黒咲蒼

第1話



 彼女と出会ったのは、まだ冬の寒さの残る春の日だった。





 始業式までの時間を図書室で過ごそうと一人で図書室にいたところに、彼女は現れた。


 俺は彼女のことを気にせず、適当に取った虫の図鑑を読んでいた。


 ページには綺麗な蛍の写真があった。


 すると横から、


「蛍綺麗だよね〜。でもそれ全部虫って考えると気持ち悪いよね…」


 と、冷めることを言われた。


 いや、誰?とそっちの方を向くと、さっき入って来た、彼女がいた。


「あー、そうだね。気持ち悪いよな…。でも、なんか、命の光ぽいよな…蛍の光って」


 すごい、厨二病なことを言ったような気がした。いや、口走っていた。


「あはは、君面白いこと言うね。君何年?名前は?」


 彼女は楽しそうに笑い、俺に話しかけてきた。


「えっと、俺は一年の日向夏樹ひゅうが なつきです」


「へー、君一年生だったんだ〜。私は二年の秋山ひなたあきやま ひなただよ。いつでも遊びに来て良いよ!あ、連絡先交換しとこうよ!」


 すごいグイグイ来る人だな。


 それは俺が彼女、ひなた先輩に持った印象だ。


 それは…



「良いですよ。秋山先輩」


「えー、何その呼び方〜。私のことは「ひなたちゃん」とかそう言う風に呼んでくれていいのに…」


「いやいや、先輩をそんな風に呼べないですよ…あ、ひなた先輩でもいいですか?」


「うーん。しょうがない。それで許してあげよう!!」


 その日は、この会話だけで終わった。



 そこから、俺はひなた先輩に会わなかった。


 いや、「会えなかった」の方が正しいだろう。


 先輩のクラスに行ってはみたのだが、先輩は休んでいて、クラスにはいなかった。


 交換した、連絡先に連絡もしてみたが、返信はなかった。




 先輩のことを忘れかけてた夏休みに入って数日入ったある日、俺の携帯はメッセージを受信した音を発した。


『やっほー、夏樹くん!!

 明日の夜は暇かね??

 あー、今いやらしいこと想像したな…変態!!


 蛍を見に行かない?


 18時、学校の校門で待ってるよ。』


 そのような、メッセージが来ていた。


 俺は、用件を読み、予定を全てキャンセルするメッセージを送り、



 先輩の提案に、了承の意を送った。









 予定の時刻より少し早く俺は目的の場所に到着した。


 理由は簡単だ。


 相手は一応、先輩だ。

 後輩が先輩より遅く着くというのはあってはならないと思ったから…


 というのと、女の人を待たせる男はあまり良いイメージがないからだ。



 しかし、先輩は俺が着いた時にはもう既にその場に立っていた。


「やあ!夏樹くん!こうやって顔を合わせるのは4月以来だね…え!?4月以来!?なんで会いに来てくれなかったの!!って言っても私の体調が悪くて学校に来てなかったから会えなくてしょうがないけどね。」


「そうですよ、ひなた先輩…。なんであんなに休んでたんですか?どこか身体が悪かったり…」


「まーまー、そう言うのは蛍のいる場所に向かいながらにしましょうや」


 そういい彼女は学校の裏山へ向けて進み出した。


 俺はその小さな背中を追いかけるように歩みを進めた。






 彼女は、蛍の見れるであろう場所に向かって歩いていると、振り返って、「休んでいた」理由を話し始めた。


「私が休んでたのはね…実は私もう〇〇なんだ。えへへ、びっくりした?そんな悲しそうな顔しないでよ…。そんな顔されちゃったら私が悪いみたいじゃないか!私は悔いは………ないよ。今日という日が終われば…ね」


 そう言って、いた。


 正直彼女のおちゃらけた性格的に嘘だろうと思った。


 でも、彼女が学校に全くこなかったこと、それだけでどこか、本当のことのように感じ出る俺がどこかにいた…。


「今日はどうして、蛍を見に?」


 それを聞くのが精一杯だった…。


 正直、それ以上の言葉は俺の口から出ることはなかった。


「うーんとね。まあ、まず夏樹くんとの思い出だからでしょ…他には、まだ見たことなかったから見たいなって!


 あ、あの灯り蛍じゃない?


 ほら、いこうよ」


 そう言うと彼女は俺の手を引いて、灯りを追いかけて行った。




「先輩!ひなた先輩!!前!川です!!止まってください!!!」



 少し進んだところで俺は前が川であることを認識し、それを先輩に伝えた。



 彼女は、俺の手を離し、一人川の中へ入って行った。











「ねえ、前に言ってたよね。『蛍の光は命の光みたいだ』って。私も〇〇だら、あんな風に綺麗に光るのかな…?








 ねぇ、夏樹くん。
















『一緒に死なない?』」




 彼女はまるで詩の一節を復唱するかのように、そう言った。








「俺は…






 《《》》俺は……





 俺は………!!!





 」



 俺は…







 何もいえなかった…。







 きっと数年後、数十年後、死ぬ直前の俺に聞いても多分この時の答えは返ってこないだろう……。





 数日後、俺は彼女の写真の前で泣き、








 数週間後、彼女の前で1人愛の言葉を伝えた、







 数秒後、俺は聞こえない答えに涙した。


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