第250話 Licht~光(10)
「・・え、エリちゃんまた出かけるの?」
「すみません。 母乳を搾乳してあるので、竜生が泣いたらあげてください、」
それから
絵梨沙は時々真尋から夜呼び出されてスタジオに行った。
「こんな夜にあぶないよ、」
と注意するのだが、
「タクシーで行きますから。」
絵梨沙は構わず出かけてしまう。
行き詰る真尋はたびたびそれを絵梨沙の身体に求めた。
竜生はミルクをあげても泣きやまない。
「よしよし。 もーすぐママ帰ってくるからな~~~。」
南は抱っこしてあやすが、なんだかもう
不憫で切なくなった。
「ごめんな・・絵梨沙・・」
真尋は行為の後、必ず絵梨沙にすまなそうに謝った。
「・・ううん。 あたしは・・平気。 真尋の・・不安もやりきれなさも全部受け止めたい、」
絵梨沙はそのたびに彼に抱きついてそう言った。
子供を産んだばかりでしんどくないわけもなく
夜中も授乳で何度も起きて竜生の世話をして
寝不足でフラフラだった。
「エリちゃん、もうミルクなくなってる、」
哺乳瓶でミルクをやっていたが、転寝をしてしまってそれに気づかなかった。
竜生が泣き出した。
「あ・・ごめんね。 ごめん、」
慌てて立て抱きにして背中を摩ってやった。
「もー。 疲れてるんちゃうの?」
南はため息をついた。
「真尋のことが放って置けなくて。 竜生の世話に集中できないなんて。 このごろ母乳の出も悪くなっちゃって、」
絵梨沙は情けない声でうな垂れた。
南は少し考えて
「両方は。 無理やん。 双子の赤ん坊と同じ、」
少し笑ってそう言った。
「え・・」
「どっちにも100%なんて無理やん。 100%でなくちゃアカンなんてこと誰も求めてへん。」
「・・竜生の世話も南さんの力を借りなくちゃやっていけないなんて・・母親失格です、」
「だから。 コンサートまでもうすぐやん。 それまでは真尋についててやったら? あたしじゃ心配やろけど・・竜生の世話くらいは何とか。 この子が大きくなった時にね、いつかこの話をしてあげたらいいと思うよ。パパとママがどんだけたいへんやったかって。 でも、必死にあんたのこと育てて頑張ってたんやでって。 きっと真尋とエリちゃんの子やったら。 わかってくれると思うよ、」
「南さん、」
絵梨沙はグスっと泣き顔になった。
「・・たぶん。 エリちゃんは真尋のことしか今は考えられへんと思うねん。 別に竜生のことがどうでもいいとかやなくて。 彼女の中では真尋のことがどうしても優先されてしまうって言うか、」
南は深夜NYの真太郎と電話をした。
「・・おれには。 理解できないけど。 真尋が今どんだけつらい状況にあるかわかんないけど。 あいつだってもう父親なんだ。 エリちゃんに迷惑をかけないで、自分で乗り越えていかないと、」
真太郎は少し二人の様子に不満そうだった。
「そうなんやけど。 もうな、あたしら凡人にはわからへんねん。 あの子たちは音楽の世界で生きてる。 アーティストとして自分たちの世界を持ってる。 なんとかこの公演が終わるまで。 エリちゃんには全力で真尋を支えて欲しいねん。 真尋にはエリちゃんやないとアカンから。」
南は本当に献身的に二人や竜生を支えている。
真太郎はそれがわかるだけに
自分が理解できないことであっても
今はただ静かに見守るしかないと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます