第11話 餡子団子、大福、あんころ餅
「――いただきます! あむっ! んぅ~! みたらしぃ~!」
毒見が終わって許可が出たので、早速みたらし団子を食べる。
ヤバい! めっっっっちゃ、美味しい!
お醤油の香りがするのにしょっぱくなく、砂糖の甘さも控えめで、言葉では表現できない絶妙な『みたらし感』。
なにかの味に例えるとか、それは無粋。『みたらし味』は、『みたらし味』なの!
……何を言っているのだろう、私。美味しくて語彙力どころか思考力まで崩壊したみたい。
「お団子もコシがあって美味しいです……! あぁ、幸せ……!」
溜まっていた疲れが抜けていくのを感じる。
やっぱりストレスには甘味が一番よね。特に和菓子……。
他の料理人たちも集まってきて、串をひょいっと取り逃げしたり、その場で食べて料理長やヨシノと感想を言い合ったりしている。
みんな概ね好評でよかった。また和菓子の布教の成功ね。
「それで? アズ様はこっそりお一人で何を作っていらっしゃるのですか?」
「ひゃっ!? び、びっくりさせないでください、カトレア」
気配を全く感じなかった。急に耳元で囁かれたら心臓に悪い。
別に疚しいことは何もしていないけれど。
「みたらし団子とは別のお団子を作ろうかと」
「なるほど。餡子のお団子ですか」
「お団子の上に餡子を乗せるだけ。簡単でしょう?」
今日の気分は『こし餡』なので、こし餡の餡子団子にしました。
早く食べたいので毒見をお願いします。
ささっ、どうぞどうぞ。お食べください。
「甘くないお団子が甘い餡子と口の中で溶けあって……大変美味しゅうございます」
貴婦人は串のお団子を食べる姿もお上品。見習いたいものです。
すぐにお許しが出たので、私も餡子団子(欲張り乗せバージョン)をパクリ。
うん、美味しい。予想通りの味ね。お団子と合うわぁ!
やっぱり餡子は単体で食べるよりも、何かと一緒のほうがもっと美味しくなる。
「あぁー! こっそり何を食べているんすか!?」
おっと。バレちゃった。新しい料理に目ざといですね。
「お団子に餡子を乗せるんすか!? ウチも食べるっす!」
私は食べるのに忙しいから、ヨシノたちは自分で作ってくださいねー。
串に刺したお団子に餡子を乗せるだけだから。簡単でしょ?
「カトレアカトレア。ちょっとこっちに」
「はいはい。なんでございましょう」
もうビックリしたくないので、あらかじめ
餡子団子に夢中になっている料理人たちから離れて、私たちはこっそり別の場所へ移動。
蒸し器の前にいる料理人に問いかける。
「砂糖入りの白玉生地はどちらですか?」
「こちらでございます」
ふむふむ。いい感じに蒸されていますね。
これをまた火傷しないよう注意しながら軽くコネコネして、みたらしのタレ作りで使い残った片栗粉を表面にまぶしていく。
ふふふ。『求肥』の完成です! これだけでも美味しいのだけど、せっかく餡子があるのだから、『大福』も作っちゃいましょう!
余計な粉を落としたら、適量の餡子を求肥で包んで、はい完成。
粒あんとこし餡、両方作ってみました。
「大福でございます。どうか、毒見のほうを……」
「アズ様、今だから許しますけど、あなた様が下手に出てはいけません」
あ、はい。気をつけます。
「あら。大福と言いましたか。先ほどのお団子と違い、外側の皮が柔らかいですね。簡単に噛み切れるけれど、伸びて、もちもちとして、でもお餅ともまた違って……」
あ、カトレアが感想を言うのをやめて黙って食べることに集中した。
餡子もお団子も気に入ってくれたようだし、もう和菓子の虜になってくれたかしら?
……というか、あの? 早く許可をくれませんか? カトレア? 黙っていないで早く! お願い! 私も大福が食べたいのぉ!
見せつけるように堪能しちゃって……ぐぬぬ! こうなったら別のやつも作ってやるんだから!
これを作り終わる頃には大福の毒見も終わっているだろうし、私が大福を食べている間に、これの毒見も終わるって寸法よ。
「カトレア様がお召し上がりになっている甘味はなんすかっ!? って、アズ様は別の甘味を作ってるぅー!?」
おやおや。こっそり作っていたのに、またバレてしまった。
料理人たちが各々お団子の串を片手に、ぞろぞろと私の周りに集まってくる。
「ほうほう。白玉団子を……え? 白玉団子を餡子で覆うんすか!?」
「餡子を求肥で覆うのが大福で、今作っている『あんころ餅』はその逆。お餅やお団子を餡子で覆う和菓子です」
「求肥ってなんすか?」
「米粉に砂糖や水飴、水を加えて練り上げたものです。お餅のように柔らかくてモチモチするのですが、お餅とは違って硬くなりにくいのが特徴です」
「ほぇー。便利じゃないっすか!? 和菓子作りの幅が広がりそうっす!」
そうそう。求肥はいろいろな和菓子に使えるの。
食べたいものがいっぱいありすぎて、どれ作ればいいのか迷いますね!
「あんころ餅は、『
前世では諸説ありますけど、この世界では私がこう定義する。
「簡単ですので、皆さんも作ってみてはいかがですか?」
見本は作った。あとは食べたいなら自分で作って!
私はまだ大福も食べていないの! そろそろいいでしょう? カトレアぁ~!
「よろしゅうございますよ、アズ様」
「やった! いただきまぁ……ん?」
大福にハムッと齧りつく直前、厨房に誰かが入ってくるのが見えた。
メガネをかけた真面目そうな青年……見覚えがある。彼はたしか――
「おや。ウィルではありませんか」
そう! ウィルヘルム! 仏頂面殿下の側近!
どうして彼が
「母上と、あなたがアズアズ様ですね」
「はい。アズアズと申します……ん? 母上?」
ウィルヘルムはカトレアを母上って呼ばなかった? もぐもぐ。
ということはつまり、もぐもぐ。
「ええ、ウィルヘルムはわたくしの息子です」
「言っていなかったのですか、母上ぇ……ゴホン! 改めまして、この人の息子で、王太子キョクヤ様の乳兄弟にして補佐をしております、ウィルヘルム・クレッセントと申します」
ほうほう。あの仏頂面殿下の乳兄弟……あなたも大変ですね。苦労してませんか? 和菓子食べます? 疲れが取れますよ?
「おやおや。興味深いものがありますねぇ。これが新しい和菓子ですか」
試作した和菓子を見つめてキラリとメガネのレンズを光らせるウィルヘルム。だが、そんな彼を母親はバッサリ切り捨てる。
「白々しい。タイミングを見計らってやってきた者が何を言っているのですか」
「最初から居たら邪魔でしょう? だから邪魔にならないタイミングで来ただけです。というわけで、新作和菓子ください。食べたいです」
「わたくしはこんな図々しい息子に育てた覚えはないのですが」
「いやいや! 毎回毎回空腹を誘う食レポを提出するのは誰ですか!? 母上ですよね!? しかもキョクヤ様はキョクヤ様で独り占めして分けてくれませんし、僕、餡子とやらも食べていないんですよ! 今日こそは食べさせてもらいます!」
やっぱり苦労しているんですね。そういう時は和菓子ですよ。
というわけで、ヨシノ!
「たくさんあるので試食をお願いするっすよー。順番に、餡子の粒餡、こし餡、今日試作した、みたらし団子、餡子団子、大福、あんころ餅になるっす。お腹に溜まるので少なめに作ったっす」
「ありがとうございます……あぁ、やっと食べることができる! いつもいつもどこかの誰かさんが自慢して見せつけてきていたんですよ」
それは拷問ではありませんか!?
和菓子を目の前で食べる様子を見せつけられる……想像を絶する地獄ですね。私は耐えられるかわからない。
彼は、まず最初に餡子をそのままパクッと食べる。
果たして、念願の餡子のお味はいかが?
「……優しい味ですね。小豆のペーストと聞いていたので身構えていましたが、これはこれは。キョクヤ様や母が絶賛するわけですね。甘すぎないのがいい」
私好みの甘さ控えめで作っていますからね。ついパクパク食べ過ぎちゃうところが難点だけど。
甘いと数口で『もういいや』ってなるのよねぇ。その分、食べられる量は少ないから体重に優しい。
「おぉ! 団子って甘いものにも合うんですねぇ。ほうほう! 黒糖醤油で餅を食べた時は甘すぎると思いましたが、みたらし団子は気に入りました。大福もあんころ餅も、どれもこれも美味しいです」
「それはよかったです」
また一人、和菓子の沼に引きずり込まれましたね?
良い傾向良い傾向。この調子でもっともっと大勢の人を和菓子の底なし沼に誘い込むの!
「アズアズ様。これと同じ量の和菓子を作っていただけませんか?」
「わかりました。ヨシノ、手伝って――」
「いえ、すべてアズアズ様にお願いします」
「え? まあ、いいですけど」
まだお団子は残っているから、作るのは簡単。
串に刺したり、タレにつけたり、餡子や白玉団子を包めばいい。
すべて作り終えるのに、そう時間はかからなかった。
小さめに作ったので、軽食にはピッタリの量だと思う。ちょうど小腹が空くおやつの時間帯だし。
完成した和菓子を満足そうに見て、メガネの青年ウィルヘルムは、ニコニコ笑顔でさらりと述べる。
「――では、キョクヤ様のところへ持っていきましょうか。アズアズ様、お願いしますね」
…………はい?
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