無敵桃太郎-異世界撃滅譚-

Leiren Storathijs

第1話 桃太郎

 神創歴一万三十六年、レウス王国の天文魔術師は、預言者と共に空から一つの大きさ人一倍の"桃"が降ってくることを観測しました。

 桃は、秒速十キロメートルの速さで落下し、レウス王国の領土内の広めの荒野で着地しました。


 レウス王国はそれだけのことで、国民も、兵士も、魔術師も国王も大騒ぎ。

 敵国の奇襲である可能性を考えて、レウス王国は小規模の軍隊を上げ、桃の落下地点に急ぎました。

 砂埃が未だに舞う中、国王はその桃を目の当たりにしました。

 桃は高さ二メートル、幅一.五メートルという大きな桃で、人がすっぽり入れてしまうほどの大きさでした。


 しかし、桃はされど桃。食べ物である以上、国王は一人の兵士に、桃を切ることを命じます。

 兵士は普通の剣では切れないことに、一本の重い大剣を持ち上げ、勢いよく桃に向かって振り下ろすと、最初に桃に切り込みが入ったその隙間から、とても強く眩しい光が漏れ出します。


 切れ込みの亀裂はだんだんと広がり、ついに桃が真っ二つに割れると……。

 中から、色白全裸の成人男性が生まれて来ました。


 そんな出来事に国王は兵士を後ろに構えさせ、すぐに厳戒態勢を取らせます。


「ククク……はーっはっはっは!! この俺を眠りから目覚めさせたのはお前か?」


「き、貴様は何者だッ!」


「俺か? そうだな。俺は……桃太郎と呼ばれている」


「も、モモタロウだと……? そうか。ならばモモタロウ。我々に一体何のようなのだ……」


 桃太郎は国王の言葉を聞くと、突然大きな笑い声を上げました。

 それはとてもバカらしいことだからでした。


「くははははは!! なんと、自分が呼び出しておいてそれを忘れるとは!

 愚かと言えば良いのやら、愉快といえば良いのやら。笑い話にもならんぞ!」


「なんだと……? 我々が呼び出した……? はっ! まさか、まさかお前が勇者とでも言うのか!」


「ユウシャとは知らんが、何かを呼び出した心当たりがあるのなら、俺はそうなのだろう」


 そう国王は、桃太郎から確認を取ると、桃太郎への態度を変えました。

 警戒ではなく、友好的に。


「勇者モモタロウ。貴方が本当に勇者というこの世界の救世主ならば、我々は貴方に告げなくてはならないことがある。

 勇者モモタロウ。我が世界を救ってくれ……!

 今、我々の世界は魔王の危機に瀕している。魔王は強大で凶悪な存在。我々の全勢力を持っても、手に付かない化け物なんだ……!」


 話を聞いた桃太郎は、両腕を前に組み、自分の目覚めさせた人間らを、見下すような目を作り、自信満々に答えました。


「ほう……。つまり俺にその魔王とやらを倒せというのか?

 良いだろう。そんなどこの馬の骨かも分からない者など、俺に掛かれば造作もない。簡単だ」


「おぉ……! これが勇者の貫禄というやつか……! あぁ、その通りだ。倒してくれるのなら是非頼みたい!」


「だがその前に一つ、頼みがある。俺にきびだんごを三つ、献上せよ。俺がお前らに求めるのはそれだけだ。他は何もいらん。

 どうせ金銀財宝はその魔王とやらから頂くからな」


 桃太郎は魔王を倒すにはきびだんごが三つ有ればいいと国王に頼みますが、国王はきびだんごを知りませんでした。


「き、きびだんご……? それはどういったものなのだ?」


「きびだんごを知らないのか? まぁ良いだろう。きびだんことは……。

 とある土地で作られている餅の事で、作り方は、玄米の胚芽を精麦することで作る『もちきび』という麦を水で蒸した後、すり鉢で潰して、粘性のあるものを丸めた物がきびだんこという。

 そして、すり潰す際に上白糖を入れ、丸めた後にきな粉をまぶせば……完成だぁ」


 桃太郎は、きびだんごを知らない国王や、その兵士たちに分かりやすいように、原料から丁寧に説明しましたが、桃太郎の言葉を理解する人間は、その中に誰一人といませんでした。


「ゲンマイ? セイバク? ハイガ……?

 済まない。それは人名か何かだろうか? もしそれが、そのきびだんごの製法だとするのなら、どうやら我々には理解出来ないようだ……」


「なん……だと? 玄米すら知らないとは、この世界はどうなっている!

 玄米など、食卓の主食に並ぶほどの主流の食糧だぞ! 地球はそこまで衰退してしまったのか!」


「あぁ、そうだな。モモタロウの言動から察するに。そのチキュウがモモタロウの知る世界なのだろう。

 だがここはチキュウではない。ここは……レイ・バシレウスという惑星である。

 そうかモモタロウは別惑星から来た勇者なのだな。だが心配するな! そのきびだんごは作れないが、餅なら作り方を知っている! モモタロウの知る餅かは知らないがな……」


 桃太郎は絶句しました。

 まず、ここが地球ではないこと。そして玄米を知らないのに、餅は知っていること。

 桃太郎は、全く知らない別の星に生まれてしまったのかとショックを受けました。


「そ……うか。良いだろう。似ている物で、誰をも魅了できる最高の餅が出来れば上出来だ」


「分かった。我々にとっての餅とは、貧困層の人間らが飢えを凌ぐ為に食べるゴミの塊なのだがな……製法を真似ればなんとか作れる筈だ。モモタロウの求める餅が」


「あぁ、そうしてくれ」


 こうして別世界の星にて生まれた桃太郎は、自信満々に魔王を倒すと思いきや、桃太郎にとって必要不可欠なきびだんごの製作に、苦悩を抱えるのでした。

 桃太郎は、きびだんごを持たずに魔王を倒すことが出来るのでしょうか? 続く。

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