第18話 現実は甘くありませんでした
「この部屋を便利屋サークルの部屋として使う」
クレム先生に案内してもらった部屋は校舎から少し離れたところにある小屋だった。
小屋と言っても普通に中は少し埃っているがソファーに机が置かれていて、快適そうだ。
「こんないい部屋使ってもいいんですか!?」
確かにこの部屋は校舎の教室よりも使い勝手が良さそうだ。
「あぁ。好きに使うといい。どうせ使われていなかった部屋だ」
「へー。結構いい感じの部屋のに誰も使ってなかったんっすね」
「ああ。学園長がここを応接室にしようとしていたらしいが、学園長の部屋から遠すぎると言う事でその話はなくなったそうだ」
ここの学園長は馬鹿か? そんなの作る前に分かれよ。
でもなるほど、だからこんなにも高そうな家具が設置されているのか。
「他に質問はあるか?」
「僕はないかな……アレクくんはどう?」
「俺もないな」
「そうか。ならば私は校舎の方に戻るとしよう」
ん? クレム先生はもう帰るのか。そっちの方が嬉しいけど……
「フォーリナー先生はもう帰っちゃうんですか?」
「すまないな。こう見えても忙しい身でな。なにか困ったことがあれば私の元へ訪れてくれ、では頑張れよ」
そう言ってクレム先生は帰っていた。
「帰っちゃったね」
クレム先生の背中を見届けながらノエルがそう言った。
「あぁ、そうだな……とりあえず掃除するか?」
部屋の状況を見て俺はノエルにそう聞いた。このままじゃ誰かを呼ぶ事もできないだろう。
「そうだね!」
俺達は部屋の掃除を始めたのだった。
そして部屋を綺麗にした頃には外が暗くなっていたので今日は解散して帰る事になった。
「そんな事があったのですね……それではこれからも帰りが遅くなりますね」
そして俺は夕食を食べながら出来事をセラに報告した。なんで俺がセラにそんな報告しているのかと言うと昨日の事件の話をどこかで聞いてしまったらしく、遅くなった事を心配されたからだ。
「そういうことだ。もし帰りが遅くなった時は先にご飯食べといてもいいぞ」
「いえ、そんなわけにはまいりません。私はご主人様の専属メイドですので」
セラはそう言うが食事なんていつ取ろうが関係ないだろうと思う。まあセラがそれでいいと言っているのだから口には出さない。
「そうか。……この唐揚げうまいな。しかも家で食っていた味に似てるな」
唐揚げを食べると懐かしい味がした。と言っても1週間と少ししか経っていないがこれは家で食べていた味だ。
「ありがとうございます。フラン様から教えていただいたのでそのおかげでしょう」
「よくそんな短い期間で覚えられたな」
そんな話をしながら俺達は夜を過ごしたのだった。
あれから1週間ぐらいの時間がだった。便利屋サークルの方はと言うと特に依頼はなく俺とノエルは放課後に集まって喋っているだけになっていた。
「はぁ、いい加減なんとかしないといけねぇなぁ」
俺は周りからの視線にうんざりしつつ登校する。あれから状況が良くなることもなく、悪くなることもなくと言った感じで今日も相変わらずみんなからの視線を感じる。
最近はみんな俺の事好きなんじゃないかな? なんて思い始めている始末だ。だって毎回毎回俺が通るたびに内緒話をしたりしてるんだぞ。裏で今日もアレク様格好いい! とか言ってるんじゃないか?
はぁ、やめよう。自分で言ってて悲しくなってきた。
「いてっ!?」
そんな事を考えながら歩いていると何かにぶつかった。
「何すんのよ! アンタ目どこにつけてんのよ!」
俺は倒れている相手を見て驚いた。この世界の人間にしては不細工すぎるのだ。
この世界の人間は基本的に容姿がいい。この世界の不細工というのは前世で言うと普通の人くらいで、この世界のイケメンとかだと前世の俳優レベルなのだが、目の前に倒れている女の子はオークのような見た目をしている。
髪の毛はきちんと手入れしているのか、綺麗な金髪をツイテールにしてドリルを作っている。確か縦ロールって言うんだっけか。
だが顔と体型がひどい。顔はぶつぶつがたくさん出来ていて体はふくよかを通り越してデブのレベルだ。
「あぁ、悪い。考え事してたせいか。気づかなかった。大丈夫か?」
だが、今回のは完全に悪い。それに相手の容姿は関係のない話だ。俺は素直に謝って起き上がりやすいように右手を出す。
「なによ! 馬鹿にして!」
すると目の前の女は俺の右手をパシっと叩いた。
「あ? 馬鹿なんかしてねぇだろ。悪かったって言ってるだろ」
女の態度にイラついて口調が荒くなってしまう。
「どうせさっきのだってわざとしたんでしょ! 私が醜いから!」
なんでこいつはこんなに好戦的なんだよ。喧嘩したいのか?
『うーん。うるさいなぁ。また喧嘩か?』
するとポケットの中で眠っていたタクヤが出てきた。
(またってなんだよ。しかもこれは喧嘩じゃねぇよ。こいつが謝ってるのに言いがかりつけてくるんだよ)
『げっ!? ローズ・メリクリス!?』
タクヤは驚いたようにそう言った。
(知ってるのか?)
『知ってるも何も忘れたのか? 彼女はゲームアイギスにおける厄介キャラだぞ。ランダムイベントで彼女と出会うと主人公のアレクに様々なデバフがつくんだよ』
(……そう言えば、そんなキャラいたような気がする。そのせいで俺が戦闘で何回ゲームオーバーになった事か)
「なに無視してんのよ! 聞いてるの!?」
『ここは無視するのが吉だ。さっさと行こうぜ』
タクヤの言う通りか。一応俺は謝ったし、謝罪を受け取らなかったのは向こうだ。
俺が歩き出そうとした時後ろから声が聞こえた。
「イニアエスエル様! この化け物に絡まれているのですか!?」
声のした方向を見ると男子生徒が立っていた。そしてその後ろには何人かの男女がいる。そして全員がニヤニヤとしていた。
化け物というのはローズのことだろうか。
「あ? お前は?」
「私の名前はキール・エモット。一年生です。位は伯爵です。よろしくお願いします」
などと一年のキール君は聞いてもいないのに貴族の位まで教えてくれた。
「そうか。それでお前らは何しにきたんだ?」
「何って化け物に困らされているイニアエスエル様の手助けですよ!」
そういうとキール君はローズの腹へ向けて渾身の蹴りを放った。
「うっ……」
ローズは腹を抱えてうずくまってしまった。
その光景を見たキール君の連れはケラケラと笑っていた。ほかの周りの生徒も見ているだけで助ける気はなさそうだ。
「おやおや、君はまた髪の毛を手入れしちゃって……醜いからオシャレはするなと言っただろ!」
そう言ってキール君はうつ伏せになっているローズへ蹴りを入れる。
この状況を見るに普段からローズを虐めているのだろう。
「ぅぅ………」
「君みたいな化け物はちゃんと化け物しないと……僕がその髪の毛を燃やしてあげよう」
そう言うとキール君の右手から炎が出現した。
「や、やめて! 髪の毛だけはやめて!」
ローズは涙を流しながらそういった。
「キャハハ! 私も手伝ってあげる! 面白そうじゃん!」
そう言って取り巻きの1人の女が手に炎を宿した。
『いくらなんでもこれはやりすぎだろ……』
タクヤは怒りを露わにしている。俺も見ていて面白くない。というかしょうもなさすぎる。
俺はローズの方へ向けて歩き出した。
「おぉ! イニアエスエル様も手伝ってくれるのですかぁぁ!?」
俺は思いっきりキール君の顔面に蹴りを入れた。
「な、なにをぉぉぉ!?」
取り巻きの女も驚いているが、女の顔面にも容赦なく右ストレートをいれた。
2人とも変な顔になっていて少し面白かったのは内緒だ。
「いきなり何を!」
俺は仰向けに倒れているキール君の顔を掴んだ。
「こいつ俺のおもちゃなんだわ。勝手に手出しされると困るんだよなぁ」
俺はそう言って力を強める。
「いつ、つつつつ!」
力を上げるにつれてキール君がのたうち回る。
「いいか? 2度と手を出すなよ?」
「わ、分かりました!」
俺はそれを聞いてからキール君の頭を地面に叩きつけた。
「ガハッ」
……キーラ君は気絶したようだ。ついでに調子に乗った罰だ。髪の毛を燃やしておこう。
俺はキール君の金髪の髪の毛に火の魔法を使って燃やした。するとキール君の髪の毛はちんげのようになってしまった。
全部燃やすのは可哀想だしこのままにしておこう。
ちんげ君じゃなくてキール君もそっちの方がいいだろう。
「立てるか?」
「…………」
ローズは何も言わない。……ここにいても仕方ないし、俺は学校へ向かうか。
俺は素知らぬ顔をしてこの場を離れるのだった。
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