第28話

騎士が訪れた次の日の早朝、鍛冶屋のラザールさんが弟子たちとともに注文していたガラス瓶の納品に来た。


「おう。嬢ちゃん。頼まれた通りガラス瓶四百本だ。確認したらこの納品書にサインをくれ」


そう言ってラザールさんは裏手にガラス瓶を詰めた箱を運び始める。私とペルリタさんは箱の中身を確認していく。ガラス瓶に問題がなかったので私は納品書にサインした。


「ところでラザールさん。追加で注文することは可能ですか?」


「すまねぇな。嬢ちゃん。実は武器の整備なんかの注文が立て込んでいてな。作る時間がねぇ。今だとどこの工房も武器の作成をやっているから頼んでも断られると思うぜ」


そこにペルリタさんが話しに混ざる。


「そんなにぼかさなくてもゴブリンの件は分かっているよ。こっちは何とかしてみるが足りない場合には商業ギルドか騎士から話が行くと思うからその時は頼むよ」


「分かった。しかしこの瓶がそんなに重要な物なのか?」


「アリシアが開発した新しい治療薬を入れる容器だよ。おそらく戦場に装備しているかどうかで生存率がかなり変わってくるだろうね。ガラス瓶を持ち帰ってくれれば再利用できるのだが戦場でそれは期待できないからね」


それを聞いてラザールさんは目を丸くしていたが、これ以上は聞いてはこなかった。



ラザールさんたちが帰ると、お店は戦場のごとく忙しくなった。何せ期限がいつ迄なのかわからない注文があり、少ししおれた薬草も大量にある。それをポーションにしていかなければならないのだ。冒険者の対応はドゥニさんに任せ、私とペルリタさんはポーションを作っていく。だがそういう時に限って怪我人が多くやってきた。


理由を聞いてみると。


「街周辺の薬草はほとんど取りつくしちまった。それで少し遠出をしたんだがな。騎士の戦列を抜けてきたゴブリンと戦闘になってな。安心しきっていたもんで不意を突かれちまった」


私はそれを聞いて少し呆れた。しかし、怪我人がいる以上そう言った人が多いのであろう。私は冒険者間で注意するように声をかけ、冒険者を送り出した。


そんなこんなで夕方を迎え、門が閉まって一時間程店を開けていたが誰も駆け込んでくることはなかった。そのため、店を閉めようかとしたところで甲冑を身に着けた男二人やってきた。一人は先日やってきた豪華な装備の騎士だ。


「こんな時間にすまない。君に言われた通りベルトポーチを作成してもらったのだが、ポーションの進捗はいかかだろうか」


そう言って私にベルトポーチを見せてくる。そのポーチは瓶が三本入るように作られていた。私はそれを見た後で騎士に質問する。


「騎士団の人数は何人でしょうか」


「百五十人だ」


「今、この店にあるポーションが百本。これが一日に作成できる限度かと思われます。そして空き瓶が残り三百本あります。とりあえず百本お渡ししますので残りは明日以降でお願いします」


「そんなに用意できているのか。助かる。それで使用上注意する点などを説明してもらえるかな?」


私はポーションについて分かっていることを説明し、可能であれば瓶は持ち帰ってもらえるように頼んだ。


「ポーションについては分かった。瓶の回収についても承った。しかし、瓶の数が目減りしていくのは問題だな。こちらで何か対策を考えておく。申し訳ないがそちらはポーションの作成に集中してくれ」


「分かりました。それで、騎士団の方ではいくらほどポーションを使う予定でしょうか?」


「そうだな。一人二本と天幕に予備で五十本。前線の冒険者二十名にも二本ずつ支給するとして三百七十本だ」


「分かりました。では残りの三十本はポーションの材料である薬草を採取している冒険者に提供してもよろしいですか?」


「薬草採取の冒険者も怪我を負っているのか?」


「はい。今日も数名は治療に来ていました。どうやら街周辺の薬草は取りつくしてしまい前線手前で採取をしているようです。そこに前線を突破したゴブリンが薬草を採取している冒険者と戦闘になる場合があるとのことです」


「そうか。分かった。三十本の空き瓶に関して私たち騎士団は関与しないことを誓う」


「ありがとうございます」


こうして騎士団との交渉は終わった。

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