第57話

双子の妖精とお風呂を共にした次の日、私は世界樹の元へ薬草を植えに行くためにリルの背負い籠を作成することにした。


と言うわけで木工屋に来ているのだが、店主がリルに驚いて一向に話が進まない。仕方がないので他の従業員を呼ぶと、店主の奥さんがしぶしぶ出てきた。


注文に来ているのが以前、お風呂を依頼した私だということに気が付くと態度が一変した。店主は相変わらず腰を抜かしたままだが、奥さんが採寸をして籠の形を決めてくれた。しかし、体に固定する部分は木工では作れないと言われたため皮洋品店へ向かう。


こちらでもリルの存在は驚かれたが、腰を抜かすことはなくむしろそのふわふわの毛を触らせてほしいと何度も頼まれた。どうせ採寸する際に触るのだからと言うと、すぐに採寸を始めた。終わる頃には抜け毛でもいいからお店に卸して貰えないかと何度も頼まれた。


もちろん断ったが。


籠の方が完成まで半月待って欲しいと言われたため、その半月の間薬草の研究と世界樹の様子を見に行くことに集中していた。数株であれば薬草を持っていけたので世界樹の近くに植えてみたのだがまだ薬草にも世界樹にも変化は見られない。


そんな調子で半月が過ぎ、ようやくリルのお荷物運びの装備が完成した。私は早速リルの装備に薬草を百株程乗せた。そして、世界樹の元へウルフェンと共に駆ける。到着すると前に植えた薬草が少し成長していた。それは屋敷で育てている薬草よりも成長率が高い。世界樹の方も葉が三枚に増えていた。


よしよしとほくそ笑んだ私は、薬草をどんどん植えていく。まるで稲を植えているようだった。一時間程度で薬草を植え終えた私の目の前に例の双子の妖精が現れた。


「約束を守ってくれてありがとうなのです」


「どうにか世界樹も立て直したようなのです」


「それは良かった。でもし世界樹が枯れていたらどうなっていたの?」


つい質問してしまったが答えは単純だった。


「この世界のどこかに次の世界樹が生まれるだけなのです」


「だけど世界樹が枯れたらおそらくこの地は魔物であふれてしまうのです」


「世界樹は魔物の発生を抑えてくれるってこと?」


「違うのです」


「ただ草食の動物に恵みを与えるだけなのです」


どうやら魔物であふれるというのは餌を求めたスタンピートが起きるということらしい。


と考えたところで。


「じゃあ何でゴブリンのせいで世界樹が枯れそうになっていたの?」


「ゴブリンは雑食ですが肉を好むのです」


「だけど草食のホーンラビットの数が予想以上に減ってしまったから世界樹の葉を食べていたのです」


「「その結果、ゴブリンが大繁殖したのです」」


なんと世界樹が枯れそうになった原因は私たちであった。私はその話を聞いて頬につーっと汗が流れ落ちる。


「まあ人間がやることなんてそんなもんなのです」


「もともと薬草が少なくなって弱っていたからむしろ良かったかもです」


「あははは」


私は愛想笑いすることしかできなかった。そんな話をしていると世界樹の葉が一枚私の元へ落ちてきた。私は両手を広げそれをキャッチする。


「世界樹からのお礼なのです」


「その葉は生命力の塊だからもっと薬草を栽培するのです」


そう言い残し双子の精霊は姿を消した。使い方は教えてくれないらしい。


そこでふと大人しくしていたウルフェンとリルを見てみると、いちゃいちゃしていた。それはもういちゃいちゃしていた。


まあ仲がいいのはいいことだというわけで二匹を呼び、世界樹の葉を持ってウルフェンに乗り街まで帰った。


そのまま屋敷に帰ろうかと思っていたのだが門兵に止められた。


「領主様が領主邸まで来るようにとのことです」


私は敬礼をして了承の旨を返す。


なんだが厄介事の香りがしたが無視するわけにはいかないのでしぶしぶ領主邸へ向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る