閑話 一方その頃淫乱ピンクは
まえがき
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私、レイコ・ヤマダは焦っていた。
なぜなら不当な理由でフランドット伯爵に捕縛されたフトシを解放するための策が何一つ上手くいかないからだ。
フリゲート王国は王家の力が弱く、貴族の力が強い国だ。
ゆえに貴族領においては領主の貴族こそが絶対の王であり、他所の貴族どころか王家の力さえ及ばない時がある。
私は今その現実に直面していた。
我がヤマダ侯爵家の始祖であるタロー・ヤマダを筆頭に、この国の建国には多くの強い力を持った英雄級の人間が関わっている。
そのためにこのフリゲート王国は建国時から王家は絶対の存在ではなく、貴族は独立独歩の気風が強いのだ。
とくにここフランドット伯爵領は交通の要所であることもあり、経済的にも豊かで王国内でも有数の力を持つ貴族だ。
いかに私が王国内では十数人しか存在しないAランク冒険者であろうと、私の実家が侯爵家であろうと、好き勝手にできるほど甘い相手ではなかった。
そこで私は、フランドット伯爵の弱みを部下に調べさせた。
フランドット伯爵領は確かに交通の要所だし、税収は多いのかもしれない。
だがそれにしても伯爵の金の使い方は荒かった。
必ず税収以外の収入源があるはずだ。
いかに貴族の力が強いといっても、所得隠しは重罪だ。
その隠された収入源もろくなものではないだろう。
それを暴くことができれば伯爵を失脚させることができるはずだ。
そこまではできなくともフトシを解放するように交渉を持ちかけるくらいはできるかもしれない。
伯爵の不正行為の疑惑はすぐに見つかった。
近頃王国内で出回っている違法薬物、通称『シャングリラ』の原料の輸入と密造への加担だ。
シャングリラの原料は幻惑草と呼ばれる植物だが、これは海を渡った大陸にしか自生していない植物だ。
それを原料とする麻薬の製造には、領内に港を持つ貴族が関わっているのではないかと言われていた。
まさかフランドット伯爵だとは思わなかったが、これは好都合だ。
私は証拠集めに奔走した。
しかしどれだけ探そうと、決定的な証拠は一つたりとも見つからなかった。
「くそっ、今日でフトシが囚われてから何日だ!」
「落ち着きましょう、レイコさん。フトシさんならきっと大丈夫ですよ」
「そうだよ。おじさんは強いよ。それこそ、命の危険があったら無理やり出てこられると思うんだ」
私と同じくフトシの恋人であるリョーコとアカリが私をなだめる。
確かにフトシは強い。
それこそ軍隊を相手にしても圧倒できるほどに。
しかし、私はまったく楽観することはできなかった。
貴族というのは伊達ではないのだ。
必ず、二重三重の切り札を用意しているはずだ。
その中にはフトシの強さに対抗する手段があるかもしれない。
「もう、最後の手段をとるしかないか……」
「よく探せっ、絶対に出るはずなんだ!王国を蝕む違法薬物がこのフランドット伯爵領で密造されていることは間違いないんだ!」
「し、しかし……」
「もっとよく見ろ!きっとっ、あるはずなんだよっ!!」
私の焦りは最高潮に達していた。
フランドット伯爵の不正行為の証拠を見つけるために、私は父の権力を使って王国の近衛騎士団まで連れ出してフランドット伯爵邸に押し入っていた。
完全に貴族の主権を侵した越権行為だ。
しかし麻薬密造の証拠さえ見つければ正当化することができると思っていた。
他にもなんでもいいから王国への背信行為があればいい。
そう思って踏み込んだ伯爵の邸宅だったが、私の思惑とは裏腹に何一つとして伯爵の不正の証拠は出なかった。
屋敷だけではなく、伯爵家所有の建物や出入りの商人までくまなく調べたが何も出ない。
私の額からは滝のような脂汗が流れ落ち、脚がガクガクと震えて子供のように粗相をしそうになった。
「おやおや、これはどういうことですかな。あなたは私が国王陛下への忠誠に背くような行為をしているとおっしゃっておりましたが、ご自分の目で見てどうですか。何かそのようなものは見つかりましたか?」
豚のように肥え太った男が、青ざめた私の顔を見てニヤニヤと笑う。
この男がフランドット伯爵家現当主のエゴール・フランドットだ。
私は何も言い返すことができず、言葉につまる。
「い、いや……」
「ではあなたは、なんの確信もなく私を疑い、あまつさえ騎士を引き連れて私の邸宅を漁ったのですな」
「わ、私は……」
「これは大変なことですよ。あなたは我がフランドット領に兵を率いて侵略してきた逆賊だ。失礼ながら、捕縛させていただきますよ。その上であなたのお父上とお話させていただく。いいですな」
「くっ……」
はっとして周囲を見回すと、屋敷は大勢の兵士によって包囲されていた。
私は剣を抜き、連れてきた騎士たちと背中合わせで構えた。
先ほどまでの焦りが消え、一気に意識が戦闘モードに切り替わる。
私はちまちまとした政治が苦手だ。
こういう方が私には性に合っている。
「撤退する。私に続け!!」
「おっと、そうはいきませんな」
前方の兵を切り伏せて突破口を作ろうとした私の剣が止まる。
そこには、宿に置いてきたはずのリョーコとアカリの姿があった。
2人の喉元には鋭い剣が突きつけられている。
「ごめんなさい、レイコさん」
「レイコちゃんごめん、捕まっちゃった」
「人質か、卑劣な」
「人の家にいきなり押しかけて来たあなたに言われたくはありませんね」
2人には十分な数の護衛を割いていたはずだ。
その中には戦闘に特化したスキル持ちのよりすぐりの精鋭も数人いたはずだ。
「護衛の騎士をどうした」
「殺してはいませんよ。陛下に弓引くつもりはありませんからね」
精鋭を殺さずに制圧したというのか。
目のまえの豚貴族のニヤニヤとした余裕のある笑みに背筋がぞっとした。
こいつを甘く見ていたのは私の方だったのかもしれない。
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