第22話
受付嬢に案内され、私は商業ギルドのギルドマスターの部屋に入った。そこには目つきが鋭くやせ型の男の人と色白美人の秘書と思わしき女性がいた。
「すまない。この書類を片付けるまで少し待ってもらえるかな。エレノラ。お客様にお茶を」
男性がそう言うと秘書と思わしき人、エレノラと呼ばれた女性は私たちをソファへ案内してお茶を持ってきてくれた。渡されたお茶はこの世界では珍しく紅茶だった。私が知らないだけかもしれないが・・・。
五分程待つとギルドマスターが立ち上がり、私たちの対面にあるソファへ腰かけた。それと同時にエレノラさんが紅茶を差し出す。ギルドマスターは一口飲んだ後に会話を始めた。
「私が商業ギルドのギルドマスターであるクレモンだ。初めまして、アリシア嬢。それとお久しぶりですドゥニさん」
私は挨拶も返さずにドゥニさんの方を見てしまった。そんな私を見てドゥニさんは挨拶を返す。
「お久しぶりです。クレモン様。今回、私は立ち会っているだけですので私のことはお気になさらずに」
そこで自分の失敗を悟った私は挨拶を返す。
「初めまして、クレモン様。私はアリシアと申します。以後よろしくお願いします」
「丁寧な挨拶をありがとう。アリシア嬢。それで今回お呼びしたのは薬の実験改善案を出してくれたことにお礼を言いたくてね。まだ結果は出てきてないがこのように商業ギルドに提案をしてくれる人は貴重なのだ。今後ともよろしく頼むよ。それで商人は無償で貸し借りを作るのは厳禁でね。何かお礼をしたいのだけれど欲しいものなどはないかな?」
「それでしたら、実験施設にてネズミにこちらの薬を使う許可を頂けませんか?」
「それは構わないけれど、その薬は何の薬はどのような薬なのかな?」
「それを確かめるための実験なのですが・・・。これはとある薬草に含まれていた魔力を取り出した薬なのです。ですので、その魔力次第では毒かもしれませんし傷薬になるかもしれません」
「そうか。その実験に私が立ち会っても構わないかい?」
「それは構いませんがお仕事はよろしいのですか?」
「仕事の大半は君が持ち込んだレシピに関するものなのだ。そんな君が持ち込んだものを一目見ておくのも悪くないさ。それに魔力を有効活用できるとなれば、私の忠告が必要かもしれない」
「分かりました。では実験施設への立ち入りとネズミ一匹の提供は許可していただけるということでよろしいでしょうか?」
「うん。許可する」
そう言って話は終わり、クレモン様が先頭を歩いていく。私たちはそれについていくと商業ギルドの裏口から外に出て数分歩くと大きな建物があった。私たちはそこへ入り、クレモン様の一言で実験準備が整えられた。
私は施設の担当者に頼みネズミに傷をつけて後、手渡した薬を一滴ずつネズミにかけるようにお願いした。そしてその様子を私たちは観察することにした。
傷をつけられたネズミの痛々しい鳴き声に目を背けそうになるが、私は我慢してその様子を眺め続ける。そして薬が一滴ずつネズミにたらされていく。効果は一滴目から現れていた。傷口が奥からどんどん治っているのだ。その光景に全員が釘付けになっていた。五滴目をかけた時には傷口が完全にふさがっていた。
実験を終えて商業ギルドのギルドマスターの部屋に戻るとクレモン様が興奮気味で話しかけてきた。
「それで先程の薬はどうするのだい?レシピを秘匿すれば君は高位の薬師として好待遇を得られると思うけれど・・・」
「いえ。レシピは公開します。それと実験は人体でも行い、可能性の隅から隅まで検証してください。この薬はポーションと名付け、検証が終わるまではレシピを公開させないでください」
「それはもちろん。それで君はどんなことを危険視しているのだい?」
「まずは中毒性です。ポーションなしでは生きられない体になってしまっては困りますから。次に体内に異物が残っている場合にポーションを使用した場合どうなるかです。見た感じでは内側から肉が盛り返しているように治療されていたため問題ないとは思いますが念のため検証してください。最後に使用量です。必要以上にポーションをかけてしまった場合に副作用が出ないかを確認してください。今気にしているのはこれだけです」
「了解した。それで実験で検証するにも量が必要なのだけれど材料費を出す必要はあるかい?あれだけ画期的な治療薬のためならば商業ギルドから資金援助をするよ」
「それは結構です。それよりも作成コストが低すぎることが問題になりかねません。レシピを今お教えします」
そう言って私は作成手順を話し、エレノラさんが羊皮紙に手順を書き出していく。
「確かにこの薬草の入手難易度次第ではあるがコストが低すぎるね。今ある傷薬を全て置き換えてしまいかねない。そのあたりはこちらで対策を考えることにするよ」
「よろしくお願いします」
そうしてポーションの完成に至ったがまだまだ問題だらけであった。
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