第137話 Sturm~嵐(17)

真理子は絵梨沙の気持ちを考え、ここに居る間は真尋のところに置いてもらえるように計らった。



「絵梨沙のメシ! 久しぶりだ~~~! ほんっと相変わらずうまい!!」



彼女が作った食事に大喜びの真尋に



「・・変わってないのね。 なんだかウイーンに二人でいたころとおんなじ、」



絵梨沙はふっと微笑んだ。



「ほんと・・わき目も振らず頑張ってたからさあ。 こうして絵梨沙と会えて。 すんげえホッとする。」



真尋はにっこり笑った。



「明日。 ジイさんとこに行くけど。 絵梨沙も行く?」



「え、いいの?」



「いいよ。 絵梨沙なら。 きっとジイさんだって許すって、」



真尋のピアノが聴ける・・



絵梨沙は少しだけ心が躍った。




先にシャワーを使わせてもらったあと、絵梨沙はベッドに横たわっていたが疲れていたのかそのまま寝てしまった。



「絵梨沙??」



シャワーを浴びて髪を拭きながら寝室に入って来た真尋は絵梨沙がすうすうと寝息を立てているのを見て




「寝ちゃったか・・。 ま、疲れてんだよな。」



彼女の寝顔を見てふっと微笑んだ。



ふと彼女の手を見ると



あの指輪が左手薬指にされている。



真尋は自分のネックレスに通したそれに手をやった。





なんだか違和感だった。



何が、というわけではない。



しかし



疲れたような絵梨沙の様子と



その指輪が彼女の異変を告げているようだった。




「なんか。 かわいそ。」



南は志藤と来たバーで彼女はポツリと言った。



「え?」



「エリちゃんと真尋は。 同じ道を行くわけでしょ? 同じ道を行くってことは・・・それぞれのピアノの生活を最優先させないといけないやんかあ。 二人の未来は・・・どうなるんかな、」




志藤はうーんと考えた。



「さっき。 エリちゃんの左手薬指に指輪してたの見えた。 ・・真尋も同じ指輪をネックレスにしてた。」



南の着眼点があまりにピンポイントで



「よう見てるなあ、そんなトコ。」



志藤は呆れた。



「ピアニストが指輪をするってことは、やっぱり今はピアノを弾かないって気持ちなんやと思う。・・二人は。 たぶん二人だけで将来を誓い合ってる。 でも・・もしエリちゃんがこのままピアニスト生活に戻ったら、果たして二人は一緒になることができるんかなって。」



「両方がな。 非凡なモン持ってるから。 おれらと違うもん。 おれだって二人には幸せになってほしいけど・・こればっかりはなあ、」



志藤は大きなため息をついた。


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