第15話 仕返ししました

「えっと、その昨日までは……こんなことなかったんだけどなぁ」


 ノエルは困ったように笑いながら言った。


『……これは酷いな。そのお前は何もしてないんだから気にする事ないと思うぞ?』


 タクヤも俺の事を心配してかそんな事を言い始めた。


 すると教室の扉がガラガラと開いた。


「ん? どうしたんだい? こんなに静かになって?」


「そうよね……ってあれは……」


 どうやら男女のペアが入ってきたようだ。俺は2人の方向を向くとなんか見覚えがあるなと思ってしまう。


 片方は金髪のイケメンで爽やかな笑顔が似合いそうだ。

 もう片方はセラとは違うタイプの美少女で金髪のツインテールだ。セラが美人よりだとするならこっちは美少女よりだ。


『リヒト・ヴィンセルフにエリザベート・フォン・ローズベルト!? なんで2人が仲良さそうに……』


(……2人とも聞いたことある名前だ)


『お前覚えてないのか!? ってか知らないのか!?』


(覚えてない。なにせ16年前の話だぞ?)


『それなら仕方ないか……いいか! 2人はメインキャラだ! 男の方がリヒト・ヴィンセルフ。ゲームでは悪役として主人公アレクの妨害を図ろうとして最終的に死んだ男だ。因みに国の双刀のもう片方でもある』


 つまり俺と同じ立場ってことか。その情報を聞いてなんとなく思い出した。


(でもリヒトから邪悪な気配を感じないぞ?)


『その理由は俺にも分からない。そしてもう1人のエリザベート・フォン・ローズベルトはメインヒロインの1人でこの国の国王の娘だ』


(あー! ローズベルトって聞いたことあると思ったらそういうことか!)


『嘘だろ? ……お前今までどんだけ適当に過ごしてきたんだよ。原作のアレクは何かと王に呼び出されていたぞ』


(最初の方は来てくれって言われたけど毎回体調不良で休んでたらそのうち声がかからなくなった)


『ほんと何してんの!?』


 そう言われても過ぎたものは仕方ない。しかしライバルキャラにメインヒロインが一緒にいるとはどう言うことだ?


「君はアレクかい!?」


 とリヒトは驚いたようにそして嬉しそうにそう言った。


「ん? そう言うお前はリヒトだな」


 俺はさっきタクヤから聞いた情報を頼りにそう言った。


「覚えてくれていたなんで嬉しいよ。小さい頃以来だね!」


 そう言ってハグをされた。まさか一度会っていたとは驚きだ。だがタクヤのおかげで助かった。


「お父様からの呼び出しは無視するくせに学園には来るのね」


 とエリザベートからは嫌味な感じで言われた。


「無視じゃないぞ? たまたま体調が悪くてな。仕方なかったんだよ」


 そう言うとエリザベートは呆れた顔をした。


「まあ私達には貴方なんていなくてもリヒトがいるから大丈夫だけどね!」


 とない胸を張り出して自慢げに言った。


「やめてくれよ」


 そう言うリヒトもまんざらではなさそうだ。


『はっ! わかったぞ! リヒトが原作で悪役になった原因は好きだったエリザベートをアレクに取られた嫉妬からなんだ! そしてこの世界ではお前が何もしてなかったからリヒトは普通なんだ!』


 という事はつまり……


(ふっ、無自覚に人を救ってしまったか)


『……そう言うと聞こえはいいな』


(だろ? 俺は聞こえのいい言葉を話す天才だからな)

 

 そんな事をタクヤと話しているとリヒトが俺の机を見つけたようだ。


「これは!?」


 リヒトは驚いたような表情を浮かべている。


「……酷いわね」


 エリザベートも同情してくれてるようだ。


「2人はこれを誰がやったのか心当たりあるか?」


 俺がそう聞くと2人は首を横に振った。……なら仕方ない。犯人探しをするか。


 俺は1番前に行き教卓に手をつく。


「俺の机に落書きがされてあったんだが、誰か知らないか?」


 俺の言葉への反応は様々だ。知らないふりをする人首を振る人、下を向く人興味なさそうにする人。

 これじゃあ誰も答えてくれないな。


「よし! ならここに100万ゴールドある。犯人を1番最初に教えてくれたらそいつへ上げよう。

 ……ただ、普通にやっても面白くないな。そうだ。5万ゴールドずつ値段を上げていく。お前らは好きなタイミングで教えてくれ、そしたらその額を上げよう。じゃあいくぞ?」


 この教室には貴族以外の実力で入ってきた奴もいるはずだ。そういう連中は金がない事が多い。

 後オークション形式にした理由はちょっとでも食いつきを上げるためだ。


「待ってくれ! アレク、ここまでやる必要はないんじゃないか?」

 

 とリヒトは俺がやろうとした事を止めた。


「犯人がわからないとお前達も不安だろ? だってこの中に平気で人を陥れる事ができる人間がいるんだぞ? お前も不安だろ?」


 当然俺は止まるつもりはない。


「それは……」


 リヒトも何も言えないようで後ろに下がった。


「よし、じゃあまずは5万ゴールド。……10万ゴールド……15万ゴールド……」


 それから俺は淡々と金額を上げていくのだった。


「70万ゴールド……そろそろ知ってるやつは名乗り出た方がいいと思うぞ? じゃないと誰かに先越されるぞ? 75万ゴールド……おっ、手が上がったな。って事は答えてくれるって事だよな?」


 75万ゴールドの所で手が上がった。手を上げたのは少し痩せ気味の青年だった。

 揺さぶりが効いたようだ。


「そ、それを本当にくれるのかい?」


「……先に答えてくれ」


 そういうと男は悩んだような顔をしたがすぐに口を開いた。


「……フォール君達です!」


 そう言って太めの男に指を指していった。

 太めの男は焦ったような顔をしている。


「俺はやってない!」


 そして反論した。


『フォール・フィートか……確かにアイツとその取り巻きならやるかもな。原作でも小物だが一度敵として出てきたし』


(そうか……)


 タクヤがこういうという事は間違いないはずだ。なんたってこの世界の知識を持ってるんだからな。


「じゃあ約束通りゴールドを……」


 そう言って俺の元までやってきたので左手でゴールドを上へ持ち上げ右手で痩せた青年を殴った。


「アレクパーンチ!」


 渾身の右ストレートが痩せた青年の右頬に刺さる。


「「『えぇぇぇぇぇぇ!?!?!?』」」


 その場にいる全員。いや俺を除く全員がそう叫んだ。


「スッキリしたー」


 かくいう俺は気分爽快だ。メインが残っているとは言え、少し鬱憤が晴れた。


「な、なんで僕を殴るんだよ! 金をくれる約束だろ!?」


 殴られた男はそう叫んだ。


「? やるとは言えってないだろ?」


「あげるって言ったじゃないか!」


「うん、だから上げてるだろ? 一番最初に犯人を教えてくれたお前にむけて」


 俺は左手を見せる。俺は確かに75万ゴールドを左手で持ち上げている。

 重いからもう下ろしたいくらいだ。


「アレク……」


 リヒトからは何故か呆れられた目で見られる。


『お前そういうとこだぞ?』


 タクヤからもそんな事を言われた。


「そ、そんな! 詐欺だ! それに殴る事ないじゃないか!?」


「知ってるか? いじめってのは見てる側にも責任があるんだぜ?」


 俺はそう言って指をわさどポキポキ鳴らしながらフォール君の方へ向かう。


「よぉ? フォール君。君がやったんだってな?」


「お、お前、頭おかしいのかよ」


 さっきの状況を見てかフォールはかなり冷や汗をかいている。


「そんな頭おかしい奴を相手にしたお前は運がないな……」


 そんな話をしよていると突然扉がガラガラと開いた。


「……何をしているんだ?」


 入ってきたのはクレアだ。今はスーツを着ている。流石に冒険者の格好はしていないようだ。


「フォーリナー先生! ア、アイツが……」


 殴られた生徒がクレアの元へ行って助けを求めた。


「ラングスマンか。どうした?」


「アレクが……」


 そうしてラングスマンと呼ばれた生徒はこれまでにあった事を話し始めた。


「ふぅ。お前は登校早々何をしているんだ」


 話を聞いたクレアはやれやれと言ったふうにそう言った。


「俺は悪くないね。むしろ被害者だ。登校初日にこんな事をされて泣きそうだ。大体クレアが学校に来いといはなければこんな事にはならなかったのになぁ」


 俺は態とらしく手に手を上げてよよよという。

 そしてクラス全員が俺が敬語を使ってない事に驚いている。そしてクレアって誰? と言っている。


 あっ、忘れてた。クレムだったな。慣れないな。


 すると俺の頭に衝撃が走った。


「うぉぉぉ」


「馬鹿者。私はここではクレムだ。そして先生だ、敬語を使え」


 いつのまにか近くに来ていた。クレア……クレム先生の仕業だ。拳骨されたのだ。


「次にフィート。お前がやった行為は貴族以前に人として恥ずべき行為だ。3週間の停学だ。それとラングスマン。お前が卒業して社会に出ればこういう揚げ足を取った詐欺まがいの行為を仕掛けてくる連中は沢山いる。今回はそれの勉強だと思え」


 ……詐欺まがいって酷くない?


 そしてクレム先生は何事も無かったかのように教壇へと上がった。


「話は終わりだ。フィートはすぐに寮へ戻れ。そして反省文を書いておけ。……アレク何をしている?」


 俺が帰ったフォールの机をも立ち上げているとクレム先生からそんな事を言われた。


「机の入れ替えっすよ。落書きされたままだと嫌なんで」


「……そうか。すぐに済ませろ」


 その件については特に何も言われる事はなかった。


 そうして机を入れ替えた俺は席へ座ってクレム先生の授業を聞き流すのだった。

 

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