第16話 デビュー失敗しました
「以上で授業を終了する」
クレム先生は授業が終わるとすぐに教室を出ていった。それを確認した生徒達は席を立ち各々のグループに固まった。
……腹減ったな。
「アレク君! 一緒にご飯食べない?」
前の席のノエルがそう提案してくれた。嬉しいけどこいつよく俺に話しかけようと思ったな。朝の事件があったせいか。誰も俺と目すら合わせようとしないのに
(なぁ、ノエルってゲームではどんなキャラだったんだ?)
俺はタクヤに質問した。あまり考えたくはないがノエルが腹黒キャラという線もあるので一応聞いておく。
『んー。分からないんだよな。必死に思い出してるんだけど……ノエルなんてキャラいなかったんだよな。だから多分モブだと思う』
(モブぅ? ノエルみたいな属性モリモリのやつが?)
今俺の目の前で可愛らしく首を傾げる仕草をしているピンク髪の男の娘。これがモブなんて俺は信じる事ができない。
「もー。無視しないでよー!」
そういうと俺の頬をツンツンと触り始めた。こいつ本当に男だよな?
「悪い。考え事してた。ご飯だよな? 一緒に行こうぜ」
「うん! 僕が案内するからついてきて!」
そういうとノエルはガバッと立ち上がり俺の前を歩き始めた。
「どうどう? ここのご飯美味しいでしょ?」
あれからノエルに案内されて俺は学食までやってきた。俺が頼んだのはラーメンだ。ノエルはステーキ定食だ。
なんでラーメンがあるのかって? そんなものは知らん。ゲームの世界だけあってそこら辺は割とあべこべだ。世界観的には中世ヨーロッパなのに普通に白米もあるしな。
「ああ、美味いな」
俺はズルズルと麺を啜りながら答えた。
そうしている間にも周りからの視線が途絶えることはない。それに朝の事が広まっているのか暴力がどうこうと話しているのも聞こえてくる。
「……なぁ、ノエル。お前はどうして俺に話しかけるんだ?」
俺は思ったことを聞いた。ノエルだけだ。こんなに友好的に接してくれるのは、あのイケメンリヒトでさえ朝の事があってからは少し距離を置かれているように感じる。
「え? なんでってアレク君が凄いからだよ! 噂に聞いたスタンピードの話もそうだけど今日の朝もカッコよかったしね!」
そう目をキラキラさせながらノエルは言った。
「……格好いいねぇ」
自分で言うのもなんだが朝の行為は騙し討ちみたいなもんだ。それを格好いいというのは流石にどうかと思う。
「うん! だってもし僕がアレク君と同じ立場だったら何もできずに下を向いていただけだと思うし……」
そう言ってノエルは視線を下げた。
そう言うことか。ノエルの格好いいというのは俺がいじめに対して立ち向かった姿勢のことを言っているのか。
「だからアレク君は凄いんだよ!」
ノエルは笑顔でそう言った。
「お、おう……」
ノエルの容姿に加えてここまで褒められた事がなかった俺は頬をかきながらラーメンに視線を移した。
「アレク君?」
「さっさと食おうぜ、昼からも授業はあるんだろ?」
俺は恥ずかしいのを隠す為にラーメンを一気に食べた。
「うん!」
そう言ってノエルは小さい口でステーキを頬張った。
……こいつ本当に男だよな?
俺は何度目になるかも分からない疑問を浮かべるのだった。
「ただいまー」
あれから昼の授業も全て聞き流した俺は寮へと帰った。
「おかえりなさいませ、初めての学校はどうでしたか?」
俺はソファーに顔面からダイブした。
「つまらん。疲れた。帰りたい」
俺は本音を話した。いくらノエルと話しているとは言え授業中が退屈すぎる。
ついでにクレムの授業に関しては寝ようとすれば鉄拳が飛んでくる始末だ。
ニートの頃が懐かしいぜ。
「はぁ、アレク様はブレませんね。……お友達はできましたか?」
お前は俺の母さんか。
「まあ、一応多分できたと思う」
友達なんてもの16年間で1度も作っていなかったから断言はできないがノエルは多分アレクになってからの始めて友達だろう。
「えっ!? できたんですか!?」
とセラは聞いてきたくせにとても驚いている。失礼な奴め。
「なんでそんなに驚いているんだよ」
「……そのお金を渡しただけでは、友達とは呼べませんよ?」
俺はその発言を聞いて吹き出してしまった。
「それくらい俺でも分かるわ!」
「そ、そうですよね……コホンッ、その方はどんな方なんですか?」
「んー、一言で言うと男の娘」
「男の子?」
セラは頭にはてなマークを浮かべている。まあ流石に通じないわな。
それから俺とセラは他愛もない話をしながら過ごすのだった。
時刻は夜の12時過ぎ、セラは寝ているが俺はタクヤに起こされた。
(俺がソファーで寝たら邪魔しないんじゃなかったのか?)
俺はムスッとしながらタクヤに話しかけた。俺が気持ちよく寝ていたと言うのにこいつは俺の横で起きろー! と叫んできたのだ。
セラは当然聞こえていないから目を覚さないが俺は目が覚めてしまった。
『そのことについては謝るよ。でも今日中に話したい事があったからさ』
(なんの話だ?)
セラを起こすわけにもいかないので声は出さない。
『アレクの未来についてだよ』
(俺の未来ねぇ。でもあのジジイの言ってた試練ってやつは乗り越えたぞ?)
スタンピードが最初の試練というのなら俺は乗り越えた。
『ああ、それは分かってる。でもあれは本当の試練じゃない。本当の試練の前の前座のうちの一つでしかない』
タクヤはどこか確信を持ったようにそう言った。
(なんでそこまで自信を持って言えるんだ?)
『未来の爺さんがどんな選択をしたかは分からないけど、スタンピードの件に関してはアレクがどんな選択をしたとしても母さんが死ぬ事も無かったし。被害も大した事無かったと思うんだ』
……それは俺も薄々感じていた事だ。
(クレム先生がいたからだろ?)
『その通りだ。もしもアレクが何をしなかった場合、クレム先生が正体をバラして一人でスタンピードを解決していたと思う』
(だろうな。だがどうするんだ? 仮にアレが前座だったとして何ができるんだ? 本当の試練ってやつも分からない状態だぞ?)
『だからこそアレクは今、力を溜めないといけないんだ』
(じゃあ何か? 俺に特訓でもしろってか?)
『いや、そうじゃない。信じられる強い仲間を増やした方がいい。そしてなるべく敵を減らすんだ』
(……強い仲間に敵を減らすねぇ。それが簡単にできれば苦労しないぜ)
『簡単じゃないとは思う。……でも今ならできるはずだ!』
(今なら? どういう事だよ?)
『ゲームアイギスの物語は主人公アレクのアイギス学園での3年間を描いた作品だ』
(それはなんとなく覚えてるぞ。3年の最後に確か戦争を止めるんだよな?)
俺は記憶をなんとか搾り出してタクヤに聞いた。
『その通りだ。そしてこの3年間は良くか悪くか有能な人達や重要な人物とたくさん遭遇できる。と言ってもアレクが無駄に時間を過ごしたせいであと2年だけどね』
最後に嫌味を入れてくるあたりタクヤも性格が悪い。だがなんとなく言いたいことはわかった。
(つまりイベントが沢山起こる今のうちに仲間を集めろって言いたいのか?)
『そういうことだ。それにこの期間の間なら俺のサポートもかなり有効だと思う』
確かにな。何せこの3年間の動きをタクヤは完全に知っているからな。
(……それは分かったけど、どうするんだ? 今の俺の学生からの評価はゼロどころかマイナスだぞ?)
『…………』
俺がそう聞くとタクヤは黙り込んでしまった。
(おい! 1番重要な部分を考えてなかったのか!)
『……そこは、アレクに考えてもらおうかなって。俺にできるのは原作に基づいてのアドバイスだけだし』
1番大事なところを丸投げとはこいつも中々いい度胸だ。親の顔が見て見たいもんだ。……って俺の親か。
『……まっ、そういうわけだから頼んだぞ! おやすみ!』
好き放題言ったと思ったらタクヤは俺の布団の中に潜り込んでしまった。
……しかし学生からの好感度を上げる方法かー。
俺はそんなことを考えながら目を閉じるのだった。
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