第17話 高天ケ原炎上(その3)
神々が去った高天ケ原では、コーン氏による行商人達の面談が行われた。
本殿横の社務所に行商人が集まり、一人ずつ隣の面談室に呼ばれる。
猫娘も呼ばれて面談室に入り、緊張しながら部屋の真ん中に置かれた椅子に座ると、正面にコーン氏の他、役員数名が渋い顔で座っていた。
しばらくして、コーン氏は曇った表情で
「猫娘さん。最近の売上が伸びていませんね」
「はっ……はいニャ」
申し訳なさそうに答える猫娘に、コーン氏は曇った表情で。
「猫娘さんは、この商売が向いていないのです。このまま、この仕事をしても辛いことばかり。給料も安いし、もっとよい仕事を斡旋しようと思うのです」
いきなりの解雇通告、猫娘は驚いて
「ええー! そんなことないです、私はこの骨董市を続けたいですニャ」
「やりたいことと、出来ることは違うのです。プロ野球の選手になりたくても、実際になるのは難しい。いくら夢を描いても、自分に才能がなければ大事な人生を無駄にするのですよ。私はあなたに、そんな惨めなことになってほしくないのです。そこで、猫娘さんにぴったりの、よい仕事があるのですが」
猫娘のことを思ってのような言い方だが、あきらかにリストラだ
猫娘は恐る恐る
「……よい仕事とは」
「人間界で私の知人が経営している、猫耳喫茶です」
「猫耳喫茶! 」
コーン氏は、いやらしい目つきで
「猫娘さんは可愛いですから、きっと、一番人気になりますよ」
「そんなー……」
「すでに、転勤の手続きは済ませてあります。引越しや住まいも会社が手配していますので、早く人間界にご出発ください」
勝手に話を進めているコーン氏に、猫娘は納得いかず
「ええー! そんなのないニャ」
「決定事項なのです。話は以上です、それでは次の方がお待ちなので」
コーン氏は話を一方的に切り上げる
「待ってください! 」
そのあとコーン氏は何もとりあわず、猫娘は部下の男達に無理やり退出させられた。
◇
猫娘は突然の成り行きに、気持ちの整理もつかないまま下町の長屋に帰ってきた。
トボトボと路地を歩くと、面談にも来なかった黒ウサの家の前にさしかかる。いつもは、がら開きの玄関から、元気な黒ウサの声が聞こえるのだが、今は誰も住んでいないかのように閉まっていた。
「黒ウサ」
声をかけても返事がない。少しだけ玄関をあけて、中を覗くと部屋はどんよりと暗い。
よく見ると部屋の隅に黒ウサがうずくまって寝ていた。
周りには、食べ散らかしたカップ麺や、弁当の空き箱が散乱している。
「黒ウサ……」
声をかけると、部屋の奥から
「その声は、猫か……」
毛布をかぶったまま、力なく返事をする黒ウサ
「大丈夫かニャ」
「………何か、ようかい」
すると猫娘も、泣きそうな声で
「私、リストラされたニャ……」
数秒の沈黙の後、黒ウサはモゾモゾと起き上がり、やつれた表情で
「猫がリストラだって。どうせ僕はリストラだろうが、なんで猫まで」
「………」
猫娘は何も言えず、うつむいている。
さらに、人間界に行って猫耳喫茶に就職すると聞き、黒ウサは驚くと共に怒りも湧いてきた。
「猫は、骨董市を続けたいのだよな」
「うん」
「僕だけなら仕方ないと思っていたけど、猫娘までとは……」
「黒ウサ……どうしよう」
猫娘に、すがるように見つめられた黒ウサ。頼られると力が出てくる、まして好きな人ならば、なおさらだ。
考えた黒ウサは
「銭亀のところに行ってみないか、銭亀は万年生きている
すぐに、猫娘を連れて銭亀の家に向かう途中、豚男に出会った。
「ブヒ! ブヒーーー!!」
リストラされたと聞いて猫娘を探していたようで、涙声……涙吠えで、すがるように寄ってきた。猫娘は力なく
「そのとおり。リストラされたニャ」
「ブッ! ヒィーー」
頭をかかえて、うずくまってしまった。
豚男は猫娘が個人的に雇っているので、豚男も失業することになる。しかも社員ではないので、コーン氏から次の仕事は斡旋してもらえない。
「ブブブ……」
「出産で里帰り中の奥さんの天成天女様に怒られるって……すまないニャ」
猫娘も言葉がない。横から黒ウサが
「これから銭亀の爺さんのところにいくけど、付き合うか」
豚男は頷くと、三人で銭亀の家に向かった。
銭亀の家に着くと銭亀もリストラされたようで、いつもの作務衣姿で老妻と家の片付けを始めていた。
「わしは、婆さんと生まれ故郷の竜宮に戻るとするよ。そろそろ隠居したいと思っていたのでな」
そんな銭亀に黒ウサは、訴えるように
「なあ銭亀、今高天ヶ原に残っているのは、お猿の籠屋の猿や、かわいい魚屋の子供など、どうみても頼りない連中ばかり。どうして、商売の戦力にならないような商人だけを残すのだ。変だと思わないか」
銭亀は神妙な表情で
「わしも気になっていたが、アマテラス様代行の意向となれば、どうすることもできない。他の行商人も、仕方なく同意している。わしもいい機会と思って、出ていくつもりだ」
「待ってくれ! コーン氏は狐だろ。アマテラス様、騙されているのじゃないか」
「そうだろうな……」
そっけなく言う銭亀。
すると、横の猫娘が泣きそうな声で
「銭亀さん……なにいい方法ないかニャ。コーン氏の正体を暴く方法とか」
猫娘にまで言われた銭亀はさすがに真剣になる
「わしはもう隠居の身だが、これからの若い者はつらいことだな。そういえば豚男の嫁さんも、もうすぐ出産だったな、今クビになったら困るだろう」
「ブブブーー」情けなく、うなずく豚男。
銭亀は少し考えたあと
「確か、異世界骨董店の弥生姫が、照魔鏡を持っていると聞いたことがある。猫娘は知り合いだったな」
「はいニャ。……照魔鏡って、なんですか」
「照魔鏡は、人間に化けている妖怪の正体を暴くことが出来る鏡だ。昔、中国の賢人、太公望が使ったとされている。なんとか、借りてきてくれないか」
猫娘はすぐに、異世界、多次元世界、並行世界にも行くことのできる、お猿の籠屋に乗り、弥生姫を探しに向かった。
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