第23話
行きより帰りの方が考え事のおかげで早く着いたようなきがする。私は事前に言われたように、縄梯子をいったん外した。また1時間後にかけてくれるはずだ。吸い込まれるように落ちていく縄梯子を見ていると、突然後ろから声をかけられた。私は心臓が口から飛び出るぐらい驚いて、後ろを振り返った。
「カナンさん?」
そこにはゆったりしたリラックスウエアを着て、髪もセットされていないクオクがいた。手にはランドリーバックを持っている。
「やっぱりカナンさんだ。こんな時間にいったいここで何をしているの?」
「えっあのちょっとその、あっあのクオクこそ。」
私はあわてて尋ね返した。
「僕はね、ジムで汗をかいたから洗濯物を出しに来たんだよ。いつも仕事が終わってから行くから、こんなに遅くなっちゃうんだ。汗臭い服を持ち帰るのはちょっとね。」
そう言いながら、袋の中のものをシューターに投げ込んだ。
「それにしてもここからは何も見えないけど、何をそんなにじっと見つめていたんだい?」
彼は私をからかうように笑って言った。その笑顔をみると私は息苦しくなってきた。私は一瞬迷ったが、やはりせまりくる危険については、話さなければと思った。ここにはカメラはないはずと聞いていたが、念のため小声で話した。知り合いに予知夢を見る人間がいて、その人の状態からこの世界に危険がさし迫っているらしいこと。その話がセンターの家族である男の子が、かつて言っていたことと似ていること。大災害がやってきたら、救命ベストを着て海に飛び込んだ方がいいこと。St3を守るため、かいつまんで話したから、私の言っていることは支離滅裂に違いない。彼は口をはさまず静かに聞いてくれていた。彼は私が話し終えた後、しばらく黙ってから私に言った。
「誰かをかばっているね。カナンさんにとって大事な人なのかな。」
彼の柔和な表情は消え、私が昔描いたことがある鋭い目つきの青年になっていた。今の彼は私が絵で捉えた彼だ。彼が片手を挙げると、屈強な体格をした男達数名がクリーニングルームに入って来た。私は驚いてクオクを見た。彼は続けて言った。
「ヤマグチの予言なんて初めからなかったんだよ、カナンさん。反乱分子をあぶりだすために、僕が後から付け加えて、噂もこちらから意図的に流した。以前からセンターの情報がもれていることは把握していたんだけど、主犯格が分からなくてね。揺さぶって動きをとらえたかったんだ。協力者がいるんだろう?教えてくれないかな?」
私は左腕を意識しないように、クオクをまっすぐ見つめて首を振った。クオクはため息をついた。
「困ったな。…つくづくうんざりするよ。僕らは彼らの何倍も働いて得た少ない資源を、彼らに分け与えてやっているのに、感謝されずに恨まれるとはね。彼らは僕たちに楯突くけれども、僕たちなしで本当にやっていけると思っているのだろうか。すぐに自滅するはずさ。」
クオクは苦笑いして続けて言った。
「かわいそうと思わないかい、カナンさん。」
私の目の前で話している人は、私が知っているクオクではない。
「あなたはいったい誰なの?」
私は声を振り絞るように尋ねた。
「僕はここを作ったヤマグチの直系の子孫だよ。センターは僕の組織さ。」
彼はそこまで話すと男たちに向かって、軽くあごで指図した。私は彼らに両腕をつかまれ、何かを嗅がされて気を失った。
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