第147話 Lebe für Liebe~愛に生きる(7)

動揺する母を見て絵梨沙は胸が痛かった。



そして



父にも話をしないとならないのだが、もっと気が重い。



しかし。



「絵梨沙がウイーンに行く、と聞いた時から。 ここへは戻らないんじゃないかと思っていた、」



父の反応は意外なものだった。



「パパ・・」



「真理子は、ただきみたちを会わせたいだけだったと思うけど。 ぼくはずっときみたちを見ているから。 どんなに強く深く繋がっているかもわかっているから。 絵梨沙はマサの側でゆっくりと過ごしなさい。 それが今の一番のクスリだ。」



父の温かさに涙がこぼれる。



「・・パパは自分の仕事をセーブしてまであたしのためにNYまで来てくれて。 それなのに、」



「絵梨沙の夢は絵梨沙だけのものだよ。 ぼくは。 絵梨沙がやりたいと思うことをサポートしたかっただけだ。それがきみへのつぐないだって思っていたから。 今。 絵梨沙が一番望むのはマサのそばにいること。 ぼくのことは気にしなくていい。 NYにいれば仕事はいつでもできる。」



両親と暮らして10年。



母と二人暮らして9年。



そして父の下で過ごして4年。




私はもう両親からの愛情をたくさんもらった。



離婚がどうしても受け入れられずに、悩んだ少女時代だったが



愛する人がいる今はその気持ちが少しだけわかる。



「あたし・・今は真尋が『ホンモノ』のピアニストになるのを見守りたいの。 あたしでできることがあったら何でもしたい、」



絵梨沙は父に涙声だったがしっかりとした口調でそう言った。



「・・うん。」



父は優しい声でそう答えてくれた。




真尋のピアノを聴きながら



絵梨沙は目を閉じた。




自分が一番ホッとできる場所は



やっぱりここだ・・



彼と彼のピアノがすぐそこにある。





2日後の本選。



絵梨沙は客席で祈るような気持ちで彼の順番を待った。



すると



隣に気配がしてそちらを見た。



「・・先生、」



シェーンベルグだった。



「間に合ったようだな、」



しわがれた声でそう言った。



「しかし。 なんであんな男に、あんたみたいな女の子がつくのかね、」



そして呆れたようにそう言われた。



「もう彼のピアノから離れられないんです・・」



絵梨沙はふっと微笑んでそう言った。



シェーンベルグはそれを聞いておかしそうに笑ったあと



「あんたも変人だなあ、」



と言い放った。



それがおかしくて絵梨沙も笑ってしまった。



真尋の不思議な魅力に



たぶん同じように惹かれている。



惹かれてやまないその気持ちをわかりあえるつながりを感じていた。


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