第17話 高天ケ原炎上(その3)

神々が去った高天ケ原では、コーン氏による行商人達の面談が行われた。


 本殿横の社務所に行商人が集まり、一人ずつ隣の面談室に呼ばれる。

 猫娘も呼ばれて面談室に入り、緊張しながら部屋の真ん中に置かれた椅子に座ると、正面にコーン氏の他、役員数名が渋い顔で座っていた。


 しばらくして、コーン氏は曇った表情で

「猫娘さん。最近の売上が伸びていませんね」

「はっ……はいニャ」

 申し訳なさそうに答える猫娘に、コーン氏は曇った表情で。


「猫娘さんは、この商売が向いていないのです。このまま、この仕事をしても辛いことばかり。給料も安いし、もっとよい仕事を斡旋しようと思うのです」

 いきなりの解雇通告、猫娘は驚いて


「ええー! そんなことないです、私はこの骨董市を続けたいですニャ」

「やりたいことと、出来ることは違うのです。プロ野球の選手になりたくても、実際になるのは難しい。いくら夢を描いても、自分に才能がなければ大事な人生を無駄にするのですよ。私はあなたに、そんな惨めなことになってほしくないのです。そこで、猫娘さんにぴったりの、よい仕事があるのですが」


 猫娘のことを思ってのような言い方だが、あきらかにリストラだ

 猫娘は恐る恐る

「……よい仕事とは」

「人間界で私の知人が経営している、猫耳喫茶です」


「猫耳喫茶! 」

 コーン氏は、いやらしい目つきで

「猫娘さんは可愛いですから、きっと、一番人気になりますよ」

「そんなー……」


「すでに、転勤の手続きは済ませてあります。引越しや住まいも会社が手配していますので、早く人間界にご出発ください」

 勝手に話を進めているコーン氏に、猫娘は納得いかず


「ええー! そんなのないニャ」

「決定事項なのです。話は以上です、それでは次の方がお待ちなので」

 コーン氏は話を一方的に切り上げる


「待ってください! 」

 そのあとコーン氏は何もとりあわず、猫娘は部下の男達に無理やり退出させられた。


 猫娘は突然の成り行きに、気持ちの整理もつかないまま下町の長屋に帰ってきた。

 トボトボと路地を歩くと、面談にも来なかった黒ウサの家の前にさしかかる。いつもは、がら開きの玄関から、元気な黒ウサの声が聞こえるのだが、今は誰も住んでいないかのように閉まっていた。


「黒ウサ」

 声をかけても返事がない。少しだけ玄関をあけて、中を覗くと部屋はどんよりと暗い。

 よく見ると部屋の隅に黒ウサがうずくまって寝ていた。


 周りには、食べ散らかしたカップ麺や、弁当の空き箱が散乱している。

「黒ウサ……」

 声をかけると、部屋の奥から

「その声は、猫か……」


 毛布をかぶったまま、力なく返事をする黒ウサ

「大丈夫かニャ」


「………何か、ようかい」

 すると猫娘も、泣きそうな声で

「私、リストラされたニャ……」


 数秒の沈黙の後、黒ウサはモゾモゾと起き上がり、やつれた表情で

「猫がリストラだって。どうせ僕はリストラだろうが、なんで猫まで」

「………」

 猫娘は何も言えず、うつむいている。


 さらに、人間界に行って猫耳喫茶に就職すると聞き、黒ウサは驚くと共に怒りも湧いてきた。

「猫は、骨董市を続けたいのだよな」

「うん」

「僕だけなら仕方ないと思っていたけど、猫娘までとは……」

「黒ウサ……どうしよう」

 猫娘に、すがるように見つめられた黒ウサ。頼られると力が出てくる、まして好きな人ならば、なおさらだ。


 考えた黒ウサは

「銭亀のところに行ってみないか、銭亀は万年生きているじしいだが、物知りだ、何か知恵を出してくれるかも」

 すぐに、猫娘を連れて銭亀の家に向かう途中、豚男に出会った。


「ブヒ! ブヒーーー!!」

 リストラされたと聞いて猫娘を探していたようで、涙声……涙吠えで、すがるように寄ってきた。猫娘は力なく


「そのとおり。リストラされたニャ」

「ブッ! ヒィーー」

 頭をかかえて、うずくまってしまった。


 豚男は猫娘が個人的に雇っているので、豚男も失業することになる。しかも社員ではないので、コーン氏から次の仕事は斡旋してもらえない。

「ブブブ……」

「出産で里帰り中の奥さんの天成天女様に怒られるって……すまないニャ」

 猫娘も言葉がない。横から黒ウサが


「これから銭亀の爺さんのところにいくけど、付き合うか」

 豚男は頷くと、三人で銭亀の家に向かった。

 


 銭亀の家に着くと銭亀もリストラされたようで、いつもの作務衣姿で老妻と家の片付けを始めていた。

「わしは、婆さんと生まれ故郷の竜宮に戻るとするよ。そろそろ隠居したいと思っていたのでな」

 そんな銭亀に黒ウサは、訴えるように


「なあ銭亀、今高天ヶ原に残っているのは、お猿の籠屋の猿や、かわいい魚屋の子供など、どうみても頼りない連中ばかり。どうして、商売の戦力にならないような商人だけを残すのだ。変だと思わないか」

 銭亀は神妙な表情で


「わしも気になっていたが、アマテラス様代行の意向となれば、どうすることもできない。他の行商人も、仕方なく同意している。わしもいい機会と思って、出ていくつもりだ」


「待ってくれ! コーン氏は狐だろ。アマテラス様、騙されているのじゃないか」

「そうだろうな……」

 そっけなく言う銭亀。


 すると、横の猫娘が泣きそうな声で

「銭亀さん……なにいい方法ないかニャ。コーン氏の正体を暴く方法とか」

 猫娘にまで言われた銭亀はさすがに真剣になる


「わしはもう隠居の身だが、これからの若い者はつらいことだな。そういえば豚男の嫁さんも、もうすぐ出産だったな、今クビになったら困るだろう」

「ブブブーー」情けなく、うなずく豚男。

 

 銭亀は少し考えたあと

「確か、異世界骨董店の弥生姫が、照魔鏡を持っていると聞いたことがある。猫娘は知り合いだったな」

「はいニャ。……照魔鏡って、なんですか」


「照魔鏡は、人間に化けている妖怪の正体を暴くことが出来る鏡だ。昔、中国の賢人、太公望が使ったとされている。なんとか、借りてきてくれないか」

 

 猫娘はすぐに、異世界、多次元世界、並行世界にも行くことのできる、お猿の籠屋に乗り、弥生姫を探しに向かった。

 

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