第31話
部屋の前についた私たちが一息つく暇もなく執事さんがドアをノックした。
「例のお二方をお連れしました」
「入れ」
「失礼します」
私とペルリタさん、そして騎士団長が部屋に入ると扉が閉められた。中には豪華な服を着たおじさんが二人、そのうち一人は王冠をかぶっていた。王冠をかぶっていない方のおじさんが話し始める。
「まずは席に座ってください」
私たちは騎士団長に引かれた椅子に腰かける。今まで感じたことのない座り心地に感動してしまった。
「では本題に入るとして、先日のゴブリン討伐に薬を大量に提供していただき感謝する。その褒美として何か欲しい物があるかね?」
私は驚いた。こういうものはお金を支払って終わりと思っていたからだ。ペルリタさんも驚いていたようで私の顔を見つめている。話が止まってしまった間を騎士団長が話して説明してくれた。
「この者達は褒美が与えられることは知っていましたが、それを自分たちが望むものを得られるとは知らなかったのです。ですので、このように戸惑っておられるのです」
「では褒美については後日、騎士団長に伝えてもらうこととして、次はこちらからのお願いなのだが。どうやら北の辺境伯がその役目を放り出していてな。その被害が民衆にまで及んでいる。今回のゴブリンもその北にある魔の森と呼ばれるとこらから来ていることが分かった。それでポーションを北の領地にまで届けたいのだがこれ以上に生産は可能かね?」
「それは難しいです。今この街周辺の薬草はゴブリン討伐のためのポーションを作るために取りつくしてしまっています。この街で増産するよりは他の領地で生産する方が現実的かと思います」
「だが、ポーションの生産には魔法を少し使うのであろう?この国はそれほど魔法に強くわない。それに薬師の数も少ない。そこでだ、君に北の領地まで行ってもらえないだろうか?」
「私が、ですか?」
「そう。君がだ。報告を聞くには君はポーションを使わない治療にも詳しいと聞く。それにポーションはまだ商業ギルドの認可が下りていない薬だ。おいそれと使うことはできないであろう。今回のゴブリン討伐は特別であったがな」
「それも報酬と一緒に時間を掛けて考えることはできませんか?」
「できぬ。一週間後には準備を整え北の領地へ向かわねばならない。その準備もあるためここで結論を出してほしい」
私はペルリタさんを見る。するとペルリタさんが話し始める。
「宰相様。国王様。この子を北へ連れて行ってください。アリシア、私たち薬師の役割は傷を負った人たちを癒すことよ。あなたは私のところでそれをしっかりと学んだはず。だからきっとどこでもあなたはやっていけるわ」
私はその言葉に涙が止まらなかった。ペルリタさんに抱き着いて泣いてしまう。そんな中宰相様がペルリタさんに話しかけた。
「いいのかね。彼女はまだ幼い。それに彼女は君の元を離れたくないようだが」
その言葉に私が答える。
「いきます。より多くの人を助けるために」
その言葉に国王様と宰相様が頷いたことで話は終わった。私は一週間後に薬屋まで迎えに来てくれるということで準備は何も必要ないとのことだった。私はその一週間でペルリタさんに結界を使った縫合を教えた。ペルリタさんは無詠唱を理解できていないため詠唱区も一から考え何度も実践することで一週間で何とかものにすることができた。
一週間後の朝、馬車の列が薬屋の前に並ぶ。そこには国王様もいた。どうやら北の辺境伯を辞めさせるために同行するらしい。新しい辺境伯は既に決まっており、私はそこで筆頭魔法師として士官することになっているという。
見送りには冒険者ギルドのみんなが来てくれていた。私は泣かないようにするので精一杯だったのだがペルリタさんの泣き顔を見てこらえきれずに泣いてしまった。そんな私を馬車は待ってくれていたが時間が迫り出発することになった。
そして、最後にペルリタさんの声が聞こえてきた。
「ありがとう」
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これにて一章は完結となります。ここまでご覧になっていただけた皆さま、そして応援、コメントをしてくださった皆様。本当にありがとうございます。このまま二章も進めていきますので今後ともよろしくお願いいたします。
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