第8話 お願いされました
「落ち着いたっすか?」
テントを出て少し出てからガルスにそう聞かれた。
「あぁ、すまなかった。ちょっと暴走してしまった」
セラの方を見るとセラは少し離れてた位置で俺達の方を見ていた。
「奴隷商との取引は終わりましたがこれからどうなさいますか?」
ソレイユがそんな質問をしてきた。
「とりあえずはセラの服をどうにかしないといけないな。それが終わったら冒険者ギルドに行こう」
セラの格好は茶色の薄い布を一枚羽織っているだけだ。ワンピースのようになっているが、流石にこれじゃ可哀想だろう。
「それはそうですね」
ソレイユは頷いた。
「じゃあそういう事だからガルス任した」
「は!? え、ちょっ! なんで俺なんっすか!?」
理由は簡単だ。この中で1番女の子慣れしてそうだし。
「だって女の服とか選ぶの得意そうじゃん」
「いやー否定はしないっすけど……」
と、すかした様子でそう言った。なんか腹立つなぁ。
「私の服の話なんてどうでもいいです。それよりも私からお願いがあります」
俺たちが話していると突然横からセラが入ってきた。
「お願い?」
さっきまで敵意剥き出しだったのに突然なんだ?
「はい。私がこの戦で成果を上げたなら奴隷達を解放していただきたいのです」
「……俺は奴隷商から金を出してお前たちを借りているんだ。戦果を出すのは当然のことじゃないか?」
俺の言葉にソレイユとガルスは渋い顔をした。
「私はどうなっても構わないのです! ただあの中には攫われてきた幼い子もいるのです! 私は命令さえ頂ければなんだってします! ですから……あの子達だけでも助けてあげてください! お願いします!」
と突然土下座された。
「は? なんでも?」
なんでもってなんでもか!? あんなことやこんな事もか!?
「……アレク様!」
「クズな部分出てますよ」
と2人から呆れられてしまった。
『セラさんには俺の目が黒い内は何もさせないからな!』
とタクヤからも釘を刺された。
「はぁ、分かった。なんでもはしなくてもいい。ただ戦場に出て成果を出せばその件は考えてやる」
俺がそういうとセラは頭を上げた。
「本当ですか!?」
「ああ。考えておいてやる」
まっ、考えておくだけなんですけどね。現実問題として奴隷を全員解放してあげるだけの金なんてないしな。
『お前考えるだけとかじゃないだろうな』
とタクヤが鋭いツッコミを入れてきた。
(俺がそんな事する人間に見えるか?)
『見える』
(辛辣ぅ!!)
「ありがとうございます!」
タクヤとの会話をしていると眩しい笑顔でセラがそう言った。
少し心が痛い。
「話はこれで終わりだ。それとセラはちゃんとした服を着ろ。分かったな?」
「はい!」
「じゃあガルス、頼んだぞ」
セラをガルスに任して俺達は冒険者ギルドへと向かうのだった。
「ここが冒険者ギルドか……」
『感動だ。初めて見たぞ』
俺も初めて見るがなかなか立派な建物だ。前世の影響で酒屋みたいなのを想像していたが、そんなことはなく建物もデカく3階建てになっていた。
「ここへは何をしに?」
「クエストの発行をしに来た。相場は知らんからソレイユお前が決めてくれ」
「分かりました……それと大丈夫だとは思いますが、もしも何かあった場合はすぐに私の後ろに隠れてください」
ソレイユがいれば何かある事もないだろう。一応副団長だしな。
「ああ、わかった」
俺はギルドの扉を開いた。
ギルドに入るとまず目に入るのが屈強な男達だろう。少数だが女の人もいるみたいだが、大半は帽子をかぶって杖を持っていることから魔法使いなのだろう。
受付嬢もカウンターの後ろで忙しなく動いている。
俺がギルドの中に入るとさっきまで騒がしかったはずの冒険者達が静かになった。
受付嬢も仕事を忘れてこっちを見ている。
「ほぅ、これはこれは珍しい客じゃねぇか! 誰かと思えばドラ息子のアレク様じゃねぇか!」
1人の屈強な男が俺の目の前まで来て楽しそうな顔でそう言った。
ソレイユが前に出ようとしたので手で制する。
「お前は?」
「俺はこのギルドの中で1番冒険者ランクの高いウェルってもんだ」
俺の質問に馬鹿にしたようにそう言った。なるほど、こいつが冒険者達のボスか。
「因みにランクは?」
「聞いて驚け! Aランクだ!」
Aランクか。なかなか高いな。冒険者の最高ランクはSSだ。
その後にSそしてAが来ることからこいつは上から3番目のランクという事になるだろう。
「Aランクかそりゃあすごいな。だが口の聞き方はもう少し直した方がいいな。目上の人への態度ってもんがなっちゃあいねぇ」
俺がそういうとウェルは笑い始めた。それにつられてか何人かの冒険者も笑っている。
受付嬢もだ。
「ガハハハハッ! これはこれはごめんなちゃいね、アレクちゃま」
ウェルは人を馬鹿にしたような顔をしながら赤ちゃん言葉でそう言った。
「おい、ソレイユこいつを侮辱罪として捕まえろ。そんで牢にでもぶち込んどけ」
「はっ、かしこまりました」
そういうと一斉に全員が静かになった。
「は? え?」
当の本人は理解していないようだ。
「この領内にいる間は俺がルールだ。それを忘れたお前への罰だ。笑っていた奴らも顔は覚えたからな」
俺がそう言って笑っていた相手を睨みつけると全員目を逸らした。
そうこう言っている間にソレイユはウェルを捕まえた。
「おい、冗談だ! そんな事もわからないのか!?」
ウェルは必死の評価でそう訴えてきた。
「ああ、わりぃ。俺、無能なドラ息子だから分かんなかったわ。連れていけ」
「はっ!」
「……すまなかった! すみませんでした! 冗談だったんです!」
とウェルはそう涙ながらに訴えてきた。
「……はぁ。なんてな冗談だ。ソレイユ拘束を解いてやれ」
そういうとソレイユはウェルへの拘束を解いて俺の後ろに戻った。
空気が全体的に重い。……やり過ぎたな。
「ソレイユ、例の件をギルドマスターと話しといてくれ」
「わ、わかりました」
困惑しているソレイユを放って俺は外に出た。
適当に近くにあったベンチに座って休憩していると通行人が俺の方を見て何かを話している。
……人気者は辛いなぁ!!
はぁ。絶対悪口だよなぁ。
そんな事を考えていると1人の女性が俺に近づいできた。
歳は20くらいだろうか? 黒色髪でのボブカットがよく似合う女性だ。
「さっきの騒ぎは見ていて面白かったわ」
と突然俺に話しかけてきた。どうやらギルドの中にいた連中の1人らしい。
「そりゃどーも。アンタは俺にビビらないのな」
あんな事があったのに臆さず話しかけてくるあたりそういう事なのだろう。
「まーね。それにしてもアレク様はギルドに何しにきてたの?」
「……それを教える前にお前の名前とランクを教えてもらってもいいか?」
誰彼かまわず事情を話すわけにはいかない。とりあえず相手の事を聞かないとな。
「ごめんごめん。私の名前はクレア! ランクはBよ! ほらこれ」
と言ってギルドカードを渡された。確かにそこにはランクBの表記があった。
この町の最高ランクがAという事はクレアのランクはかなり高い部類に入るだろう。
「実は……」
俺は今起こっている状況とギルドにはクエストとして張り出してもらえるようにお願いしにきたことを伝えた。
「ほうほう。それは大変だね〜! まっ、私も協力するから頼ってよ!」
背中をバンバンと叩かれながらそう言われた。
どうやらクレアはフランクな性格のようだ。
「なら早速で悪いが頼みがあるんだが、これから2日間の間一緒に行動してくれないか? 人手が多い方が助かるからな」
「勿論オッケーだよ! そのかわりこっちの方は弾んでくれるよね?」
と言って手でワッカを作ってゴールドを表している。腐っても冒険者、金に目がないようだ。
「安心してくれそっちは弾むよ。じゃあよろしく」
と言って手を出す。
「こちらこそー」
と言ってクレアも手を出してきて握手をした。
「あっ、こんなところにいらっしゃいましたか!」
ふとそんな声が聞こえたので声の方を向くとカイウスがいた。
「カイウス! どうしてこんなところに?」
「なになに知り合い?」
クレアが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「そんなところだ」
「ふーん」
一度クレアとの会話を終わらせる。
「頼まれていた調査が終わったので家に向かったのですが、いらっしゃらなかったので探していたんですよ」
黒霧団のこともう調べれたのか!? しかも律儀に俺の事を探してくれたのか!
「わざわざありがとな」
俺はもらった資料を読みながらお礼を言った。
「いえ、早い方がいいと思ったので探したまでです」
イケメンで仕事ができるってこんな完璧超人いるんだな。
資料を読んでいるとある部分が気になった。……これは使えるかもな。
「なぁ、カイウス新しいお願いしても構わないか?」
「はい、任してください!」
「じゃあ………」
俺はカイウスに新たな任務をお願いするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます