第24話 予想外でした

 次の日の朝俺はアイギスの校舎に来ていた。理由? 勿論クレム先生を探す為だ。

 あの人さえいれば精霊相手だろうが負ける気がしないからな。


「失礼します! クレム先生はいらっしゃいますか!」


 俺は職員室の扉を開けてそう言った。

 すると錬金術の先生が俺の方を向いた。


「おやおや、クレム先生でしたら今日から2日間出張に行っていますよ」


 先生はニコニコと人柄良さそうな表情を浮かべてそう言った。


「ん? あれ、おかしいな。俺の耳がおかしくなってしまったようだ。クレム先生は今どこに?」


「今でしたら多分王都を出て馬車に揺られているところでしょうなぁ」


 はぁ!? 嘘だろ!? 俺がメデューサ相手に強気になれたのはクレム先生がいたからだ。それがいないとなると話が変わるぞ!?


「……先生、今日は頭が痛いので学校休みます」


 俺そう言って先生の返事を待たずに職員室を後にした。



『……そこまで落ち込むってことはまさか全部クレム先生に任せようとしてたのか?』


 廊下をフラフラ歩いているとタクヤが話しかけてきた。


「そーだよ。一応聞くが、今の俺にメデューサ倒せると思うか?」


 まだ朝早い時間で他の生徒はいないので俺は声に出してそう言った。


『ないな。万に1も勝てないだろうな』


 無情にもそんな返答が帰ってきた。


「だよなー……」


『とはいえ事実を言って終わりじゃ俺のいる意味がないだろ? メデューサを倒す方法はあるにはあるぞ。……一種のハメ技みたいなもんだけどな』


 やばい、タクヤがいて初めてよかったと思ったかもしれない。いつもはただの青い玉だが心なしか羽が生えて見える。天使だ。


「なんだ? 教えてくれ!」


『まあそれは構わないけど今のアレクならめちゃくちゃ金がかかることになるぞ』


 金? そんなの命の方が大事に決まってる。


「金ならいくらでも出す! だから頼む!」


『分かった。やり方は簡単で魔法反射の盾を買うことだ。後はその盾を使ってメデューサの魔法を反射すればいい』


「は? そんなの相手に物理攻撃されたら終わりじゃん」


 俺がそういうとタクヤは自慢げにふわふわ飛んだ。ような気がした。


『いや、それが意外とそうでもなくてアイツの物理攻撃力は恐ろしく低いんだ。それこそゲームでは3ダメージくらいしか食らわない。

 だけどその代わり魔法攻撃力がバカみたいに高くてやり方を知らないとかなり苦戦するボスなんだよなぁ。

 俺も最初は自力で挑んだけど最後に攻略方法みたなぁ……』


 そう言われればそんな事あったような気がする。まあそれは置いといてタクヤのおかげいい事を知れた。


「サンキュータクヤ!」


 俺はお礼を言って武器屋へと走り出すのだった。



 武器屋について俺は目玉が飛び出そうになった。理由はたかだか盾に300万ゴールドの値が付いているからだ。

 当然手持ちにそんな額あるわけもない。


『どうする諦めるのか?』


(誰が諦めるか!)


 とは言えどうするか……店主に適当に吹っかけてタダにしてもらうか?

 いやそれだと悪評が立つな……せっかくいい事をしてるのにここで悪評が流れたら本末転倒だ。


「おい、店主。後で金を持って来させるから先にこの盾を買わせてくれないか?」


 仕方ないのでここはつけといてくれ! 作戦で行くしかねぇ。


「おい、兄ちゃん。そりゃ無理だ。その盾は300万ゴールド学生の兄ちゃんが払えると思えないな」


 ゴツい体に手入れされてない髪の毛に無精髭を蓄えた男がそう言った。……迫力あるな。


「俺をそこらの学生と一緒にするな俺の名前はアレク・イニアエスエルだ。聞いたことくらいはあるだろ?」


 俺がそういうと店主は少し驚いた顔をした。


「本物か?」


「偽物な訳ねぇだろ。ほら、学生証だ。これは置いていく、後で金を持ってきたメイドに渡しておいてくれ。それでいいか?」


 店主は俺の学生証を確認した後に無造作にテーブルに置いた。


「分かった。それでいいだろう。ただしなるべく早く金を用意しろよ」


 良かった。どうやらつけといてくれ! 作戦は成功だ。


「1週間以内には持ってこさせる」


 俺はそう言って盾を持って店を後にした。……後で母さんに手紙でお願いしよう。多分出してくれるよね? 俺に甘いし大丈夫だよね。




 そして俺は待ち合わせの場所に時間より早くローズと来た。

 待ち合わせの場所は王都を出て少ししたところにある林の中だ。そこの中の開けた場所。そこが待ち合わせ場所だ。ここなら人気も少ないから他の人に迷惑をかけることもないだろう。

 そして林の中にはノエルとセラに隠れてもらっている。一応伏兵だ。


「本当に来るかしら?」


 ローズは心配したような顔をしている。だがそれに関しては絶対大丈夫だ。


「来るには来るだろうな……そこから先は話し合いでは済まなくなるだろうけどな」


 俺がそういうとローズは笑った。


「上等よ……私だってそのつもりできてるからね」


 どうやらやる気は十分のようだ。

 本当はローズの分というか全員の分の魔法反射の盾を用意したかったが予算の都合上それはできなかったからなぁ。俺は不安に思いながらもメデューサのユリが来るのを待つのだった。



 人の足音が聞こえてきた。どうやらユリがきたようだ。


「……ご機嫌よう。良いところね」


 昨日とは違う落ち着いた口調でユリは挨拶してきた。


「だろ? ここは静かで気に入ってるんだ。こういう内緒話をするにはもってこいの場所だろ?」


 俺がそういうとユリは温和な笑みを浮かべた。


「ええ、そうね。ここなら死体が転がっていても周りの人が気づく事はなさそうね」


 物騒すぎてびっくりだ。こいつ言ってる事と表情が違いすぎだろ。


「そうね。それに関しては同意見だわ」


 そしてローズはユリを挑発する様にそう言った。死体になるのはお前だとユリに伝えているのだろう。


「へぇ……私に美貌を奪われた抜け殻のくせに偉そうね」


「お前のせいでしょ!!」


 ローズは逆に挑発されレイピアを握った。


「待て! まだ奴から目的を聞いてない!」


「くっ……」


 ローズは大人しく止まってくれた。


「あら、貴方はやる気じゃないのね……なんだったら私に付く? これでも腕には自信あるのよ? どうかしら普通の女じゃ味わえない体験できると思うけど?」


 そう言ってユリは妖しい笑みを浮かべた。流石絶世の美女なだけあって絵になるな。


「遠慮しとくよ。それにそれは自分が普通の女じゃないって言ってるのと一緒だぜ?」


 俺は笑いながらそう言った。


「貴方は私がメデューサである事を知っているのでしょう? なら隠す必要はないじゃない」


 因みに今日ここに集まる前にみんなにはアイツがモンスターではなく精霊のメデューサということは伝えておいた。


「それもそうだな。……単刀直入に聞くがなんでアンタの目的はなんだ?」


 俺がそう聞くとユリは笑った。


「愛されたかったからよ、人間から美貌を奪ったのもその為! 女に生まれたからには綺麗になりたい! 愛されたい! 当然でしょ? だと言うのにあのクソ神は私から全てを奪って……」


 そんな理由で……


「アンタの勝手な考えで自殺を考えた子がいる事を考えたことあるの!?」


 ローズが吠えた。


「知らないわよ。そもそも私以外の女なんて必要ないのよ!」


「……なら俺から質問したいだがユリの魔法はなんで美貌を奪われた人は醜い姿になるんだ?」


 これを聞いておきたかった。本来なら石化するはずなのになんで醜い姿になるんだ?


「あぁ、それね。私が初めて美貌を奪ったその日に仮面の女が現れたのよ……君の魔法は完成させるよりそっちの方が沢山の女性を苦しめられるってね」


 ……つまり原作でもローズはメデューサに美貌を取られたってわけか。そしてその魔法はゲームでは完成したけど今回は仮面の女って奴が助言せいで未完成だったのか……

 仮面の女は何者だ?


「その仮面の女ってのは?」


「さぁ? でも彼女は標的まで絞ってくれていたのよ。お陰で本来よりも早くこの美貌が手に入ったわ」


 ……本当に何者なんだ。まさか俺と同じ……いや、今はこいつに集中しよう。


「さっ、お話はここまでよ。私がここにきた理由は分かるわよね?」


 ユリはそう言って構えをとった。結局こうなるのか。


「えぇ、それがいいわ。このクソ女には地獄を見てもらわないと私の気が治らないわ」


 そう言って先程よりも強くレイピアを構えるローズ。


「まっ、そう言うことだ。悪く思うなよ。あんたが撒いた種だ」


 俺はそう言って剣を取り盾を構える。


『おお、盾を構えると一層俺はナヴィっぽいな!』


(もう黙ってろよお前)


 俺はタクヤの緊張感のなさに少し呆れてしまう。こっちはこれから死ぬかどうかの戦いを始めるってのに……


「私に葬られる事を光栄に思え人間!!」


 ユリはそう言うと今度こそ襲い掛かってきた。

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