第5話 外国とゴジラ
かなえ「ほんと何しに来たんですか。あなたが来て、逆に滅茶苦茶外に出たくなくなりましたよ。以前にも増して」
引き屋「大丈夫です。必ず外に出して見せます」
「全然説得力無いですよ。もはや」
「大丈夫です。引きこもっていても幸せにはなれるわけですから」
「その理論はさっき破綻したでしょ。それに、親が生きているうちだけですよ。引きこもっていられるのも。親が死んだら・・」
「そんな悲観しないでください。絶対大丈夫ですから」
「説得力無いです」
「生活保護とかもあるし・・」
「役所に行くとか無理です。知らない人と話しなきゃいけないなんて絶対無理です。しかも、多分色々根掘り葉掘り聞かれて、今まで何やってたんですかって、引きこもりですって、めっちゃ無理です。恥ずかし過ぎですよ。絶対無理。役所の人に、すごく哀れまれる感じでとか、厳しい感じでとか、対応されて、多分、私その時、めっちゃ傷つくと思うんですよ。もう立ち直れないくらい傷つくと思うんですよ。死にたくなるくらい傷つくと思うんですよ。そう考えるだけでもう絶対無理です。死にたくなります。それに私生活保護については、色々調べたんです。昔。やっぱり親が死んだ後とか不安でしたから。でも、生活保護受けるってやっぱり滅茶苦茶厳しいんですよ。やっぱりおいそれとは、お金なんか出してくれないわけです。大切な税金なわけですから。だから、役所の人なんかめっちゃ厳しい対応なんですよ。めっちゃ塩対応なんですよ。そういう記事とか、本とか、実例をいっぱい読みました。それに何と言っても扶養照会があるんですよ。生活保護って。三親等にまで、生活保護の申請していることが知らされるんです。要するに親戚縁者に私のこの恥ずかしい現状が余すことなく知らされるってことなんですよ。恥ずかし過ぎますよ。これ以上ないってくらい罰ゲームですよ。そんなの絶対死んだ方がましですよ」
「そうだね・・」
「いや、そうだね、じゃなくて、なんか、もっと、こう色々意見くれるとか、アイデア出すとか、励ますとかしてくださいよ。何普通に納得してるんですか」
「そうでした。だから僕は・・」
「だから、いちいちマイナスモードに入らないで下さい。それに生活保護が無事もらえて生活できても、なんか申し訳ないっていうか、こんな私が人様の大事な税金使って生きてていいのかなって、めっちゃ、自己嫌悪と自責の念に駆られると思うんですよね。そうやって生きている自分を想像しちゃうと、もうそれだけでダメって思うんですよ」
「そうだね・・、それ分かる」
「いや、だから、そうだね、じゃなくて、分かるじゃなくて、なんかアドバイスとか、せめて嘘でもいいですから励ましとかくださいよ。大丈夫だよとか」
「そうでした・・」
「何、落ち込んでんですか。元気出してください。だからなんで私が励ましてんですか」
「うん、なんか落ち込んできちゃった。自信全然なくなってきちゃった」
「最初に来た時のあの意味不明な勢いとテンションが完全に失われてるじゃないですか。もはや、別人のレベルで変わっちゃってるじゃないですか。もう、私を引き出すんじゃなくて、あなたが逆に引きこもろうとすらしてるじゃないですか」
「これがほんとのミイラ取りがミイラになるってことですね」
「全然笑えません」
「すみません。だからこういうところがキモイんで・・」
「だからそれはもういいです。いちいちマイナスモードに入らないでください。ほんと何しに来たんですか」
「はい・・、だから、僕は役立たずで、みんなから・・」
「だから、隙あらばマイナスモードに入るのやめてください。絶対あなた救う側の人間じゃないですよ。なんか救ってもらう側のはずの私の方がエネルギー、めっちゃ消費しているじゃないですか」
「分かりました」
「何が分かったんですか。急に大声上げて、びっくりしますよ」
「こうなったらもう外国ですよ。遠い遠い。全く社会も価値観も生き方も全然違う外国の国。そこへ行くんです。僕らは結局この国のこの社会の価値観の中で、否定され追い込まれているわけで、それがまったく通用しない世界に行けば、僕たちはまったく別の存在になれるわけですよ」
「アマゾンの原住民的な?」
「いや、そこまでではないですが・・💧 」
「でも、案外それいいかもしれないですね」
「えっ」
「私、外国なら外出れそうな気がするんですよね」
「そこ食いつくんですね・・💧 また怒られるかと思った」
「それいい考えかも、遠い外国かぁ。憧れるなぁ」
「めっちゃ食いつきますね。ただの思い付きで言っただけなのに・・」
「あと、巨大地震とか来て、私が住んでるこの町とかが無茶苦茶になったら、外出れる気がするんですよね。ゴジラとか来て、街を破壊してとか、あと使徒とかでもいいですけど、あと・・」
「いや、もういいです。破壊ってことは分りましたから・・」
「昔、阪神大震災の時に、お金持ちの町、芦屋の引きこもりたちが、芦屋は滅茶苦茶引きこもり多いんですよ。なぜか。それがみんな外に出て炊き出しとかボランティアとかで大活躍したって話、それをネットで見たんですよ。なんかその感じ分かるんですよね」
「な、なるほど・・💧 やっぱ、めっちゃ食いついてきますね。この話」
「私は結局外が怖いんじゃないんですよ。人が怖いんじゃないんですよ。あなたの言う通り、この今の社会の価値観が怖いんですよ。世間の目が怖いんですよ。だから、それが壊れているか、通用しない世界だったら私は外に出れるんですよ。外国だったら価値観とか見た目とかが違い過ぎて、自分が持ってるコンプレックスとか劣等感とか関係ないっていうか。そもそもこの国の文脈とかヒエラルキー関係ないですからね。つまり、国内であったとしてもそれがない状態であれば私は外に出られるわけです。災害などでそれらが壊れていれば私は外に出れるわけですよ」
「滅茶苦茶テンション上がってますね。でも、今のこの社会の価値観を破壊するって、その方が外に出るより難しいですよね・・」
「・・・、そうですね・・、う~ん、そうか、でも、だとすると・・、ゴジラが暴れてこの国がむちゃくちゃになるっていうのは無理として、やっぱり外国ですね」
「そうですね。現実的にはそうなりますね」
「・・・」
「どうしたんですか?急にテンション落ちましたけど」
「でも、よく考えたら、外国に行くまでが大変というか・・、めっちゃ人に会うし、それにそもそもパスポートすら取りにいけないです・・。人怖い」
「そうでした」
「それに日本に適応できない人間が外国に行って適応できるとも思えませんし・・、日本語ですらコミュニケーションまともにとれないのに、外国語というか英語だって全くできませんよ。だてに中学中退じゃないですよ。ディスイズアペンで時間は止まってます」
「それ致命的ですね」
「それに結局それって、引きこもっているのが内か外かの違いでしかないですよね。逃げてることには変わりがないっていうか」
「確かに・・」
沈黙・・
「振り出しに戻りましたね・・、見事に・・」
「はい・・」
――――
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