ミニッツ・ショット

渡貫とゐち

「免許証は紐付けで」

「――のろのろと走ってんじゃねえぞ!」


 原付バイクに跨る僕の後ろから声をかけてきたのは、トラックの運転手である。配達先へ急いでいるからなのか、会社の名前を背負っているにもかかわらず、乱暴な口調である。


 たぶん年上だろうけど、だからと言ってタメ口が許可されているわけではないんだけど……、会ったことないよね? 初対面を相手にすれば、たとえ子供相手でも敬語じゃない?

 人としてさ――まあ、そこはいいや。

 ともかく今は、のろのろと走っていたことを責められているわけだ。


「あ、はい。追い抜けばいいと思いますけど……、できるだけ左に寄っていましたし……。

 もしこれで追い抜けないなら、僕と同じ幅、位置に電信柱があったら突撃してますよね?」


「左に寄っていてもふらふらしてんだろ!? 追い抜こうとしてお前が右に傾いたら接触するだろうが――ッ、悪くなるのはこっちなんだよ!!」


「……じゃあ、広い道になるまで後ろについていればいいじゃないですか。この道で追い抜かなければいけない理由があるんですか?」


「急いでんだよ! こっちは仕事中なんだぞ!?」


 ちなみに。


 今は道の端に寄って、僕と運転手は停まっている状態だ。わざわざ文句を言いに、トラックを止めて、窓から顔を出して僕を攻撃してきている……あれ? 急いでるんじゃないの?


 急いでいるくせに、僕に文句を言う時間はあるわけだ。


「のろのろと……てめえらバイクはいつも邪魔をしやがって……っ!」


「分かってますよ、もっと速度を出してあなたの邪魔をしないようにできたらなあ、とは毎度毎度、思っています……。ただ、法定速度がありますから。のろのろと走るしかないんですよ」


「知るか。違反覚悟で走れよ、きっちり法定速度を守っているやつなんかいねえよ!」


 臨機応変になあなあでやっている――ただ、それで痛い目を見るのは僕なんですよねえ……。


 じゃあこうしましょう。


「文句があるなら、違反を覚悟でスピードを出しましょう。その時に違反と捉えられた場合、違反金や点数はあなた持ち、ということで――。

 僕とあなたの免許証を紐付けしてしまいましょうか」


 そうすれば、僕は罰金に恐れることなく違反ができる。


 法定速度ギリギリを走っているのに「遅い」と言われて煽られるくらいなら、違反した方がいい――安全を確保するために法律を守っているのに、守って危険な目に遭っていたら本末転倒だ……だから違反をするのは仕方ない。


 だけど違反は違反だし、法律を変えることはできない――だったら、罰金を、文句がある側に肩代わりさせてしまえば、こっちは命を守ると同時に罰則を受けることもない――。


 ほらみろ、完璧じゃないか。


「これであなたはのろのろと走るバイクに苦しめられることもなく、僕たち原付バイク乗りは堂々と違反ができる――ウィンウィンの関係ですね!」

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