第29話

とある騎士 Side


俺の人生転落はあの薬屋がポーションとやらの提供を断ったことから始まった。あの後、ゴブリン討伐の前線送りとなった俺は、イライラをぶつけるためにゴブリンを狩りまくった。


これで俺の評価も上がると思っていた。団長に呼び出され褒められると舞い上がっていた。


「お前の勝手な行動についていけないという苦情が四件来ている。これはどういうことだ?」


「俺はただ必死にゴブリンを狩っていただけですよ。ついてこれない面子に問題があるのではないですか?」


「そうか。ならお前には遊撃部隊として動いてもらう。メンバーは副団長が選抜中だ。それにお前は同行してもらうぞ」


「分かりました。必ず期待に応えて見せます」


次の日、遊撃部隊にはポーションを一本ずつ配られた。俺が手に入れるはずだったポーションを横取りされたと最初は思ったが、今は遊撃部隊にまで選ばれてポーションの優先使用を認められている。エリートへの道を進んでいる俺にはもう関係のないことだ。



遊撃部隊の目標は、敵の親玉を討伐すること。群れの大きさから考えてゴブリンキングがいると思われている。少なくともゴブリンジェネラルがいるとされ、討伐の際は近くの前線までおびき寄せ必ず十人以上で戦闘することを厳命された。


一日目は順調にゴブリンの群れの中を突っ込んでいく。足を止めると囲まれてしまうので前衛を交代しながらだ。他の騎士は余力を残しているのかペースがやや遅い。そのため俺が先頭の時には少しペースを上げさせてもらった。一日目は時間が足りず折り返して自陣に戻った。遊撃の目的に敵の陣を特定することも含まれているためだ。


一日目の終わりに俺は副団長に呼び出された。またもや俺の評価が上がったと舞い上がった。


「君は周りのペースを乱しているという自覚はあるのかい?」


入って早々の一言で俺は冷や水をかけられたように驚いた。しかし、俺の実力がもはや副団長よりも上だと分かるとそんなことはどうでもよくなった。


「次からは気を付けますよ」


この返答に副団長は顔をしかめた。


「分かればいい。下がれ」


そう言われ俺は解放された。次の日には、追加のポーションが前線を維持する部隊にも支給された。これで前線を上げることができると思った。昨日、副団長に言われたことなどすっかり頭の中から抜け落ちていた。


そのままゴブリン討伐に向かう。この日もゴブリンの上位種は発見できずに解散となった。副団長も俺には何も言わずに立ち去った。他のメンバーには声をかけていたのに俺にはなかったため、何の問題もなかったのだろう。


次の日には、全員に二本ずつポーションが支給された。


「前線を駆け回る俺たちにこそポーションは必要なのではないですか?」


俺は団長に向かい直訴した。


「全員が命がけで戦っているのだ。しかもポーションで体力は回復しない。それなら遊撃部隊に優先して配る必要もないだろう」


俺はまだポーションを使っていないため、そんなもんかと思い引き下がった。


この日はゴブリンの数が明らかに減ってきていたため、遊撃部隊は今までよりも深くまで進軍することになった。全員が明らかにペースを上げて前線を突っ切っていく。俺は何とか必死に食らいついていった。そして、ようやくゴブリンジェネラルの元までたどり着いた。


初めに全員で切りかかり、ゴブリンジェネラルの注意を引く。ジェネラルは攻撃を受けてもびくともしていなかったが、注意を引くことはできたようでお供のゴブリンを引き連れて俺たちを追ってきた。


時々攻撃をしながら後退を繰り返すこと二時間、ようやくジェネラルを前線までおびき出すことができた。その時俺は満身創痍であり、合流できたことで一瞬気を抜いてしまった。その時にジェネラルの大剣が俺の左腕を引きちぎった。


他のメンバーがジェネラルを取り囲み死角から攻撃を加えていく中、俺は必死に左腕のあった場所にポーションを振りかける。しかし、ちぎれた左腕が生えるはずもなく血管を塞ぎ血を止めるほどの効果しかなかった。


俺は他の前線メンバーに下がらせられていく中でジェネラルは倒れた。


こうしてゴブリンジェネラル討伐とともに俺の騎士人生も幕を閉じた。

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