第37話
触れたのは一瞬。
でも、驚きのあまり声も出せず動けずでいたら、すぐに二度目が来た。
ふわっと触れる唇が、ふわっと触れただけなのに猛烈に気持ち良くて、身体が振り払うことを拒否ってるみたいに動けなくて、されるがままだった。
政さんは、起きてるのか寝てるのか寝ぼけてるのか。
キスなんて、今までだって何人もの人としたことがある。軽いのから深いのまで。
なのに、ここまで気持ちいいと思うキスは、初めてだった。
頭のてっぺんからつま先まで、身体の中央を電流が走ったぐらいの衝撃。
キスをされていたのは、多分ほんの10秒ぐらい。
政さんはボクのほっぺたから後頭部をそれはそれは愛しそうに撫でて、またうーんって唸ってから、何事もなかったかのようにボクを抱き締めたまま動かなくなった。
それで起きてないって、ウソでしょ。
心臓が痛い。ドクドクと痛い。
何だったの今の。キスって何で。っていうか何。
キスってあんなにも気持ちいいものなの?
別にキスが気持ち悪いとは思ったことはない。
ただ、初めてしたキスからもうわりと激しめだった記憶しかない。身体を繋げる目的のキス。
しかもボクは、今まで好きな人やコイビトができたことがない。
つまりボクは、この人ならまあいいかぐらいの人としか、キスをしたことがない。
ヤバい。
ものすごくヤバい。めちゃくちゃヤバい。
違うよ。好きじゃないし。知らないことの方が多い人だし。
否定しても否定しても政さんに対して出てくるのは『運命の人』って言葉。『好き』って言葉。
それが、今のキスで一気にものすごく大きく膨れ上がった。
そしてヤバい。ものすごくヤバい。めちゃくちゃヤバい。
………もっと。
もっとしたい。政さんとキスを。
政さん、もっとしてよ。
こんな軽いキスでこれなら、ディープなキスはどうなるっていうの?
今のキスは、政さんが上手だから気持ちいいの?それとも、身体の相性ならぬキスの相性なんてものがある?
知りたい。政さん。教えて。今すぐ教えて。
ボクにもっと、キスを………。
そこまで思って、うわああああああってなって、ボクは政さんの腕の中からジタバタと脱出した。
さすがに起きるかと思ったけど、政さんはうーんって寝返りをうってボクに背を向けてまだ寝てた。
………政さん。一体ボクを誰と思ってキスなんかしたの。
はあああああって、ボクは膝を抱えて大きく息を吐き出した。
それからボクは起きて政さんの朝ご飯を用意して、政さんが起きて来る前に政さんのマンションを出た。
政さんの前でどんな顔をしたらいいのか分からなかった。
きっと政さんは覚えてないよね。寝てたもんね。
複雑だった。
分からなかった。
覚えていて欲しいのか、欲しくないのか。
はあああああ。
ボクはまだ始まって間もない今日、すでに何度目か分からない大きな息を吐いた。
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