第15話
衛兵から忠告を受けた日から、ペルリタさんは店を開けるようになった。おそらく店の警護を担当してくれる人を探しているのだと思われる。これには人脈のない私には手を貸すことができないため、店でお留守番をしている。アロエ軟膏が売れてまだ一か月も経っていないためお客さんの数はほとんどない。怪我をしても自宅で治療できるからであろう。だけれど私はそんなに暇をしていなかった。
店に客が来ないこといいことに私は研究に耽っていた。今のテーマは水と魔力を混ぜ合わせることだ。この二つは水と油のように混ぜ合わさることをしなかった。私の場合は調合スキルを使うことで魔力水なる物を生成することができるのだが、それでは一般に普及させることができない。そのためスキルを用いない方法を研究しているのだがどうしてもうまくいかないのだ。
そんな時に見せのベルが鳴った。入り口を見てみると冒険者のブラスコさんが腕に怪我をして立っていた。私は急いで駆け寄り怪我の様子を確認した。怪我は切り傷だが少し深く縫合しなければいけない程であった。しかし、この世界には縫合に適した糸など存在しない。まあ私には秘策があるのだが。
「この傷だと少し高くつくわ。銅貨五枚頂くけれどいい?」
「この傷の治療で銅貨五枚は安いもんだ。やってくれ」
交渉も済んだので私は給水の魔法で傷口を洗っていく。やはりしみるようでブラスコさんは苦悶の表情を必死にこらえていた。その後で縫合をするのだが使うのはもちろん魔法だ。結界の魔法をかなり薄くして糸状にする。そして傷口を縫い上げていく。込める魔力を調節すれば勝手に消えるので抜糸の必要もない便利な魔法だ。最後にアロエを傷口に当てて治療は終わりだ。
「治療は終わったよ。数日はお酒禁止で傷口に不衛生な物を近づけないようにね」
「分かったよ。それにしても嬢ちゃん、まだアロエ軟膏は売りに出されないのか?」
「材料不足で作れないわ。今代替品を商業ギルドで検査してもらっているから一月程で売りに出せると思うわ。けれど軟膏よりも高いわよ」
「そりゃ低賃金の冒険者には手が出せない代物かねぇ」
そう言ってブラスコさんは銅貨五枚を私に差し出した。私は手早く受け取るとブラスコさんがまた話しかけてくる。
「嬢ちゃん。何か依頼はないかい。今日の依頼料は今の治療で飛んでいっちまった。今日の食費がないんだわ」
「依頼ねぇ・・・あるにはあるけど面倒よ」
「聞かせてくれ」
前のめりになっているブラスコさんの顔を手で押し返し、私は裏庭へ案内した。そこで双葉の薬草を見せて説明する。
「この薬草を研究したいのだけれどこの裏庭には数本しか生えていなかったのよ。それで街門の外からこれを採取してくるのが依頼。でもただ取ってくるだけじゃだめで丁寧に根っこから掘り返して、周囲の土と一緒に麻にくるんで水をたっぷり含ませてから持ち帰ることが条件かな」
そう言うとブラスコさんは薬草を観察し、それが終わると。
「じゃあ行ってくる」
と言って駆け出してしまった。私は。
「ウルフェン」
と叫んでブラスコさんを止めてもらう。ブラスコさんはウルフェンが放った水球を顔面で受けて悶えていた。
「ブラスコさん。ちゃんと話聞いてた?採取するのにも道具が必要なのよ。あなたお金ないんでしょ。それにギルドを通さないで仕事を請け負ったら最悪除名処分じゃなかったかしら。それでもいいの?」
ブラスコさんは首をブンブン横に振った。
「ペルリタさんが戻ったら冒険者ギルドに依頼を出しに行くからその時についてきて。道具はどうにかして手に入れなさい。おそらくペルリタさんが戻るのは夕方になると思うからそれまでにどうにかできる当てがあるのなら戻ってきなさい。ないのなら店で待機よ」
「当てはないから店で待つよ」
と言うわけで店番が一人増えたのであった。
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