55.卵

 冬が終わり、春が来た。

 冬の間は結局大量のジャガイモの処理に追われて何もできなかったな。

 巨人が投げてきた木が庭に大量に積み重なっていたから、あれを使って木箱を拵えてジャガイモを詰めた。

 そうすることでジャガイモを満載した木箱を一つのアイテムとしてカプセルに入れ、ガチャボックスに収納しておくことができる。

 ガチャボックスに入れておけばとりあえず芽が出ることも腐ることもないので安心だ。

 ジャガイモにかなりの数のカプセルを使ってしまったのがちょっと痛いが。

 他にも保存しておきたい物はたくさんあるのにな。

 さて、大量のジャガイモを在庫として抱えてしまった私だったが、毎日ジャガイモばかりを食べるつもりはない。

 人間は一種類だけのものを食べて生きていけるようにできていない。

 毎日色々な食べ物を身体に取り込まなければ、栄養が偏るし突如としてアレルギー反応のような変調をきたしたりすることもある。

 あと単純に飽きる。

 食生活が貧相だと心がささくれ立って人を傷つけてしまうことだってあるだろう。

 そんなわけで食生活は大切なのだ。


「しかし、食材のバリエーションが無くなってきたというのも事実なんだよな」


 あれからガチャは一度たりとも回していない。

 110回ガチャまではあと少しなのだ。

 目前で誘惑に負けて貴重なポイントを減らしてしまうわけにはいかない。

 ガチャから新たな食材を手に入れることは諦めたほうがいいだろう。

 そうなるとどこかから調達するしかないわけだが、どこかってどこだろう。

 ゲイルとエリシアに周辺の地形を聞いた限りではちょっと街まで買い物にという距離ではないらしい。

 歩いて1日ほどのところに小さな村はあるらしいが、ほとんど貨幣を使っていないような辺境の村で村人たちは生きていくのに必死なのだという。

 とても余剰の食料を売ったりする余裕はなさそうだ。

 牛や山羊などの家畜も飼っていないらしいし、乳製品などの入手は困難だろう。

 肉や魚はあるし、主食となる穀物や芋も豊富に持っている。

 私が欲しいのは牛乳やバター、チーズに卵だ。

 手に入るならば野菜類も欲しいが、これは畑で少しばかり育て始めたので待っていればいつかは手に入る。

 やはり考えなければいけないのは乳製品と卵か。

 森に落ちてないかな、牛と鶏。

 そういえば以前大きな鳥の巣から卵が獲れたことがあったな。

 空を飛ぶと必ず襲ってくる厄介な鳥の魔物を、ユキトがさらっと狩ってきてくれたのだ。

 あいつの卵は美味しかった。

 私の背丈ほどもある大きな卵の中には、鶏卵何千個分なのかというくらいの大量の黄身と白身が詰まっていたのを覚えている。

 あの卵をもう一度手に入れることができれば、しばらく食べるだけの卵が手に入るのではないだろうか。

 

「ユキト、前に食べた鳥の卵ってまだどこかにあるのかな」


『…………』


 ユキトは無言で頷き、ジェスチャーで何かを伝えようとしてくる。

 身体全体を使って必死に私に何かを伝えようとする姿は大変可愛いが、何を言っているのか全くわからない。

 ユキトは残念そうに肩を落としてしょぼくれてしまう。

 可愛いけど可哀そうなので軽くモフってからユキトを背中に貼り付けて私は森へと飛んだ。





 ユキトが指し示す方角へと飛ぶと、そこには以前ゴブリン集落に向かって狙撃を行った大木があった。

 以前くだんの鳥が住んでいた鳥の巣には、すでに次の入居者が巣食っていた。

 どうやら同じ種類の鳥がちょうどいいと思ってそこに住み着いたようだ。


「なるほど、ユキトは前に鳥がいた巣にもう次の鳥が巣食っていると伝えたかったんだね」


『…………』


 ユキトは嬉しそうに頷いた。

 可愛い。

 いい具合に鳥は出産していたようで、巣には生みたてほやほやの卵が3つほど転がっていた。

 1個だけくれないかな。

 まあ無理だろうな。

 巣に大きな鳥が2羽いるのを見るに、あれはおそらく有精卵だ。

 以前この巣に住んでいた鳥は1羽だったので、シングルマザーでもなければ卵は無精卵だろう。

 しかし2羽いる以上は夫婦だと思うし、その傍らの卵は2人の愛の結晶に違いない。

 大切な雛が生まれてくるはずの卵を人に譲るはずがない。

 考えてみれば卵を食べるってちょっと残酷かもな。

 無精卵はともかく有精卵は鳥の子供そのものなのだ。

 親子丼なんて人間だったら親の肉を卵子もしくは受精卵で固めた料理だからな。

 そう考えると人間は罪深い生き物なのかもしれない。

 まあ親子丼は美味しいから今後も食べるけどな。

 そんなことを私が考えている間にも、ユキトは背中からぴょんと飛び跳ねて鳥の巣に入っていってしまった。


『ギュェェェッ!!』


『…………』


 卵を守ろうと威嚇する鳥のくちばし攻撃を、ユキトは苦も無く避けていく。

 そして首のあたりを軽く蹴ると、簡単に鳥の首はへし折れてしまった。

 あっという間に2羽の巨鳥はただの鳥肉となった。

 これが弱肉強食というやつか。

 なんだかユキトの獣としての一面を見てしまったような気がする。

 自然ってのは残酷だ。

 しかし私もその残酷な弱肉強食のおかげで美味しいご飯を食べられているわけで、やっぱり頂きますとご馳走様でしたはちゃんと言わないといけないなという気分になった。

 

『…………?』


「なんでもないよ。帰ってこいつを唐揚げにしよう」


『!!』


 ユキトはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。

 可愛い。

 卵も3つ手に入ったし、今夜は唐揚げだけではなくちょっと豪華な料理にしよう。

 親子丼とかいいよね。

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