お仕事は通販番組MC ~異世界でも宝石アイテム紹介は楽しい~
色石ひかる
第1話 仕事前のほどよい緊張感
「今日のマイナは、いつも以上に嬉しそうな雰囲気かしら。顔が緩んでいます」
「普段と変わらないつもりよ。でも今日は大好きなオパールの紹介だから、嬉しさが顔に出ているかもしれない」
通販番組の控え室には私とエリ姉だけがいて、視線をエリ姉から鏡に移した。
王都オシルドニーからの出張通販番組で、中規模な街カルミンテンにいる。ハンターギルドで借りた控え室は机と椅子のみと質素だった。宝石アイテムを売るには身だしなみも重要になるから、自前で鏡を持ってきていた。
立った姿で自分の表情を確認した。
「いつもと同じ笑顔かな。私自身でも違いがわからないのにエリ姉は凄いよ」
今の姿は元の世界では中学生くらいで、感情が豊かになった影響かもしれない。
「お姉さんはマイナの変化を見逃しません。ハーフツインにある寝癖でもです」
首を左右に振るとサファイアを思い出す青色の髪が揺れた。髪の毛を留めてあるリボンも遅れて動くと、右後ろに寝癖がみつけた。
「本当に寝癖があった。この状態で出演しなくてよかった。エリ姉の髪はいつもきれいで晴れた日に見る金髪はうっとりするくらい。ロングだから手入れが大変そう」
エリ姉の髪はスフェーンのような輝きを思い出させた。
「少しだけ時間をかければ平気かしら。それよりもお姉さんがマイナの寝癖を直します。自分では大変でしょう」
エリ姉が席を立って近づいてきた。女性の私から見ても美人で、スタイルもよかった。エリ姉のとがった耳は人間族の私にはない特徴で、年齢は教えてくれないけれどエルフとしては若いみたい。
「お願いするね。エリ姉が一緒に仕事をしてくれて、本当に助かっている」
エリ姉が後ろに立った。
「時間も迫っていますから魔法で整えます」
水魔法を完成させて風と火魔法も唱えた。水と熱風を器用に使い分けている。
エリ姉は動きやすい格好だった。エメラルドを濃くした緑色主体の服装は、エルフ族に似合っている。
私の服装は赤色と白色を基調にしていて、特に赤色はルビーの神秘さだった。サファイアと同じコランダム鉱物とは思えない。服装はエリ姉が選んでくれて、模様の素敵なスカートが一番のお気に入りだった。
「今日の通販番組はハンターと一緒に盛り上がりそう。MCの私も楽しみたい」
「寝癖が直りました。可愛らしいマイナになってお姉さんは嬉しい。いつも思うけれどマイナは通販番組が楽しみのようです」
頭を動かして寝癖を確認すると、先ほどまであった寝癖は消えていた。
「寝癖をありがとう。通販番組は好きな宝石を紹介できるからね。エリ姉との会話も楽しんでいるし、エリ姉がコメンテーターになってくれて助かった」
「マイナとの会話は楽しいです。宝石アイテムを好きに語れるのも嬉しいです」
「話が弾めば、お客さんも喜んでくれるよね」
「熱気が伝わってきます。マイナが考えた、ハンターをモデルにする案も当たりました。宝石アイテムを使った実践形式は分かりやすいです」
「思いつきだったけれど好評でよかった。ハンターは魔物退治も仕事の一つよね。魔法アイテムの効果が伝わりやすいと思った。もう時間、本番前はいつも緊張する」
鏡からエリ姉に向きを変えた。
「いつものかしら。マイナはまだまだ子供です」
「エリ姉の優しさが心の幸せなのよ」
異世界に来たら身体だけではなくて、心も幼くなったのかもしれない。でもエリ姉と一緒にいると、幸せになれるのは本当だった。
「お姉さんも同じです。今日も一緒に楽しみましょう」
優しい声とともに頭を撫でてくれた。緊張がなくなって心も落ち着いてきた。
「いつもありがとう。準備ができたから地下練習場に向かうね」
二人一緒に部屋を出て、地下練習場の方向へ歩き出した。
歩きながら一年前の出来事を思い出した。異世界に来た初めての日だった。この世界の一年は三百六十日みたいで、誕生石という概念がないのは寂しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます