領主の令嬢、実の娘ではないことが発覚し追放ルートへ。育ちの悪さが祟って色々苦労するけど最後の最後は目にものみせてやりますわ!

一木 川臣

追放ですわ!

「ウルギリーゼ! お前は実の子ではない! 今日からお前とは縁を切らさせてもらう!」


「ええ〜〜!?」



 21歳の誕生日の日、わたくしこと東町領主の第一子、ウルギリーゼはお父様から突然呼び出された。てっきり誕生日プレゼントとしてわたくしの大好きなシリアル食品『コーンフロマイティ』をくれるのだと期待していた矢先に……


「縁切り〜!? どういうことですの!?」


 わたくしみたいな金髪美人の可愛い可愛い愛娘と縁切りだなんて、なんという了見でしょう! きっとお父様は変なコンサルに絡まれて妙なことを吹き込まれたに違いないですわ。お父様は富裕層ですから悪い虫が寄ってくるのも十分頷けますし。


 確かにわたくしは決していい子では無かったのは自覚しておりますわ。それでも突然の縁切りなんてあんまりですわ!


「お父様!? 説明してくださいませ! わたくしウルギリーゼは納得いきませんわ!」


「そうか、なら説明してやろう! お〜い!!」


 パンパンと手を鳴らしながら遠くへ誰かを呼び出すお父様。ほんの暫くすれば大きな人影がお父様まで歩み寄ってきた。


「こ、この女…… 誰ですの?」


 お父様の横へ佇むのは一人の…… 女?


 けれど随分とずんぐりむっくりな女ね。顔も丸顔で鼻もじゃがいもみたいな感じで悪く言っちゃえばブサイクな顔ですこと。わたくしみたいな麗しい女性とは程遠い存在ね。


 ……ですけど。



 似ている!? お父様に似ている!?


 あの丸顔も、じゃがいも鼻も、ふくよかな体つきも何もかもそっくりですわ! 本当にお父様と瓜二つ。こんなことって……!?


「教えてやろう。この子が私の実の娘だ」

「実の……娘?」


 実の娘と言われていても、お父様の娘はわたくし『ウルギリーゼ』一人のはず。兄弟姉妹もいない、『ウルギリーゼ』以外の子は誰もいないはずよ。


「じょ、冗談をおっしゃらないで下さいお父様。娘はここにいるじゃないですか、わたくしウルギリーゼが。かわいいかわいいウルギリーゼが」

「黙れ! お前は私の子でない。大体おかしいと思っていたんだ、全然顔似てないし性格も真反対だし、シリアル食品しか食わねえし、好きな球団もライバルチームだし。こんな子が私の娘であるはずないとずっとずぅっっと思っていたんだ」


 ひ、ひどい! 確かにわたくしはお父様みたいな陰キャでナメクジが生息するほどジメジメした性格とは真反対の明るくカラッとした性格をしていると、それはわたくしもひっそりと思っておりましたわ。でも、それだけでわたくしを『実の子ではない』と言い切るだなんてあまりにもひどすぎますわ!


「だからと言って出ていきませんわよ! ここは毎日ぐうたら出来る最高な場所、絶対に、ぜえっったいに出ていきませんわ! そうですわ、その『実の娘』とやらと一緒に暮らしましょう。わたくしウルギリーゼはその子の『血の繋がらない』姉という設定で今後生活──」

「却下だ!! 大体お前は素行が悪すぎる! 毎日毎日働きもせずダラダラしおって、もう面倒見きれん! 早く出ていけ!」


 素行が悪いだなんて、わたくし程お父様の顔を立てることができる娘はいないはずよ。お父様も熱くなりすぎて頭が回っていない様子ですし、何もかも変なコンサルのせいですわ!



「嫌ですわ! 断固として拒否ですわ!」

「お前に拒否権なんてあるものか!」


「せ、せめて相続権だけ残してくださいまし。お父様が死んでも財産の半分ぐらいがわたくしに回ってくるように遺言書書いてくださいませ。それが確認できたら大人しく引き上げますわ!」


「金目当てか! いやしい女め、やはり私の娘ではなかったようだ。なぁ、『実の娘よ』」


 呼ばれたデブの『実の娘』は「はい」と小さな声で返し、お父様に寄り添った。


「えぇ、『実のお父様』。会えて嬉しく思います」

「おぉ、そうかそうか。嬉しいか、私も嬉しいぞお」


 優しく撫でられている。はっきり言って気持ちが悪いですわ。おまけに『実の娘』の声も汚いし、全く絵になりませんわね。そんなチンケな再会を目の前で見せられるだなんて不愉快極まりないですわ。同じじゃがいも同士、土の中で大人しく過ごしていればいいものをよりにもよってこのわたくしを追放するだなんて生意気ですわ。


「……て言うことで、早く出て行ってくれないか、ウルギリーゼ。お前とは今日をもって赤の他人だ。家にあるシリアル食品も勝手に食べてはならんぞ」

「出て行かないですわ! その程度わたくしが黙って退くワケありませんわ」


 わたくしが一歩踏み込むとお父様はまたも大きく手を鳴らした。


「そうかそうか…… おーい!」

「な、なんですのこいつら……」


 ざっと現れたのは5人ほどの屈強な男。お父様が雇っているガードマン達だ。あっという間に囲まれてわたくしは両腕を掴まれてしまうことに。


「待ちなさい、貴方達。一体誰に手を出していると思って? 分からないかしら? このわたくし、ウルギリーゼよ。直ちにその手を解きなさい!」


 もがいても全くその手を解こうとしない。それどころかぎゅっと強くなるのを感じた。


 どうしてよ? こいつら、つい昨日まではわたくしの命令には一切逆らうことが無かったのに。トイレ掃除も、犬の散歩も、買い物も言えば全部やってくれていたハズなのに!


「こ、この裏切り者! 絶対許さないわ」

「裏切るも何も、そいつらのあるじはこの私だからな。私の娘では無くなったお前なんてただの小娘同然!! 己の無力さを知るがいい!」


「はっはっは」と高らかに笑い、それに釣られたのか隣に居座るデブも「おっほっほっほ」と声を上げ始めた。

 なんですの、あの笑い方、蛙じゃないんだから共鳴なんてしないでくださいまし。


「くっ、くぅ〜〜」


 なんという屈辱。お父様ならまだしもあのデブまでどうして一緒に笑うのかしら。

 でも、今のわたくしは何もできない。取り押さえられて、目の前で気持ち良く笑う二人をただ眺めるしかない愚かな小娘ですわ。


「どうした、ウルギリーゼよ。いつもの跳ねっ返りはどうした?」

「ダメよ『実のお父様』、挑発はこうしなきゃ……」


 デブ女が私の前まで歩み寄る。そして目の前でゆっくりと後ろへ振り返り、お尻をこちらへ向けながら自身のお尻を軽く撫で回した後こう言った。


「お尻ペンペ〜ン!」


「キィ〜!!」 


『おい、女! 暴れるな!!』

『取り押さえろ!』 

『動くな!!』


「離せ! 離せですわ!! この女にはわたくしのゲンコツをブチかまさないと気が済みませんわ!!」

「きゃ〜 こわ〜い!」


 わざとらしい声色を出し、足軽にお父様の後ろまでデブが回り込む。お父様は頼られてご満悦なのか「おぉ、かわいい『実の娘』よ。怖かっただろう、ヨシヨシ」とか言いながら頭をポンポンしているし、この茶番がまた滅茶苦茶腹が立つのですわ〜! そこは頭ポンポンじゃなくて頭ボコボコでしょう。ヘルメットが被れないくらいにおできだらけにしてやりたいですわ!


 暴れても暴れても振り解けそうにないので一旦静止するわたくし。それを見たお父様が一歩前に出てわたくしを指差した。


「ウルギリーゼ、最後に言いたいことがある!」


「わ、わたくしに!?」


 やはり腐っても長年ともに暮らした間。お父様といえど多少の未練があるのでしょう。きっと最後の最後、わたくしに伝えたいことがあるのですわ。感謝の言葉、或いは幼少の思い出話かもしれませんけど、最後に伝えたいことって……一体?


 お父様は黙って取り押さえられるわたくしの前まで歩み寄りゆっくりとしゃがみ込んだ。

 そして右手を前に突き出し、ゆっくりと中指を立てて──




「Get out, f○ckin’ girl!(出ていけ、ク○アマ)」



「はーーあ??」



「この女を摘み出せ!!」



 お父様の命令に男達は勢い良く返事をし、わたくしは無理矢理部屋から引きずり出されてしまった。



────


 ウルギリーゼ:東町領主の令嬢であるが、21歳の誕生日の日『実の娘』の存在が発覚し追放されてしまった。お嬢様の名にふさわしく金髪色白、容姿もそこそこ整っているが素行の悪さが度々目立つようだ。好きな食べ物は『コーンフロマイティ』というシリアル食品。



 変なコンサル:東町に蔓延る悪徳コンサルの総称。ウルギリーゼの父のような富裕層はこういったコンサルにしばしば食い物にされてしまう事がある。大したアドバイスをせずバカみたいな報酬を得ようとする傾向があり、金持ち程注意しなければならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る