第134話 Sturm~嵐(14)

「暇人だなあ・・そのために二人で来たの?」



真尋は志藤と南に言った。



「今度の定期公演で招待するヴァイオリニストの契約だ。 お前の方はついでや!」



志藤は憎々しくそう言った。



「ったく・・いきなり現れんなよ・・」




二人は真尋のそばにいた老人に気づき



「あ・・シェーンベルグ先生ですね。 えっと、ぼくは・・」



志藤はいきなり日本語で話しかけてしまってジロっと睨まれた。



そこでハッとして、南の頭をひっぱたいて



「・・英語なら通じるやろ! 通訳せんか!」



そっちに矛先を持ってきた。



「いったいなあ。なによ、英語もしゃべれんくせに!」



南は仕方なく英語でシェーンベルグに話しかけた。






「つまり。 この男は・・こいつのボスってことか?」



シェーンベルグも流暢な英語で南に言った。


「まあ・・平べったく言えば、そういうことです。 本当に真尋がお世話になって。 私は彼のギリの姉です。」



南は一人ベラベラとしゃべった。



「なあ。 せっかくだから、お食事でもしながら話しませんかって誘ってくれよ、」



志藤は南に言った。



そのとおりを通訳すると



「あいにく。 わしは忙しいんじゃ。 もう帰る。」



あっさりと



帰られてしまった。



「気にすんなよ。 ほんっとにヘンクツジジイでさ。 ヒマなくせにああやってウソつくし、」



真尋は言った。



「ハア? ウソ?」



「だって。 今おれしか生徒いねーし。 あとは昼寝したりメシくったり酒飲んだりしてるだけだもん。」



「巨匠が・・」



二人の想像がどんどん崩れて行った。




「で。 とりあえず、あたしたち本選の決勝が終わるまでいれるから。 久しぶりに真尋のピアノ聴ける、」



南は嬉しそうに言った。



「え~~、なんか授業参観に親が来るみたいでヤだなあ・・」



「ここんところ全く音信普通だし! たまには連絡よこせよ、」



志藤は真尋をジロっと睨んだ。



「ごめんごめん。 ほんっと忙しくってさあ、」



真尋は笑った。




とりあえず彼が住んでいるところが見たい、と二人はあのアパートへやって来た。



「きったねえなあ、少しは掃除しろよ・・」



志藤は呆れて言った。



「もう面倒なんだもん。 前は絵梨沙がちゃんとしてくれてたから・・」



彼女の名前が出て二人はドキンとした。



コンクールが終わるまではこのことは真尋には内緒にしようと決めていた。




ところが。



玄関のチャイムが鳴った。



「ハイハイ・・」



真尋が何気なくドアを開けたが



驚いた。



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