第12話 スクールカースト
かなえ「スクールカーストの底辺経験しちゃうと、ほんと自分に自信が持てなくなりますよね・・」
引き屋「うん・・」
「自己肯定感ゼロみたいな。私未だに自己肯定感無いですもん。全然。自分がいじめられてるのに、自分が悪いとか思っちゃいますもん」
「あれは徹底的に自尊心を破壊するよね。僕もそう。今でも、かなり理不尽な扱いされたり、いじめられてるのに自分が悪いとか思っちゃう。自分が悪いからいじめられるんだ、自分がなんか変だからいじめられるんだって。でも、後で考えると、どう考えてもいじめてる奴らが無茶苦茶なんだよ。俺全然悪くない」
「そうなんです。でも自分が肯定できないからどうしても、自分が悪いって思っちゃうんですよね。多感な幼少期にものすごい狭い価値観の中で徹底的に、何年にもわたって自分の存在を否定され続けますからね。完全に洗脳されちゃうんですよ。自分がダメだって」
「そう、もう自分はダメだってね。徹底的に植え付けられるよね。しかも、スクールカーストが終わって社会に出ても、ジャパンカーストが待ってるんだよ。ほとんど今の社会ってスクールカーストの延長だからね」
「そうですよね。学校から抜け出しても世間の価値観はほぼ一緒だから、全然抜け出せていない」
「社会に出ても一緒。学校で否定されたそのまんまで否定されちゃうからね。しかも実社会はもっと厳しいからね。特に底辺労働は」
「やっぱりそうやってずっと否定され続けたら自信なくなっちゃいますよね」
「それで自信持ってる奴の方が異常だよ」
「でもスクールカーストの上位にいる人ってその存在にすら気付いてないんですよね。前テレビで見たんです。アッパークラスな人たちがスクールカーストについて話してるんです。でも、その話の始まりが、スクールカーストなんていうものが今あるらしいんですよ。ってすごく驚いているんですよ」
「上の方々はそうなんだろうね。下界の人々のお話なんだろうね」
「そこに格差を感じましたよ」
「恵まれた方々はその意識もないというね・・。なんか、ほんと死にたくなってくるよ・・」
「はい・・」
沈黙・・
かなえ「スクールカーストってほとんど見た目ですよね・・(ぼそり)」
引き屋「そう、見た目の順位だよね」
「でも、無茶苦茶理不尽で差別的なんだけど、日本ではそれがもう当たり前になっちゃってて、差別とすら認識されてないんですよね。見た目で選別されることが暗黙のうちにみんな当たり前になっちゃってる」
「海外では人種差別があって、でも、だからこそ見た目で人を選別しちゃだめだよねっていう、それはダメだよねっていう社会的共通了解があるんだよ。それは差別だよねっていう。でも、スクールカーストやジャパンカーストにはないからね。そんな概念。そんなの当たり前でしょって感じになってる」
「テレビとかで、普通にブサイクとか言って人がいじられてる社会ですからね」
「それが悪いことという認識すらがないんだよね。差別以前に」
「そうそれが怖いですよね。差別を差別とすら思っていないっていう」
「よく考えると滅茶苦理不尽な差別されてんだよね。小さい時から、日常的に、逃げられない関係性の中で」
「そうなんですよね。しかも一番見た目を気にする思春期にそれですからね」
「でも、だからといって学校辞めれないよね・・」
「はい、学校行け圧力半端ないですから。もうそれしか価値観ないって感じで、みんなその世界に洗脳されちゃってますからね。日本全体が熱狂的な学歴信仰の新興宗教化してますから」
「そう、学校行かない奴は、今でもマジで頭おかしいくらいに見られるからね。ものすごい強迫観念だよ。死ぬほど辛いのに、でも学校辞めたら、みんな大騒ぎで大変なことになるっていう」
「私実際、不登校になった時、担任に精神科連れていかれましたよ」
「僕も、ほんと血反吐吐くような思いで学校行ってたよな。もう、死にたいくらい辛かったのに、辞めれなかった。でも、結局大学までは行ったけどそこでギブアップ。やっぱり自分の気付かないところで限界超えてて、壊れてたんだよな。俺・・」
「私はもう、体がおかしくなりました。体が拒否反応するんです。体のあちこちがおかしくなって、それで、学校休むって決まると突然治るんです」
「それでも、学校行けって圧力がくるんだよなぁ」
「はい・・、実際もう無理ってなった時、大変でしたよ。両親半狂乱。この世の終わりみたいな取り乱し方しちゃって」
「それうちも。うちなんか両親、めっちゃ気合入っちゃってて、進学校、有名大学、有名企業みたいな青写真勝手に描いてて、勝手に子どもにプレッシャーかけてくるような親で、だから、大学行けないとかってなった時、もうそりゃ大変」
「今ではもう両親もあきらめたみたいで落ち着いてはいますが、最初の頃は大変でしたよ」
「うちも大変だったなぁ、ほんと地獄だった。今でも大変だけど・・」
「学校に行かなくなると、一番味方になってほしい両親が一番の敵になるんですよ。私の両親なんかまだ、世間一般で言えば結構自由なものの考え方で、理解力のある方なんです。でも、その両親でさえ、私が不登校になると、ものすごく動揺しちゃって、何とか学校に行かせようと必死になっちゃって。でも、行けないじゃないですか。もう、限界を超えてるわけだし。もうすでに限界を超えてがんばってたわけですよ。私なりに。だから、もうそこで、両親との葛藤が始まるわけですよ。それがまた、学校に行く以上に大変でもう、それに疲弊しちゃって、もうほんと死にたかったですよ。安住できる場所がないんですよ。せっかく学校という地獄から解放されたのに、今度は家が地獄になるんです」
「分かるなぁ、その感じ」
「今はもう距離感が出来て、というか距離感があり過ぎて、家の中で全く別居状態ですけど、でも、ここに至るまでの道のりの大変さはもうほんと地獄でしたよ。今も地獄ではあるんですけど・・」
「うん」
「これをまた距離感縮めて、また一から関係性作っていくって、もうそれ考えただけで、チョモランマ登るみたいな果てしなさを感じるんですよ。もうほんと無理っていう・・」
「うんうん」
「しかも、絶対に埋まらない世代間ギャップみたいなものもあるし、そもそも人それぞれ経験や世界観が違うわけで、それを埋めるなんてとても無理なんですよ。まして、戦中戦後世代の私の両親なんて、今の豊かな近代化した世界に生まれた世代の事なんて全然分からないんですよ。今の世代がどれだけ大変か、厳しいかまったく分かってないんですよ。むしろ、今の世代はいいなって、なんでもやりたいことやれてって、言っちゃうようなそんな感覚なんですよ」
「うちもそんな感じだな・・、未だにぶちぶち就職とか結婚とか言ってくるんだよ。遠回しに。全然分かってないんだよ。子どもが置かれている状況が・・、そんなレベルの話じゃないんだよ・・」
「そうですよね・・、それ以前ですよね・・」
沈黙・・
引き屋「もう、なんかスクールカーストの価値観から絶対抜け出せないよね。努力とかなんとか人は言うけどさ」
かなえ「絶対無理ですね。社会の共通感覚になっちゃってますからね。いくら、間違っているって、理不尽だって叫んでも、喚いても誰も聞いてくれませんよ。もう、そういうもんだってみんな了解しちゃってますからね。私たち自身も」
「そう、否定している僕たちが一番それに囚われてるんだよね。そこがまた地獄なんだよね」
「はい・・」
再び沈黙・・
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