第1話 なつかしの骨董市(2/3)
ところで、先ほどから気になっていたのだが、品物には番号が書かれている札やテープが貼られているだけで、値段が書いていない。
品物はどれもゴミのようなもので、以前に行ったリサイクルショップでは数十円程度にしか、ならないようなものばかりだが、懐かしい品物なので、気まぐれに何か買って帰ろうと思い、猫娘に値段を聞いてみた。
「すみません、値段が書いてないけど。ちなみに、このプラレールはいくらですか」
少女は腰に下げている大福帳を取りだすと、番号と照らし合わせ
「への425番。ええと……七十万円ですニャ」
「………」
和也は聞き違いかと思った
「な……七十……万円! なにかの間違いじゃないの。桁が違うか、番号が違うとか」
猫娘は再度大福帳をチェックし
「七十万円で間違いありませんニャ」
「だって、これ元の値段はせいぜいニ千円ほどだよ、汚れて壊れているし、プレミアがつくような希少な物でもないよ」
背の低い猫娘は和也を仰ぎ見るように、帳面を見せて
「この帳面にはそうなっています。私は、この値段で売るように言われておりますニャ」
和也が見ると、帳面には確かに七十万円と書かれている。さらに、その下の備考欄には『子供が踏んで壊したものを、父が修理』と、修理のことまで書かれていた。
カズヤは驚きながら
「確かに、七十万円と書かれている、それに、お父さんが修理したことまで……どうして」
猫娘に聞いても「品物が入荷したとき、納品書にたまに書かれているものがあり、それを、写しただけ」とのことで、埒が明かない。
和也は、これ以上問い詰めるのはあきらめ、さっきの超合金ロボや学習机の値段も聞いてみると
「超合金ロボは百十万円、学習机は三百五十万円ですニャ」
あいた口がふさがらなかった。
足元を見ているにしても、ここまで突拍子もない金額は、もはや売る気がない、としか言えない。
ちなみに和也は今、五千円ほど持っている。
これは、今度買おうと思っているゲームソフトのために、少ない小遣いを一年かけてためたもので、百円程度までのものがあれば買おうかと、一応持ってきたのだったが
「こんなのじゃ! なにも買えないよ。持ち合わせもないし。他の客はどうやって買っているの、カードやローンとかで払うの」
「カードや電子マネーは対応していないのです。ローンもだめで、一括現金引払いのみ、となっておりますニャ」
「急に案内がきて、こんな値段、誰も買うことできないよ」
和也が店員に文句を言っていると、さきほどから店にいる老夫婦の、おじいさんの方が、少し足を引きずりながら寄ってきた。
◇老夫婦
「君は、この骨董市は初めてのようだね」そう言って、老人は微笑みながら
「わしも、最初は兄さんのように思ったものだ」
和也は老夫婦が常連客だろうと思い
「おじいさんは何度も来ているのですか」
「そうだな、三回目になるか」
「三回目ですか。ちなみにこの骨董市はよく開かれているのですか」
「前に案内が来たのは二十年前だったかな」
「二十年前! 」
和也が、絶句すると老人は、ゆっくりと話始めた
「実は昔、家が火事になって家財道具や思い出の品が全て燃えたことがあって、火事から立ち直った頃にこの案内が来たんだ。それで、来てみると、火事で焼けたはずの品物が置かれていて驚いたよ。その時は、今の君と同じように持ち合わせがなくて、一番ほしかった家族のアルバムも百万円と言われ、『これは我々のものだ、火事場から盗んだのじゃないのか』と粘ったが、売ってもらえなかった」
その老人は、奥で品物を整理している猫娘を見ながら、思い起こすように
「思い返せば、火事の時にそばにいたのだが、火の勢いは凄まじく、とても中の物を持って出られる状況ではなかったし、焼け跡に黒焦げになったのを見ている。しかたなく、アルバムの中から息子が小さい頃に写した家族一緒の写真1枚だけを特別に売って貰った。それも2万円したが。なんとか持ち合わせぎりぎりで買うことができた」
老人が話していると、向こうでお婆さんが呼んでいる
「おじいさん! ありましたよ。ほら、これ」
そばに行くと老婆は笑顔で一冊の古びたアルバムをさし出した。
「おー!これじゃ、これじゃ! まだあったか」
火事で燃えたはずのアルバムで、老人も嬉しそうにしている。老婆はアルバムを開け
「息子の幼い頃の写真が! ほら、これは家族で遊園地へ行ったときですよ。覚えてますか」
「覚えておる、覚えておる。あのころの生活は大変じゃったが、子供がいて楽しかったな」
老夫婦はしばらく見たあと猫娘に向かって
「ところで、これは以前と同じ百万円かのう」
猫娘は帳面をしらべ
「……はい。百万円ですニャ」
笑顔でアルバムを胸にひしっと抱える老婆
「やっとこれが戻るときがきた。なんと幸運なことじゃ! 」
横で聞いていた和也は
「お爺さん百万円って、お金あるの。現金でないとだめなのでしょ」
「ああ、あれから、少しずつお金を貯めて、いつ案内がきてもいいように現金で百万円だけは手をつけずに置いておいたのさ」そして周りを見て苦笑しながら「他にも、ほしい物はあるが、手がでんわ」
老人は、猫娘にお金を渡すとアルバムを受け取った。老婆は抱きかかえるようにアルバムを大切に持っている。
「それじゃあ、これで帰らせて貰おうか」
まだ時間があるのに帰る、と言う老夫婦に
「せっかくだから、もっと見ていけばいいのに、またいつ開催されるかわからないのだし」
「いいや。見ていると、さらにほしい物がでそうでな。買えるならいいが無理じゃろうし帰るとするよ。それと、大切なのは物自体ではなく、物に宿る思いなのだよ」そのあと、老人は和也の耳元で
「実は、あの店員の猫耳の少女だが、二十年前いやそれ以前にも同じ歳格好だった。まあ、違う子かもしれないがな」
そう言い残して、二人添って体育館を出ていった。
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