくなったディクソン君はあえなく、沖田さんにボールを取られる。

 

 そんなことを何度も繰り返しているうちに、ディクソン君の目の色は変わっては来ているが、プレー自体は明らかに前半当初より切れが無くなってきている。


 そして俺にボールが入ると、ディクソン君を引きずりながら、ストップアンドゴーを繰り返しひたすらタッチに逃げるプレーを続ける。


 あんまりかっこいいとは言えないプレーだが、これもまたフットボールの一面だ。

 

 すると、いつの間にか、俺がフリーでボールを持てる回数が増えてきた。


 そして、この試合初めて縦の突破に成功すると、左足で綾人君にクロスを上げる。


 綾人君は胸でトラップしたボールをそのままダイレクトに右足でボレーする。


 教科書通りの地面に叩きつけるボレーシュートは、キーパーの手前で大きく跳ねるとゴールネットに突き刺さった。


 前半30分、東京ビクトリーズと府中武蔵野FCのスコアは2-0となった。


 キックオフ直後、それでもボールを要求するディクソン君。けれども、その意思に反して、プレーの切れはまったく無くなっている。


 そして、そんな状況のプレイヤーを俺達ビクトリーズが見逃すはずもない。


 ディクソン君にボールが入った直後、俺と沖田さんと大場さんでハイエナのように襲い掛かかるとあっけないくらいにボールを刈り取られたディクソン君。


 直後、フリーで逆サイドに張っている司にサイドチェンジ。

 

 すると司は、通常のサイドバックの動きとは違い、スルスルと内に切れ込みながら巧みにマークを外すと、あれよあれよという間にペナルティーエリア内に侵入する。

 

 そしてそこからお得意の左斜め45度、デルピエールゾーンからのシュートを決めた。


 前半32分、東京ビクトリーズと府中武蔵野FCのスコアは3-0となった。


 とどめは前半のアディショナルタイム。


 ドリブルを仕掛けたディクソン君を目掛け、俺は死角から今日一番のスライディングタックルが決める。


 反射的に審判にファールをアピールするがノーファールだと首を振る主審。

 

 まがりなりにもフットボールで飯を食っていた俺は、ディクソン君のそんな隙を見逃すはずもなく、即座にカウンターを発動させる。


 そして、そのままドンドンと内に切れ込み、思いっきりシュートをぶっ放してやった。


 残念ながらキーパーのファインセーブに阻まれ、得点にこそ結びつかなかったが、ディクソン君と府中武蔵野FCの選手達の心を折るには十分だった。 


 結局ディクソン君は前半終了と同時に交代。そして、前の試合から出ていた、俺も司も翔太もお役御免。

 

 結局試合も5-0でビクトリーズU-15の勝利となった。


 試合終了間際にどうにか出られた健斗だけがぶつぶつと文句を言っていた。 

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