第23話 出会いました
というわけで次の日俺はローズと2人でタクヤの説明があった店にやってきた。
なんで2人なのかと言うと一応メデューサの美貌を奪う魔法を警戒して2人だ。もしもまだ奪い取れるならセラやノエルも同じ目に合わすわけにはいかない。
ノエルは男だろって? ……一応念のためだ。
「で、本当にこんなところにモンスターがいるの? ……アンタの楽しみの為に来ているわけじゃないのよね?」
開幕からジト目だ。まあこれも仕方ない。タクヤが話していた店はピンク通りのど真ん中だ。
そして時刻は夜7時ごろ。客引きのために女の人が店の前に立っている。
中にはほぼ裸じゃ無いのかと思うような服を着ている人もいる。
「あら、その制服アイギスの学生さんじゃないかい」
2人で道を進んでいると女の人に声をかけられた。一応声をかけられにくくするために制服を着てきたんだが、相手はお構いなしのようだ。
「……悪いな、見ての通り彼女と歩いんてるんだ」
俺は軽くあしらうように女に言った。
「かのっ!?」
ローズがびっくりしたような顔をしている。
「その子が? あんた趣味悪いねぇ。そんな子より私と一発どうだい?」
「なぁ!?」
ローズも忙しいやつだな。驚いたり怒ったり。
それにしてもなかなか引き下がってくれない。
だが、これは良い機会かもしれない。こいつからメデューサがいるのか聞いてみよう。
「やるかよ。ところで聞きたいことがあるんだがフラワーのユリって知ってるか?」
俺がそう言うと女の人は忌々しそうな顔をした。フラワーは店の名前でユリというのはメデューサの源氏名らしい。
「……はぁ、アンタもユリ目当てかい」
どうやらこの人はメデューサのことを知っているみたいだ。
「ユリって有名なのか?」
「ん? そりゃ有名だよ。半年前に突然現れて以降その美貌に男どもは骨抜きさ。……私も一度ユリを見たことあるがアレは上玉なんてものじゃ無いよ。女の私が文字通り見惚れてしまったのさ」
……そこまでなのか。
「今から行って会えると思うか?」
そこまで人気なら急に会えるものではない様な気がしたので一応聞いてみる。
「十中八九無理だろうね。噂じゃ一年先まで予約で埋まってるらしいよ」
……やっぱりそうか。普通に会いにはいけないな。
「それでも会いたいの! どうにかならないの!」
ローズは女の人を問い詰めるようにそう言った。
「なんだい急に……まあでも会うだけなら簡単かもね」
「なに? 会うだけなら簡単なのか?」
「あぁ。客が帰る時に見送りがあるからねぇ。ただ、ユリクラスの稼ぎ頭ならそん時もボディガードが着いていると思った方がいいよ」
……なるほど。だが少しでも会えるのなら相手を誘う事は簡単だ。
「分かった、ありがとう。ローズ行くぞ」
「え、ええ」
俺はそう言って歩き出した。ローズも俺の後ろをついてきた。
「教えてやったのになにもなしかい!」
女が怒っていたのでチップ代わりに1万ゴールドを渡しておいた。
「これでいいか?」
「おっ、分かってるじゃないかい。今度来たら私を指名しな。サービスしてあげるよ」
女はそう言って違う男の方へ歩いて行った。
あれからフラワーの店の前まできた俺とローズは近くの壁にもたれかかってユリが出てくるのを待っていた。
「本当にいるのかしら……」
かれこれ1時間くらい待っているからかローズはそんなことを呟いた。
待っている間に何人か見送りをしていたが、絶世の美女と呼ばれるほどの容姿を持った人はいなかった。
「いるにはいるんだろうな。ただ、もしかすると今日は休みの可能性がある」
あの女の人が嘘をつく理由はない。ただ今日はユリが休みの日という可能性もある。
「……なんか騒がしくない?」
そんな話をしていると店の方が騒がしい。そして扉が開いたと思うと絶世の美女がいた。ふくよかな中年の腕を組んで妖しい笑みを浮かべている。
「あ、あれが……」
「あいつが……」
俺とローズの反応は真反対だった。事情を知っていたのに俺はユリに見惚れてしまった。
そしてそれとは逆にローズは今にも飛び出しそうな目つきでユリを見ていた。
「行くわよ!」
ローズに手を引かれてハッとする。……一度頭を冷やそう。
「よし、行くか」
俺はローズに引っ張られるように歩き出した。
「ゆりちゃーん。また来るからねー」
「はい、お待ちしております」
男は鼻の下を伸ばしながらユリは笑みを含んだ表情でそう言った。
周りを見るとユリの近くには黒い服を着た男が3人ほど立っていた。そしてユリを見て通行人は止まっていた。
普通に声をかけるだけじゃ普通にボディガードに止められて終わりだな。
俺の横にいるローズをチラリと見る。今にも飛び出していきそうだ。……此処で戦うのは得策ではないだろう。戦力もそうだが、向こうにはボディガードもいるし俺達が止められている間に逃げられるだろう。
ならどうするか? 相手からこっちにきてもらうしかない。
「メデューサ」
俺は小さく大きくない声で言った。そしてそれを聞いたユリが反射的にこちらを向いてきた。
ビンゴだ。タクヤを疑っているわけではないがこれでユリがメデューサというのは確定だ。
「何言ってんのよ?」
ローズは不思議そうな顔をしている。
そしてローズを見たユリの顔が驚いたような表情をしたように見えた。
「ゆりちゃん? ゆりちゃーん!」
先程まで鼻を伸ばしていた男がユリの名を呼ぶがユリは一切そちらを見ない。それどころかこちらを一点に見つめてきた。
「ユリ様?」
ボディガードの男はそんなユリを不審に思ったのか声をかけているがそれを気にせずユリはこちらへ向かってきた。
「……今なんと言った」
先程まで見せていた笑みは消え失せ無表情でユリはそう言った。
無表情なせいで何を考えているのか分からない。
「メデューサって言ったんだけど? 何年も生きてると耳が悪くなんのか?」
あえて俺はユリをこっちはお前の正体を知っているぞと挑発する。がユリは怒ることもなく無表情のままだ。
「アンタのせいで!」
ローズが怒りに任せて魔法を腰に差していたレイピアを使ってユリを刺そうとした。
「おい!」
俺が静止するがローズが止まる気配はない。だがユリはローズの刺突を指で軽々と止めた。
それを見たボディガードや周りの人間は驚いていた。当然だ。か弱そうな美女が指でレイピアを止めたのだだから。
「お前は……そういうことか。だが何故私の正体がわかった?」
「さあな」
俺はおどけるように肩をすくめた。
「……何が目的だ?」
「お前と話がしたい」
俺の言葉を聞いたユリは少し悩む仕草をした。
「この小娘はそのつもりはないようだが?」
「あぅ」
ユリは掴んでいたレイピアを軽く弾いてそう言った。ローズは弾かれた衝撃で倒れてしまった。
「理由は自分が1番よく分かってんじゃねぇか? 明日の昼此処にきてくれ」
俺は場所を指定した紙をユリに渡した。
「……私は別に話すことなどない。面倒な事になる前にここで殺してやる」
ユリはそういうが多分こいつのハッタリだ。こいつもここで目立った行動はしたくないはずだ。
「あぁ? やれるならやれよ。ただしお前はここにいられなくなるだろうな」
俺がそう言ってもユリは変わらず無表情だ。頬から汗が流れ落ちる。
……この威圧感にさっきの身のこなし、散々煽ったがこいつの方が格上なのは確かだ。
もしこいつがその気になれば俺らは……
「……ふん。いいだろう。その話乗ってやろう」
そういうとユリは紙を無造作に受け取った。
そしてすぐにボディガードが走ってきた。
「お前達! 何をしている!? 特にそこの醜い女!」
レイピアを握ったローズにボディガードがそう言った。
……周りを見ても全員がこちらに敵意の目を向けてきている。
……どうやって逃げるかな。
「ごめんなさい。彼らとは知り合いで少し複雑な関係なんです。許してください」
困っているとユリがボディガードに対してそう言った。どういうつもりかはわからないけど助けてくれるようだ。
「ユリ様……分かりました。ただしこのような事は2度とないようお願いします」
ボディガードはそう言って後ろに下がった。
「はい、ありがとうございます。2人も謝って」
ユリにそう言われて俺は素直に謝った。ローズは謝らなかったがどうにかその場はどうにか切り抜けることができたのだった。
帰り道、俺達は何も喋らずに歩いている。
「ごめんなさい」
ローズが突然声を出した。ローズを見ると申し訳なさそうな顔をしていた。
「俺の方こそ悪かった。ローズがアイツを見ればそうなる事はようできていたのに止められなかった」
「…………」
そういうがローズの顔は浮かないままだ。
「どちらにせよ明日は戦闘になると思う。むしろアイツの強さが分かったのはいい収穫だったさ。……明日は頼りにしているぞ」
俺はローズの背中を軽く叩いた。
「え、ええ! 任せなさい!」
そう言ってドンっと胸を叩いた。
そうだ、泣いても笑っても明日は確実に戦闘になる。ユリは秘密を知っている奴を生かしておきたくはないだろうからな。
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