第17話 高天ケ原炎上(その2)
◇
一ヶ月後……
NKI、KFS、RNP、COR、OKI、YNOの売上はガタ落ちになってきた。
(注); NKI(なつかしの骨董市)、KFS(かわいい双子の魚屋さん)、RNP(ラバのパン屋さん)、COR(チャルメラおじさんのラーメン屋台)OIK(おさるの異世界かごや)、YNO(山の音楽家)………もう、なにがかんだか、わからない!
『NKI開催! 』
猫娘が書いた広告を送っても、受取った人は訳が分からず、不審に思われて警察に届けられたこともある。猫娘も、常連の海沿いの養護学校や、南の島でも最初は偽物と思われ、説明に苦労したようだ。
さらに、朝の会議で、黒ウサの報告にコーン氏が
「黒ウサ君、また収支報告、間違っているじゃないか! 誤字脱字はあるし、ちゃんとチェックしているのかね、いったい何度言ったらわかるのだ! こんなの、小学生でも間違わないぞ」
こうして、コーン氏は社員に厳しく当たる。黒ウサは小さくなり。
「すみません。修正します」
パソコンの苦手な黒ウサは徹夜して頑張り、なんとか翌日、資料を修正して持ってきたが……
「なんだこれは、文字の行間がずれているじゃないか。この表の説明もわかりにくいし! 」
今度は難癖だ。わかりにくいと感覚的なことを言われても、こういった資料を作ったことのない黒ウサは、修正がうまくいかず。さらに焦っているので、ミスも重なる。
「でも、行間くらいは、いいじゃない……」
ぼそぼそと反論すると、聞こえた狐男は目を血走らせ
「何を言っているのです! そんないい加減だから、行商人の中では最低の売上、しかも、計算間違いも、まだあるじゃないですか。これから、間違えたものは減給です! 」
自分が間違えたのは明らかなので、強く反論できない黒ウサは、泣きそうな声で
「でも……俺たち機械じゃないし……ヒューマンエラーはあり得るでしょ」
黒ウサの言い訳に、コーン氏はさらに激怒して
「君は、相手の立場に立って物事を考えるということができないのですか! もし、あなたが、百円のコーヒーを間違って百十円で売られたら。もし、耐震設計の計算間違いで家が壊れて肉親が死んでも、ヒューマンエラーですまされて、納得するのですか! 」
「それは、極端な……」
「極端とそうでない境界は! その境界線を百人が百人とも納得できるロジックを示してもらいましょうか! 」
コーン氏の理屈、もはや屁理屈、難癖に黒ウサは言い返せず。
「……すみません、直します」
再び、夜なべして報告書を修正するが、慣れていない作業で時間がかかり、疲れているので、さらに間違いが重なる。その報告にコーン氏は、蔑むような目で
「もうお前はいい! 猫娘君かわりにやってくれたまえ」
コーン氏は黒ウサの資料を取り上げると、猫娘に渡した。
目にくまをつくり、やつれた黒ウサは情けない表情で、猫娘に
「ごめん……仕事を増やしてしまって」
涙を浮かべる黒ウサが最も傷ついたのは、猫娘の前で醜態を晒していること。猫娘も、こんな沈んだ黒ウサを見たことがなく
「気にすることないよ、黒ウサが頑張ったの、私はわかるニャ。なにか、あったら手伝うから」
猫娘に慰められる黒ウサは、図らずも涙がポロポロとこぼれ落ち、いたたまれず逃げるように立ち去った。
猫娘も声のかけようがなく、何もできない。黒ウサの事を思うと、自分もつらくなってくる。
その後、黒ウサは二度と顔を出すことはなかった。
◇
その後も、コーン氏のパワハラ管理で、店員は疲弊し、計算の苦手な者や、売上を伸ばせない者は、黒ウサのようにノイローゼになる者が続出してきた。
そんな、最近の状況も、うすうすアマテラスも気づいているようで、奥の社殿でコーン氏を呼ぶと。
「コーンさん、売上が、さらに下がっていますが、よいのですか。従業員さんも、疲れているように見えますが」
心配するアマテラスだが、コーン氏は笑顔で
「それで、よいのです。私が行っているのは、優秀な人材を見極めるためなのです。このような状況の中で、生き残っていく社員こそ、今後必要なのです。優秀な者を選抜するため、私一人が悪者になり、アマテラス様、引いてはこの天界の行商が繁栄するための、石杖になろうと思っているのです」
「……わかりました、そういうことでしたら」
自己犠牲を主張するコーン氏に、アマテラスは不安そうに頷いたあと
「ところで、来週から神無月で私は出雲に行きますが、留守中もしっかりお願いしますね」
コーン氏はにやりと笑い
「おまかせください」
◇
……数日後
出雲に出発するアマテラスは、コーン氏や行商人の見送りを受けていた。
このときばかりは、行商人達もアマテラスに会うことがでる。しかし、アマテラスの横にはコーン氏が睨みをきかし、猫娘達は自分たちの窮状を伝えられない。
猫娘もアマテラスの前に行くと
「いってらっしゃいアマテラス様、お気をつけて」
「はい、行ってきます。そういえば、猫ちゃん、今も折り紙は作っているの」
仕事が忙しく、アマテラスにわたすのを最近すっかり忘れていた。
「そうでした! アマテラス様、新作の折り紙があります。持ってきますから、少し待っていてください」
しばらくして、猫娘が息を切らして戻ってくると、ウサギの折り紙を渡した。
「これは、可愛い兎さんの折り紙ね。ありがとう」
猫娘はさみしそうに
「アマテラス様、早く帰ってきてくださいニャ」
訴えるような猫娘に、アマテラスは微笑んで頷いた。
こうして、猫娘達の見送りを受け、八百万の神々とアマテラスは出雲に向かった。
神々の一行が去ったあと、コーン氏は
(さて、早速リストラを始めるか。さらに、四の蔵の鍵は手に入った、これで高天ケ原は………)
不気味な笑みを浮かべ、一人つぶやく。
そして、神々のいない神無月が始まる……
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