第34話

馬車の中、目的地に着くまでに挨拶をしようかと思っていたが、薬師見習いと聞いていた子は明らかに緊張していた。なので、私たちから自己紹介をして少しでも緊張を解いてもらうおうとしたが彼女は相変わらず緊張したままで自己紹介を始めた。


「わ。私はラチと言います。一応薬師見習いとして王都から派遣されました。ですが昨日、緊張で怪我人の手当てができなかったため、今日はアリシア様に同行することになりました。よろしくお願いします」


ラチと名乗った彼女は最後の方には落ち着いてきていたが治療できなかったと話す時には泣きそうな顔をしていた。勘定の起伏が激しすぎると感じたがとりあえずは私の補助に回ってもらうことにした。


目的の場所に着き、馬車を降りると既に怪我人は並べられていた。私とラチは並んでいる順に怪我人を見ていく。タチは青い顔をしていたが、次々に来る患者達を給水の魔法で怪我を洗ってもらっているうちに顔色は元通りになっていた。


この日も治療は夜まで続けられた。ラチは魔力切れになり途中で休憩していた。辺りが暗く見えなくなってから領主館へと戻ったが今日は報告の必要はないとのことでそのまま眠りについた。


それから三日間、商人街、貧民街、居住区と三か所で治療を行い、エラデエーレのほぼ全地区を治療して回ることができた。


そのタイミングで領主様より相談事があるとのことで呼び出された。私は執事さんに連れられ執務室に入る。執務室は相変わらず書類の山で覆われており、領主様も寝不足なのか目に隈を作っていた。私が来たタイミングで書類仕事を切り上げソファに腰かける。その後で私もソファに腰かけた。


「相談事と言うのはな、街の外壁のことだ。兵士たちに調べさせたところ外壁のいたるところに傷がついておりひどいところだと崩れる可能性もあるそうだ。それで君を呼んだのはこの状況を魔法の力で何とかできないかと思ってな」


「私は確かに筆頭魔法師として士官していますが、魔法にはそれほど詳しくないですよ。石の壁を築く魔法なんかないのですか?」


「あることにはあるが、現状その魔法を使えるものはおらん。それに魔力が一番高いのは明らかに君だ。何か案でもないかと思ってな」


どうやら領主様は藁にもすがる思いで私に相談しているようだ。何か改善案を出したいところではあるが私も責任のある立場となっている。そう簡単には発言できないと思ったところで私には部下がいないことに気づいた。


「そう言えば領主様。私に部下がいないのですが、それには何か理由があるのですか?」


「ん?そう言えば話していなかったな。我が国は前に言った通り魔法に詳しくない。だから君の采配で平民を部下に取り立ててよいぞ。治療の際に気になった者でもいたか?」


「いいえ。責任云々を考えていたら部下がいなかったことに気づきまして。そう言えば人に宿っている魔法の属性はどうやればわかるのですか?」


「何を当然なことを・・・そう言えば君はいくつだ?」


「七歳と半年と言ったところでしょうか」


「そうか。君と話しているともっと年上かと思ってしまうな。魔力の属性は十五歳の成人の儀式で調べることとなっている。今のところ発現していて使われているのは火水風土の四属性だな」


「では、土属性を持った人を部下に加えたいと思いますが構いませんか?」


「構わんが何人だ?あらかじめ人数を把握しておかないと予算が組めないからな。可能な限り事前に報告してくれ」


「では五名で。とりあえずは城壁の補修と資材の作成ができるように鍛えてみます」


「それは助かる。念のため教会にも属性診断ができるように話を通しておく。そうすれば属性を偽って職に就こうとするものを除けるであろう」


「ありがとうございます。ちなみに何処から採用しても構わないのでしょうか?」


「無職の者であれば構わん。貧民街の者でも許可する」


「分かりました。では明日、素養がありそうな者を探しに行きます」


そうして、明確な改善は出なかったが相談は終わった。

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