第119話 passionato~情熱的な(19)

今までに弾いたことがなかったので丸っきり初見だった。



シェーンベルグは杖で床を叩き始めた。



「このテンポで、」



かなりのスピードだった。



真尋は渋い顔をしたあと、ピアノの前に座る。



このエチュードはかなりの高度な技術を要し、指の動きも1つでも間違うとたぶん弾き切れない。



当然、何度も何度も同じところでつっかえた。



「ヘタクソ!! こんなもん10の子供でも弾けるわ!!」



後ろから容赦ない罵声が飛ぶ。



本当に悔しいけど、こんなこともロクにこなせない自分が本当に腹立たしい。



2時間のレッスンはあっという間に終わってしまい、真尋は自宅に戻りその練習を続けた。




その後もシェーンベルグは彼に超技巧ものを次々につきつけた。



今までこんなにも技術的に高いものをやってこなかった真尋にはもう毎日がパニックだった。




「大丈夫?」



絵梨沙はたまに電話をしてきて彼の様子を心配した。



「うん、まあ・・。 なんとか、」



明らかに元気のない声に



「ゴハンはちゃんと食べてるの?」



入り込んでしまうと何もできなくなってしまう彼が心配でたまらなかった。



「大丈夫。 フランツの店でも食べさせてもらってっから。」



「そんなに厳しいの?」



「まあねー。 フェルナンド先生は優しかったんだなあって実感した、」



「え?」



「ほんと。 ウイーンに来てから順調すぎて。 おれやっぱ天狗になってたんかなって。 みんなにちょっとばっかり騒がれて、おれはそんなすごいピアニストじゃなかったんじゃないかって、」



彼がそんなにネガティブなことを言うのも珍しく・・



「やっぱり。 最後は技術だよ。 最初はコンクールなんてって思ったけど。 努力するってことの勉強をする場なのかもしれないって、」



あの彼が



あまりにまともなことを言ったりしているので



本当に心配になった。




シェーンベルグに罵声を浴びせられながらも真尋は必死にくらいつくようにレッスンを受けた。



そして。



コンクールまであと2ヶ月。




「これ・・?」



彼から1枚の紙を手渡された。




「これを。 コンクールで弾く。」




シェーンベルグがコンクールで弾く曲をリストアップしていた。



しかも



予選から本選まで細かく。




「え・・」




真尋はそれを見て驚いた。


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