第14話

 冬休みが終わって登校すると、ククが来ていなかった。担任はその欠席の理由を体調不良と説明した。それと私と同じSt2出身のラークも来ていなかった。こちらも理由は同じということだったが、あとでコンがラークは冬休み前に、カンニングがばれて謹慎中なのだと教えてくれた。ラークは小学校では成績のいいほうだったし、私に作業で出る端材で手作りのアクセサリーを作ってくれたりするいい奴だった。でもここに来てからは虚勢を張りだし、場を仕切ろうとやっきになっていた。大きな声で授業を妨害したと思ったら、優秀な子の答えを盗み見て、さも自分の答えであるように発表し、点数を稼ごうとした。また自分がその授業の中心になれないと分かると、トイレに行くと言って帰ってこなかった。


 彼の親が男女別の家族解散の時期を待たずして、離婚したことも関係があるかもしれないと、私の母は言っていた。親が離婚したら、子は同性の親に引き取られる前提なのだが、子が幼い場合はほぼ母親に引き取られる。ラークは小学校の終わりごろに離婚して、父親に引き取られるはずが、幼い妹と母親と住むことになり、異性親子居住ゾーンに移動した。親の離婚と引っ越しとレベルの高い学校への転入と、ほぼいっぺんに経験したのだ。母が言うように同情すべきなのかもしれない。でも私は同じ小学校出身ということで、彼になにかとからまれることが多かったので、正直彼が休みでほっとしている。


 その日の授業は彼がいないということもあって静かだった。終わりの会で担任がみんなに言った。

「ラーク君は明日からSt3の中学校に行くことになりました。」

教室がざわつく。

「はい、みなさん静かにして。明日の予定について少し話があります。」

そのざわつきも、担任の明日の予定という言葉で、すぐにかき消された。私だけがまだ混乱していた。なぜSt2の学校に戻るのではなくて、St3の学校なのか。リストへ作業の通知がくるまでに、急いで隣のコンに話しかける。

 「ただの自宅謹慎じゃなかったの?」

「俺もおやじからそう聞いたんだけど。まあ仕方ないんじゃない。あれじゃ養護者にはなれないよ。」

「養護者って何?」

「みんなを食わせる側だよ。知っててこの学校に来たんだろ?」

私はコンの顔をじっとみた。コンは男の子だけど、かわいらしい顔をしている。何当たり前のこと言っているんだという表情だ。前の席から振り返って、この会話を聞いていたアキも私を不思議そうに見ている。

「うん、そうだったね。忘れてた。」

私はその場を笑ってしのいだ。そんなことは誰からも聞いていない。養護者って何?親になると言うこと?。そうこうしているうちにリストが光り出し、私はクラスのみんなと別れた。


 今日は描写作業なのでスタジオに向かう。向かっている間、ククのことを考えた。会いに行けないだろうか。ククの家でのあの話の後だから、なんだか嫌な胸騒ぎがする。そしてラークが転校すると告げられてから、ざわついた後の教室の静まり具合が早すぎるように感じて、私はそれにもショックを受けている。クラスメートの1人が転校することになったのに、みんなは全然動じていないように見えた。先生もいきさつを話さず、不自然だった。机の上の塵を払うようなみんなの態度に心が冷えた。私も邪魔になればそうなるのか。ククとたまらなく話がしたかった。

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