39.ネームド首の対価
「ごめんなさいね、アリアちゃん。あなたの気持ちも考えずにこの子が色々と」
「ごめんなさい。でも私、なんとかしてあげたくて……」
「いえ、謝るようなことじゃないです。エリシアさんの気持ちはすごい嬉しかったですから」
エリシアの言葉が嬉しかったのは本当のことだ。
いまだかつて私にこんなに優しく声をかけてくれた人はいない。
同情して哀れみの声をかけてくる人はいたし、私の商品としての価値から媚びたような猫なで声で接してきた商人もいた。
あれはきっと全員ロリコンだろう。
この2人はあれらの人種とは違う。
しっかりと私を私として見てくれる稀有な人たちだ。
「アタシはアリアちゃんの目を見た瞬間から分かっていたわ。この子は助けを求めてはいないってね。それなのに勝手に他人の人生に同情するのは人として失礼よ。わかったわね、エリシア」
「改めてごめんなさい。でもゲイルも泣いてたじゃないのよ」
「アタシは同情の涙なんてものは持ち合わせていないわ。あれは慈愛の涙よ」
「何が違うのよ」
「アタシはこの地で一人暮らしているアリアちゃんに敬意を抱いているわ。強くて賢い子だってね。でもね、どんなに強い人でも寂しいものは寂しいのよ。泣きたい時だってあるの。それが悲しいなって、今まで頑張ったねって慈しんで涙を流したのよ」
「ふーん。なんかわかるかも」
まさかおカマのさっきの大泣きにそんな深い意味があったとは思わなかった。
エリシアは何か思う事があったのかしきりに頷いている。
確かに今の私にとって一番の敵は孤独なのかもしれない。
人と話すことが得意ではない私が、この2人と話したいと思って張り切って料理まで振舞ってしまうのだから今思えば私は相当参っていたようだ。
「そろそろさっきの話に戻らせてもらうけど、アリアちゃんはアタシたちにして欲しいこととか無いかしら。お金とかでもいいんだけどね。ネームド3体の討伐のお手柄を譲ってもらうんだもの。アリアちゃんのことをアタシたちが口外しないっていう口止め料を抜いても、かなりの対価をアタシたちが払わないと割に合わないのよ」
「うーん、何かして欲しいこと……」
欲しいものは大体ガチャから出るしな。
そのガチャを回すためのガチャポイントはいくらあってもいいが、何を引き換えにしてもポイントは手に入らないんだよな。
無難にお金でも貰っておこうかな。
いつか人間の街に行くのならお金は必要になるだろうし。
あと他に欲しいものといえば、強さかな。
この2人はSランクの冒険者だ。
私が知っている冒険者といえば昼間から酒場で騒いでいるゴロツキみたいなのだが、あれだって暴れだしたら衛兵が来ないと誰も止められないくらいに強かったのを覚えている。
冒険者たちの頂点に立つSランクの2人ならば、とんでもない強さを秘めているのだろう。
「とりあえず幾ばくかのお金は欲しいです。それと、私に戦い方を教えて欲しいです」
「戦い方って、ネームドを倒すくらいだからアリアちゃんは十分強いんじゃないの?」
「強さには色々あるからねぇ。あんまり詮索はしたくないけど、たぶんあの結界で攻撃を防ぎながら倒したんじゃないかしら」
「アタリです。詳しくは話せませんが『大転のユミル』と『炎球のイグニス』は遠距離攻撃で倒したんです。真正面から戦ったら私は普通のオークにも勝てるかわかりません。だからお2人に鍛えて欲しいんです。すぐには強くなれないかもしれませんけど、強くなるための何かを掴めればと思って」
早く強くなって無双したい、という想いを真っすぐにぶつけてみた。
2人は顔を見合わせて頷き、了承してくれた。
しかし2人も人に教えるというのは初めてらしく、何を教えるのかを色々と話し合っている。
どうやらネームドを倒すという偉業はかなりの価値があるもののようで、2人は自分の持てる技術を全て吐き出す勢いで色々なことを羅列している。
「アタシが教えられるのは魔力操作と身体強化、魔勁術、あとは体術くらいかしら。さすがにアイアンメイスを振り回すのはアリアちゃんの体格では無理よね」
「私は弓術と短剣術と精霊魔法だけど、人間のアリアちゃんには精霊って見えないかも」
もちろん私にできないことまで教えてくれとは言わない。
やはりSランクの冒険者というのは色々なことができるようで、それぞれの一番の武器であろう金棒と精霊魔法を抜きにしてもかなりのことを教えてもらえそうだ。
魔力操作やら身体強化などのラノベ主人公なら誰でも習得していそうな技術の数々はぜひとも覚えておきたい。
一応今でも魔力は操作できるし小周天という身体強化に似た技も使えるが、誰かに教わったことではないからゲイルが言っているものと同じものかどうかわからない。
聞いたことのない魔勁術というのも楽しみだし、他の単純な武術なんかも近接戦闘能力を上げる役に立ってくれそうだ。
「じゃあ明日からアタシたちはゴブリンキングの調査や可能なら討伐も行うから、その合間にアリアちゃんに色々なことを教えるってことで契約成立ね」
「もちろんお金も払うわよ。オークキングの眼球や牙、オールドサラマンダーの牙や鱗、巨人の骨や皮なんかは単純に素材としての価値もある。私たちの教える技能の代金や口止め料を差し引いて、金貨3万枚ってところかしら」
「それくらいが妥当でしょうね。ついでにお願いなんだけど、この広場にテントを張って寝泊まりしてもいいかしら」
「わかりました。テントはどうぞご自由に」
こうして私はお金と先生を手に入れ、一時的に奇妙な隣人までもできたのだった。
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