第10話 演説しました

「お帰りなさいませ、そちらの方達は?」


 家に帰るとフランに出迎えられた。

 今現在俺と一緒にいるのはセラとクレアだけだ。

 ソレイユとガルスは一度護衛の任務を解き休んでもらっている。……ソレイユは作業の監督に行っていそうだがな。


「Bランク冒険者のクレアでーす! アレク様に個人的に雇われました! この2日間はアレク様に着いて回ることになったんでよろしくお願いしまーす!」


 クレアが自己紹介を始めた。元気いっぱいだな。


「私はセラです。仮にですがご主人様に雇われた奴隷です」


 セラはそう言って軽く頭を下げた。


「奴隷……アレク様はやはりアレク様なのですね」


 ヒクヒクと眉毛を動かし後、呆れたようにフランはそう言った。


「お前が思っているような理由で雇ったわけじゃないからな!」


「それにしてはお2人とも美人ですね。はぁ、まあいいでしょう。私はイニアエスエル家に仕えるメイド長のフラン・アルケニアです。よろしくお願いします」


 そう言って上品にお辞儀をした。


「それとニーナ様の事でマリア様が話があると仰っていましたよ」


 ……話してなかったから怒ってるのかなぁ。いや、母さんにかぎってそれは無いと思うけど。


「……分かった。母さんはどこに?」


「今でしたら食堂にいらっしゃいます」


「OKだ。じゃあ俺のご飯と2人の分もついでに用意してもらっていいか?」


「かしこまりました」


 そういうとフランは部屋の奥へと消えていった。


「2人とも食堂に行くぞ」


「うん!」


「はい」


 俺は家の中を2人に案内しながら食堂へと向かった。


 



「母さーん帰ったよ」


 食堂に入ってそういうと母さんが誰かと食事を取っていた。もう1人はニーナか。


「アレクちゃん! おかえりなさい! ってあら、アレクちゃんが美人さんを2人も連れて帰ってくるなんて! お母さん嬉しいわ!」


 と一人でテンションを上げて喜んでいる。隣のニーナは頭にはてなマークを浮かべている。


「優しそうな人だ……」


「そ、そうですね」


 クレアとセラが驚いている。


「何を驚いているんだ?」


「だってアレク様のお母様だったらアレク様の数倍性格がひん曲がっているんだとばかり……」


 うんうんとセラが隣で頷く。


「お前ら失礼だな! 大体俺は性格悪くないぞ!」


「それはない」


 二人が口を合わせてそう言った。


「はぁ、とりあえず席に座るぞ。そっから全員で自己紹介だ、それでいいな?」


「はい」


「うん!」


 俺達は席に座って自己紹介をした。


「私、ニーナ! 5歳!」


 ニーナの自己紹介も終わり全員の自己紹介が終わった頃食事が運ばれてきた。

 それを食べながらニーナと話をする。


「ニーナ、急に連れてこられてびっくりしたか?」


「う、うん!」


 俺が話しかけると緊張したようにそう言った。


「実はな、バレッタお姉さんからニーナを数日預かってくれって言われたんだ」


 俺がそう言うと事情を知っている2人がマジかこいつと言う目で見てきた。


「えー! ママが?」


 バレッタのやつママって呼ばれてんのか……別にいいけどさ。


「そうそう、いつも孤児院生活じゃ飽きるだろうからって! ここにいる間は好きな事してもいいからなー」


「本当!? じゃあね、じゃあね! 絵本! 絵本読みたい!」


「じゃあ私と読みましょうねー」


 母さんが優しくそう言った。


「うん! 読む読む!」


 そう言ってニーナは勢いよく飛び出してしまった。


「待って! ニーナちゃん! 私も行くわ!」


 と母さんも追いかけて行ってしまった。


「ご主人様はよく、そんな嘘がペラペラと出てくるものですね」


「セラ……なんかひどくね……」


「自業自得だね」


 そんな調子で俺達は食事をとっていくのだった。




「領民の皆様が城の前に到着したようです」


 昼を終えて母さんにニーナについて友達から預かるように言われたと説明し終わってゆっくりしているとフランから報告が入った。

 ……嫌だけどやるしかねぇか。


「私達はどうすればいいかな?」


「2人は待機で構わない。俺1人で行くからな」


「りょーかい」


「分かりました」


 俺は2人を部屋に置いてフランと共にバルコニーに出る。

 下を見ると領民で埋め尽くされていた。この町の住人、ほぼ全員ここにいるのだろう。


「今日はよく集まってくれた!」


 俺は拡声石をつけた状態でそう言った。反応は薄い。俺の遊びか何かで集められていると思っているのだろうか。


「今日お前達に集まってもらった理由はこの町にモンスターの軍勢が向かってきているからだ!」


 俺の言葉を聞いた住人は戸惑っているのか一生に喋り始めた。


「これは冗談でもなんでもない! 事実だ! そして現在俺の父は軍事演習により不在だ! だから代わりに俺がこの場で話している!」


 そう言うとざわざわは一層強くなった。


「そして現在この町には兵が足りていない! その数はたった1000だ! そしてモンスターの軍勢は5000! 数の差は明らかだろう!」


 絶望しているのか声が聞こえなくなった。


「だから俺からお願いがある! 戦える者は一緒に戦ってくれないだろうか! もちろん前線ではなく、後方でだ!   無理は承知の上だ! だが頼む!」


 そう言って俺は頭を下げる。


 すると返ってきたのは怒声だった。


「ふざけるな!」


「それをなんとかするのがお前の役目だろ!」


「俺達だけでもこの町から脱出させろ!」


 と様々だ。しまいには石まで飛んできた。その内の一つが俺の頭に当たった。

 頭から血が流れてくる。だが俺はその場を動こうとしない。


「アレク様!」


 後ろでフランが心配そうな声を出している。


 そして徐々に領民達は静かになっていた。


「そうか。お前らの意見はよく分かった。なら俺もお前らと逃げるわ。もちろん兵士も無駄死にさせる訳には行かないから一緒に逃げよう」


 俺がそう言うとはぁ!? と領民全員が言った。


「全員で逃げたらモンスターの方が移動速度が速いから追いつかれるだろうな。そしたら足の遅い子供や老人から殺されていくんだろうなぁ」


 俺がそう言うとまた怒声が響く。


「でも領民がいない町を守っても仕方ないしなぁ。全員で逃げよう! そしたらもしかしたら運良く数人は生き残るだろうな! そうしよう!」


「ふざけるなぁ!」


「マリア様を出せ!」


 様々な声が聞こえてくる。


「それが嫌なら戦えよ、何もお前達に前線に立てって言ってる訳じゃないんだ。魔法を使える者は魔法で援護を! 弓を使える者は弓で援護してくれればいい。戦えない者はモンスターがくる前に一緒に罠を作ってくれればいい。

 勿論俺は命を賭けてこの町を守る!!

 ……だから選べよ、全員で死ぬか! 全員で生きるか!」


 俺の言葉に全員が黙り込んだ。


「沈黙は了承って事でいいな? あとから副団長のソレイユから指示がある。それに従ってくれ」


 俺は反論を聞かずに家へと戻った。


「アレク様! 血をすぐに止血しましょう!」


 フランは一体何を焦っているんだ? 

 ちょっと怪我をしただけなのに。アドレナリンが出ているせいか痛みもそう感じない。


「何を焦っているんだ?」


「そりゃ焦りますよ! いくらクズでも赤ちゃんの時から見ているんです! 情くらい移りますよ!」


 ……そうか。


「ありがとな」


 あの時ジジイがあそこまで深々とお礼をしていた意味が今、分かったような気がした。






「……入ってもいいですか?」


 その日の夜。


 セラが俺の部屋のドアをノックしてきた。


「ん? ああいいぞ」


 そう言うとセラが入ってきた。セラには客室に泊まっていて貰ったがわざわざ俺の部屋にくるなんて何のようだ?

 セラをソファに座らせてから俺も対面に座った。

 いい匂いがする。どうやらセラは風呂上がりのようだ。


「それで何かようか?」


「…………」


 セラは一向に喋り出そうとしない。


「……なに? エロいことでもしにきてくれにきたのか?」


『ぐるるるる』


 俺が冗談でそう言うとタクヤが威嚇してきた。お前は獣か。


「命令でしたら構いませんよ」


「えっ……いや、いい」


 思わず視線を外してしまった。まさかストレートに言われると思わなかったからだ。


『その反応さてはテメェ、童貞だな』


(うっせぇ、お前に言われたくねぇよ。童貞)


『ど、どどど童貞ちゃうわ!』


(嘘つくな。お前は俺だぞ)


『そうだったな……俺はお前だもんな……』


 どうやら俺達はお互いに傷を広げあってしまったようだ。


「ふふっ、ご主人様に拾われたのは正解だったかもしれませんね」


 セラは笑ってそう言った。そこには昼間までの敵意は一切なかった。


「そうかよ……」


「そうです。……今回色々な手段を尽くしているのはお母様の為なんですよね」


 ブフゥと俺は吹き出してしまった。


「ち、ちがうぞ?」


「お母様から話は聞きました。嬉しそうに話してましたよ。やっとアレクちゃんが本気を出してくれたって」


 俺は恥ずかしくてそっぽを向いた。


「……少し、羨ましいです。私は生まれてから両親とは直ぐに別れてしまいましたから……」


 奴隷として売られていたもんな。


「言いづらければ言わなくてもいいが、生まれて直ぐに奴隷になってしまったのか?」


 失礼だと思いながらもセラの事をもう少し知りたくなったので質問をした。


「いえ、私は奴隷になってから1年しか経っていませんよ」


 って事は両親と別れた原因は他にあるのか。


「それでも一年ってのは長いな。セラは容姿もいいし、直ぐに買われてもおかしくないのにな。今まで買ってこなかった奴は目が腐ってるぜ」


「むー、それは褒め言葉ですか? ……まあ一応褒め言葉として受け取っておきます。多分ですけど私エルフですから高いんですよ。だから買う人がいなかったんですよ」


 少し膨れ上がった頬を見せてそう言った。あざといな。


「へー、いくらなんだ?」


「5000万ゴールドです」


「は!? 5000万だと!?」


 そりゃ買われないわけだ。実質買わすつもりないじゃないか。


「……私は多分目玉商品ってやつだったんです。だから他の子より待遇も良かったんです。でも他の子は違います。劣悪な環境でご飯もろくに食べさせてもらえず、中には檻の中で死んだ子もいます! 

 それにやっと買ってもらえたと思っても、買ってもらった先で虐待を受けて深い傷をおってまたキャラバンに戻ってくる子もいます! そんな子達と違って私は!」

 

 と自分を責めているのか奴隷商に奴隷を買う人間、貴族達を恨んでいるのかわからないが手から血が出るくらい拳を握っていた。

 ……これがあの敵意の篭っていた目の理由か。


「落ち着け! それはセラが働きを見せてくれたら解放するか考えると言っただろ!」


 ついそんな事を言ってしまった。考えるだけだと自分で思っていたのに。


「……すみません」


 セラは申し訳なさそうにしている。


「もう部屋に戻れ、明日からはみんなと一緒に堀を掘ってもらうことになるからな」


「……わかりました」


 俺はそう言って、セラを部屋へと返した。


「……セラの件どうすっかなー」


 俺はベッドに寝転がり手で目を覆ってそう呟くのだった。

 

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