10.新たな暮らし

 血の滴るような新鮮なお肉の塊。

 これは昨日狩った鹿みたいな草食の魔物のお肉だ。

 それを湖の畔に置いた椅子の上に無造作に置く。

 すると……。


「グギャグギャ」


 馬鹿なゴブリンが寄ってくる。

 それを私は、魔王城の結界の中から拳銃で殺していった。

 ここにたどり着くまで必死に歩きながらゴブリンを狩ったけれど、今ではまるで優雅な貴族のハンティングだ。

 10歳女児でもゴブリンを簡単に殺せるようになるひろしの世界の武器もさることながら、この魔王城の結界の力はとてつもない。

 色々と試してみたのだが、外からの攻撃は全て結界に阻まれて魔王城に届くことがなかった。

 銃も試してみたが、現時点の私の最強の攻撃手段であるショットガンのバックショットでさえ瞬間ダメージは7から8程度だった。

 つまりバックショットの50倍の威力がある攻撃を受けても魔王城には傷一つ付かないということだ。

 その分MPの消費量はとんでもないことになるが。

 バックショットを1発防いだだけでMPを3ポイントも持っていかれた。

 こうして馬鹿なゴブリンを釣ってバンバン狩っているのでポイントには多少余裕があるが、もう実験はこのくらいにしておこう。

 欲しい設備があるのでポイントは無駄遣いしたくないのだ。

 その設備は精米ルームといい、必要ポイントは100ポイントだ。

 もう少しで溜まる。

 なぜ精米ルームが欲しいのかと言えば、大量に出た米俵の中身が全部玄米だったからだ。

 玄米でも手間をかければ美味しく食べられないことはないしそのほうが身体にはいいらしいが、私は白米が食べたい。

 米俵の他にもお米は袋入りの20キロのものやパック入りのレトルト食品なんかもあったが、全部合わせても2、3カ月もすれば無くなってしまう量だ。

 まあそれも毎日お米を食べるならばという計算だが。

 ちなみに小麦も粉になっているもの以外にまだ挽いてないものがあったのでそのうち製粉ルームも作る予定だ。

 そっちは製粉済みのものが大量にあったのでまだ先でもいい。


「ほっ」


 妙な掛け声をかけながらゴブリンの死体を結界内に引きずり込んだ。

 死んでしまえば魔物であろうと結界内に入れることができる。

 魔物から魔石を取り出していると、血の匂いに釣られて別の魔物がやってくることがあるのだ。

 結界内で魔石を取り出す作業をすればそういった魔物に襲われる心配はなくなる。

 私はゴブリンの心臓にナイフを突き刺し、魔石を取り出した。

 この作業は手が血でベトベトになるし服も汚れるから嫌いだ。

 汚れてもいい服として私が元々着ていたツギハギだらけのワンピースを着てやっている。

 Bランクアイテムの中には洋裁入門という本があったから、早く読んで新しい服を作らないと着られるものが無くなってしまいそうだ。

 ただでさえ私は成長期で色々とサイズが変わっていく時期なのだ。

 ドールが着ていた服は私には大き目のサイズだからいいが、このワンピースなどはすぐに着られなくなってしまうだろう。

 まあこのツギハギワンピースレベルだったら今からでも作れそうな気がするけど。

 私は可愛い服のデザインを考えながら淡々とゴブリンにナイフを突き刺し続けた。







 昼食をパックご飯とインスタント味噌汁で済ませ、しばしの仮眠をとる。

 お昼寝とも言う。

 私は10才女児なので、成長のために十分な睡眠が欠かせないのだ。

 成長うんぬんを抜きにしても、衝撃を吸収してくれるポケットコイルマットレスの上で温かいお布団に包まれて眠るのは至福の時間でもある。

 こんな王侯貴族のような寝具をひろしの世界では庶民が使うことができるのだから、生活水準の差はかなり大きい。

 魔王城の拡張カタログにも結構色々な寝具があったので今度試してみよう。

 お昼寝が終わればもう一度魔物狩りに行くか、読書タイムとなる。

 今日は雨が降ってきてしまったので読書だ。

 Cランクでも色々な本が出ていたのだけれど、優先すべきなのはやはりBランクの3冊の本だ。

 村田流気功術虎の巻と大賢者ムラムラス著『ゴーレムの作り方』、洋裁入門の3冊。

 同じようなハウツー本がCランクにもあるのに、なぜかこの3冊だけはBランクだ。

 この3冊はそれだけ他の本とは隔絶した価値があるということに違いない。

 私はまず村田流気功術虎の巻を手にとった。

 気功術と聞くと少し眉唾物のイメージだが、Bランクの本が全くのデタラメで書かれた本であるはずがない。

 もし本当にカンフー映画のような気功が使えるようになるのであればこの本には計り知れない価値があるだろう。

 ドキドキしながら本を開いた。


『気は命であり、エネルギーであり、宇宙である』


 ああ、最初から意味わからんわ。

 こういう系の読むのに翻訳機が欲しくなる文章は苦手だ。

 書いてる人は気持ちがいいのだろうが、ストレートに表現してくれたほうが読み手としては助かる。

 私は苦痛と戦いながら、少しずつ読み進めていった。


「ようやく実践編か。浅く座って全身放鬆、なんて読むんだろうこれ」


 これだからオ〇ニー作家はいけ好かないんだ。

 まあとにかく、リラックスしつつも集中した状態のことらしい。

 右手の平を左足の裏に付け、左手を丹田のあたりに当てる。

 丹田ってのはおへそのちょっと下のあたりらしく、女性ならちょうど子宮のあるあたりだろうか。

 女性はお腹を冷やすと婦人科系の病気になりやすいらしいので、このあたりに手を当てて温めるだけでも健康法的には理にかなっているのかもしれない。

 というかこれもひろしの知識なのだが、素人童貞のくせに婦人科系の病気に詳しい男って相当きもいな。

 まあいいや、これが村田流の練功の基本姿勢なので毎日このまま気の循環というのを試してみよう。

 100日築基といって、この基礎練を100日間続けると気が充実してきて次の小周天という段階に進めるらしい。

 1日1回なるべくやるようにしておこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る