第27話 Take me out to the BBQ (私を焼肉屋さんに連れてって)

https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330663826028477


 横森監督が、お座敷の上座に立つ。

 

 周囲には今か今かと待ち構えている、八王子SCのみんなと保護者の方々。

 

 テーブルの上には次々と料理が並べられる。

 

 みんな目をキラキラと輝かせるハラペコ戦士たち。と、なぜか、翔太までいる。おまえ、完璧に部外者だよな。


「みなさん、お疲れさまでした。」


「おつかれさまでしたー」とみんな。


「私は普段、サッカーしかやってないサッカー馬鹿ですが、こういう貴重な体験を味合わせてくれた皆様に、感謝の意味も込めてこの会を開かさせていただきました。」

 拍手喝さいのみんな。


「みんなで力を合わせて、何かを成し遂げるというのは、サッカーに限らず、今回のような水泳においても、私も、そして子供たちも学びを深めることが出来たと思います。」


「パチパチパチパチ」


「特に、夏場の体力を向上させるには、今回、ひと夏を通して、水泳に打ち込んできましたが、確かな成果があったと思われます。このことを糧に、来年以降も我が八王子SCでは水泳を取り込んだ体力向上のプログラムを取り組んでいきたいと思います。」


「パチパチパチパチ」


「また、今回は、私の考えなしの発言により、このような会を開かさせていただきましたが、その陰には皆様のご尽力が無ければ開けなかったことを改めてここで皆様にご報告と感謝の意をしたためたいと思います。」


 なるほどね、ここにいる保護者の皆様はスポンサーって訳だ。


 さすがにジュニアの監督の薄給じゃきっついよなー。いくら格安のみんみんと言えども。


「それでは、みなさん、乾杯の前に、特に八王子SCの子たちにいくつかの注意があります。よく聞いてくださいね」

 とたんに目がキラーンとなる横森監督。


「まず、肉はよく焼いて食べましょう」


「はーい」と今日一番の大声の順平。周囲から笑い声がこぼれる。


「二つ目、子供たちは全員、とりあえず、大盛ご飯を食べましょう」


「…………はい」


 みると、子供たち全員の前に既に大盛ライスが……


「三つ目、千切りキャベツは必ず食べましょう」


 でた、焼肉みんみんの名物料理、千切りキャベツ!!


 お皿一杯の千切りキャベツがお値段なんど100円なり!!

 いつもお世話になってます。あざーっす。


「そして、お肉は基本、ブリスケとハラミを食べてください。ほかの注文をしたい場合には監督である私の許可を取ってからにしてください。あっ、ここにある、ホルモンとかソーセージとかの500円以下のメニューに関しては、許可を取らなくていいですよ」


「はーい!!!!」


「やったー、僕、ソーセージ大好きー」と、春樹。


 ちなみに春樹の前には小ライスがちょこっと置いてあります。さすがにこの歳で大盛ライスは食べられない。


 まあ、こいつらにとっては、牛肉が食えりゃ、何でもいいんだ。


 上カルビや上ロースなんか食ったって、どうせ味の違いなんてろくにわかりゃしないんだから……


「では!!」と監督、


「では」と子供たち、


「いただきます!!」


「いただきまーーーーーーーーっす!!!」

 

 狂乱の宴の幕が切って落とされた。


「おにっくーおにっくー」と今日は水泳大会の途中からテンションが上がりっぱなしの遥さん。手早く小皿に焼肉のタレを注ぐと、トングで七輪の上に肉を並べ始める。


「かんぱーい」と言いながら、氷水の入ったジョッキで乾杯をし続けるテンションクライマックスの陸。


 肉が焼けるのを待ちきれず、キャベツの千切りをもりもり食べ始めている武ちゃん。


 そして、「あ、すみません、この牛筋の煮込み一つお願いします」と冷静に追加注文を入れる司。


「おばちゃーん、このお肉、おいしいねー」となぜだかここにいる翔太。


「……ってか、翔太、なんでここにいんの?」と俺が聞いたら、


「だって、翔太君だけ仲間外れじゃかわいそうじゃない」と司の母ちゃんが。


「大丈夫よ、翔太君の分は私がもう払ってるから」と暗にこの会のスポンサーは私よと言っている。


「おばちゃん、ごちそうさまー」ニコニコ顔の翔太。まあ、いいや、こいつはいつだってこのスタンスだ。


 そして、「ほんと、危なかったわよねー、リレー」と弥生が。


「神児があそこで足つってなかったら、どうなっていたことやら……」と莉子が。


 お前らは仲間どころか敵方だったやろ。とツッコミを入れようとしたら、一つ離れたテーブルで二人の両親がいた。


 ……どうも、お世話になってます。


 そして……「うっまーい」と順平が米と肉を飲み込むように食べている。おい、ちゃんと火を通せよ。


「これが、黒毛和牛ってやつかー」と涙流しながら陸が……


「やっきにくー、やっきにくー、ちょっと、アンタ、私がこれ育ててるんだから、とったら殺すわよ」とテンションアゲアゲで物騒なことを言う遥が……


「あ、すみません、この、温玉シーザーサラダってやつ一つ」とあくまでマイペースな司が……


 そんな感じであたりを観察してたら、


「おまえ、ちゃんと食ってんのかよ神児ー」と司が、勝手に注文した煮込みを俺に勧めてきた。


「これ、コラーゲンがいっぱいあっておいしいんだよなー」

 

 実は、前の世界でも、焼肉といったらみんみん。

 選手時代から司ともども大変お世話になっております。

 ここの石焼カルビカレーのチーズトッピング、大変おいしゅうございます。


「すみませーん、ライス大盛おかわりー」ブルトーザーのような食欲でライスのお代わりをする順平。その前には空いた肉のお皿が重なり合ってる。


 肉、ご飯、肉、キャベツ、肉、ご飯、と決まったリズムでたんぱく質と炭水化物を胃袋の中に流し込んでいる。


 結局アスリートってのは食ってなんぼだと体現する俺たちのGK。


 その一方で、一枚一枚の肉を丁寧に育て上げながら、しっかりと味わって噛みしめる、修行僧のような雰囲気で焼肉を食す武ちゃん。

 

 さらには、肉一枚食べるたんびに、心の底から感動している陸。


 焼肉の食べ方ってのは三者三様、様々だ。


 そして、遥は遥で、黒毛和牛のハラミをたいそう気に入ったのか、それだけを食べ続けている。おい、お前、それ、一体、何皿目よ。


 莉子と弥生は二人してきゃっきゃうふうふ何相談してたと思ったら、とんでもない大きさのハニートーストがやって来て、目が点になっている。


 おい、お前ら、それ、全部食べきれよな!


 司はというと、「うーん、じゃあ、そろそろ、締めの冷麺かなー」とメニューを見ながら店員さんを呼んでいる。


 っと、一番離れている、大人たちの席では、既に酒盛りが佳境に入ってる。


 あれ、クライマーさんの前に一体何杯のジョッキがならべられているのか?さすがビールの国の人なだけある。


 焼肉とビールって合うよね!!


 それに付き合わされて、横森監督もグテングテンだ。

 こりゃ、締めの挨拶なんかできそうにないなー。


 と、ここで、司が、

「おい、ちゃんと食ってるか?」と、


 そりゃ、ちゃんと食ってますよ。司さんとみると、司は冷麺をつるつるっと。


 逆に、「おまえーこそ、ちゃんと、肉食ってるかよ」と俺。


「はいはい、ちゃんと食ってるよ」そう言いながらも、一人だけ、サラダに煮込みに冷麺にと、スマートに焼肉を一人楽しむ司上司。


「ってかー、なんやかんやいって、楽しかったなー水泳大会」


「ああ、おかげさんで、全国大会いけなくっても、こうやって、いろいろ経験できたし」


「えっ、なに、全国大会行けなかったこと、なんか責任感じちゃってんの?」と俺。


「んー、ってかさ、こいつら、全国大会行ってたら、その分の経験ってのを得てたわけじゃん」……ここで、デリケートな前の世界の話になる。


「まあ、それを、今回は俺たちがあげられなかったわけだし……」そういって、いつの間にか追加注文していた野菜スティックをぽりぽりぽりぽり。


「今回の水泳大会はその代わりってか?」


「いやー、そういうつもりではないけれど、ぽっかりと無くなった隙間に、その代わりに何かをってのは、ずーっと考えてたんだけどねー」


 まあ、こいつもこいつで、色々考えてるんだ。


「ところで、膝の調子はどうよ?」


「ああ、おかげさまで、水泳しながら、整形外科に通ってるんだけれど、結構、最近、調子がいいんだ。この分だったら、以前よりもひどくなる前に治るかもって思ってる」


「そうかー、いいのかーその医者」


「ああ、予想以上に良い」


 正直、前の世界で司の通っていた病院は、お世辞でも良い病院だったとは言い難い。


「今度、俺にも教えておいてくれよ」


 前の世界の予定では、後、数か月後に俺もオスグットが発症してしまう。


「ああ、念のため、今のうちから行っておくか?予防しておくことに越したことはないし……」


 と、そこで、

「あんたら、さっきから、何二人でべちゃくちゃはなしてんのよー」と遥が……あれ、ちょっと、顔が赤くなってませんか?


「司も、レーメンなんかすすってないで、肉食いなさい、肉!!」そういって、司のお皿に上に網の上で焦げたお肉をぼんぼん乗せてくる。


「お前、これ、食いたくないからやってんじゃないの?」と司。


「そんなわけないでしょ!!」と言って、司のお皿の上に乗っけた焼肉を遥は食べる。


 まあ、なんというか、男勝りというか……司はというと、


 ったく、しょーがねーなーと言った感じで笑っている。


 そうだよなー、前の世界にいたときから、こいつら、こんな感じの夫婦だったもんなー

 あらためて、司をこの世界に連れてきてしまったことに対し、罪悪感を感じてしまう。


 本来なら、この間に太陽君がいて、何不自由なく暮らしていたんだからなー。

 まあ、俺が直接連れてきたってわけじゃないけれど、すくなからず、遠因というものはあるだろう。


 そんなことを思いながら、焼肉みんみんの夜は更けていった。 

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