第136話 Sturm~嵐(16)
「本当に・・申し訳ないことに、」
街のカフェに入った志藤と南と真理子だったが
真理子は二人に深々と頭を下げた。
「もういいですから。 謝ることじゃないです、」
志藤はそれを制した。
「会社にも迷惑をおかけしました。 仕事のキャンセルもさせてしまって。 絵梨沙もすごくそれを気にして。」
さっきの彼女の表情はもう何も言わずとも気持ちが丸わかりだった。
「そっかあ・・真尋に会いたくて、来ちゃったんや、」
南はため息をついた。
「絵梨沙がピアノを弾けなくなってしまったのはコンサートを酷評されたことだけではないようにも思えるんですけど、なかなか話をしてくれなくて。」
真理子も困ったように言った。
「まあ。 慌てずに。 確かに損害は蒙りましたけど。 エリちゃんがまたピアノを弾けるようになるまで、今は静かに待つべきです。 彼女は本当にナイーブな子なので、もっとメンタル面でも気をつけなくちゃならなかったのに。 ぼくも気を遣うべきでした、」
志藤はコーヒーに口をつけてそう言った。
「真尋に会えて・・少しは気持ちが落ち着いてくれるといいんだけど・・・」
南は心配そうにため息をついた。
「久しぶりにさあ、絵梨沙の前でピアノ弾きたいトコなんだけど。 ほら、そのヘンクツジジイがさ。 コンクールの間は人に聴かせるなってうるせーから、」
真尋は笑った。
「・・ううん。 いいの。 なんか大事な時に押しかけちゃって、」
「絵梨沙だったらいつだってOKだし。 でも、なんか顔色悪いなあ。 痩せちゃったみたいだし。 大丈夫?」
真尋は絵梨沙の顔を覗き込んだ。
ドキンとした顔を見られたくなくて
「・・なんでも、ないわよ。 ほんと。」
絵梨沙はふっと背を向けた。
そして、真尋は彼女の後ろからそっと抱きしめた。
「ほんっと・・会いたかった。」
たった半年なのに
それはもう1年も2年にも感じる月日で。
絵梨沙はそのぬくもりが懐かしくて涙が出そうだった。
そして
何かが決壊したように彼に向き直り、激しく抱きついた。
「真尋・・」
彼女の身体を抱きしめた真尋は
やっぱり一回り細くなってしまったんじゃないか、と実感していた。
彼女をそっと身体から離して、
「コンクールで。 おれのピアノ聴いてくれよな。 おれ、絵梨沙がいてくれるって思うだけで力がでるから、」
優しくそう言ってキスをした。
絵梨沙はもう
今の自分の状況を真尋に悟られるのが怖かった。
でも
今はこうして何も考えずに彼のそばにいたかった・・
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