第106話 いなリーダー、爆誕

 ──


「…………類。ねぇ類、起きてって!」


「はっ……!」


 徐々に視界が開けると綺麗な青空と共に、覗き込むようにしている美少女二人の顔が見えてきた。起き上がりながら俺は呟く。


「ああ……マジで意識失ってたみたいで怖っ……」


 気絶判定になっている間は音声もほとんど聞こえてなくて、暗い視界で孤独な時間を強いられていた。これからは極力ダウンはしないようにしよう……ってか、装備していた剣が見当たらないんだけど、俺の持ち物はどこに行ったんだ?


「なぁ、俺の装備知らない?」


「……」


 そう聞くと、いなりさんは無言で俺の剣やお金などを渡してくれた。ああ、もしかしてダウンすると、その場に持ち物全て落としてしまう仕組みがあるのか? だったら尚更ダウンするのは避けたいな……ってか何で、二人とも何も喋らないんだ?


「あ、ありがとう……二人とも何かあった?」


「……」「……」


 聞くと、レイといなりさんは無表情のまま、俺に近づいてきて……。


「あの、もしかして……いなり達の会話、盗み聞きしてました?」


「えっ、ええっ!? そっ、そんな訳ないだろ!?」


『草』

『バレてて草』

『そりゃそう』

『白々しいなぁw』


 更にはレイも俺を問い詰めてきて。


「じゃあ所持してるスキル見せてみて?」


「えっ? えーっと、やり方が分からないな……多分出来ないんじゃないかな……」


 そんな風にしらばっくれていると……レイは俺の身体を羽交い締めにして。


「……よし、いなりん。もう一回頭ぶち抜いちゃって良いよ」


「あっ、はい!」


「ごめんなさい!!! 近づいて詳細からスキルを押したら見れます!!!!」


 俺がそう叫ぶと、レイはポイッと俺から手を離し、スキルを確認した。そして俺が千里眼スキルと地獄耳スキルを持っているのを見たのだろう……レイは無言のまま、俺の首元に杖を向けてきた。


『あっ』

『草』

『こわっ』

『ガチギレで草』

『さっきの優しいレイちゃんはどこ……?』

『ルイ……良い奴だったよ』

『これは言い逃れ出来ませんねぇ』

『土下座しよう』


 コメントの言う通り……ここは素直に吐くしか無さそうだ。


「……ごめん。スキルの感触を確かめたかっただけなんだ」


「……別に私らじゃなくて、モンスターとかでやれば良かったよね?」


「返す言葉もございません……」


『草』

『草』

『ド正論』

『最初にレイちゃん見る発想に至るルイが悪いよ』

『ルイは尻に敷かれるタイプだなw』

『まぁ謝れるのは偉いよルイ』


 それで俺が詰められてる状況にいたたまれなくなったのか、いなりさんは俺の間に入ってくれて。


「れ、レイちゃん。ルイさんも反省してるみたいだし、このくらいにした方が良いんじゃないかな……?」


「んー。いなりんがそう言うなら良いけど……でも次やったら分かるよね?」


「こわ」


『あえてもう一回やろう』

『やめとけ。前が見えなくなるくらい殴られっぞ』

『よっぽど恥ずかしかったんやろうなぁ……』

『いなりんは優しいなぁ』

『ここでヘタれるルイじゃねぇよなぁ!?』


 いやもう視聴者の期待には応えられないって……もう次盗み聞きしてるのがバレたら、現実世界にも影響してきそうだもん。口聞いてくれなくなりそうだもん。


 ……それで一旦は許してくれたのか、いつもの口調に戻ったレイは、モンスター討伐で稼いだお金を俺らに尋ねてきた。


「それで、みんなは幾らぐらい稼いだ? 私は1011ゴールド!」


「俺は1985ゴールドだ。お前のほぼ二倍だな」


「うわーマウント取ってるー。ダサー」


「いや、事実を言っただけだろ……いなりさんは?」


 聞くといなりさんは、ちょっと申し訳無さそうな声色で。


「あっ、えっと、いなりは……5000ゴールドです」


「えっ、5000!?」


「すごっ! やっぱりいなりん最強だよ!!」


『5000!!???』

『めちゃくちゃ強かったしな』

『いなりキャリーうおおおおおおおおおお』

『いなりん最強!!』

『まぁ逃げてるルイを狙撃出来るくらいだし……』

『二人合わせても届かないのは草』


 確かにレイを襲っていた鳥モンスターや、逃げてる俺の狙撃を難なく成功させてるくらいだから、俺らより戦力は遥かに上なのだろう。これはチームリーダーを任せるしかないかもな……思いながら俺は呟く。


「まさかこのチームで一番強いのがいなりさんだとはな。リーダーって呼ぼうかな」


「良いね! このままリーダー任せちゃおうよ! いなりリーダー……いなリーダー!」


「えっ、そんな、恐れ多いですよ……! これも武器のお陰ですよ……へへっ」


『いいね!』

『いなリーダーww』

『語感が良いね』

『まぁルイかレイがリーダーだと揉めそうではある』

『いなりんがリーダーだと丸いしな』

『満更でもなさそうないなリーダー可愛いよ』


 そんな感じで……またいなりさんを中央に挟んで会話しながら、俺らはレイの家へと帰るのであった。


 ──


 レイの家、改めチームハウス。俺らは事前にレイが集めていた木材で、家具を作成していた。一時間くらい雑談しながら作成した椅子や机を並べて……簡単なリビングルームはどうにか完成することが出来た。


「うん! 良い感じだね!」


「だいぶ様にはなってきたな。後は壁に飾るアイテムとか欲しいかもな……」


「あっ、でしたらいなりが素材を集めておきますよ。絵とか飾りたいですし」


「わぁ、ありがとういなりん!」


『この雰囲気良いなぁ……』

『ほのぼのしてる』

『日常パート助かる』

『多分ここが一番あったかいチームだよ』

『ファミリーだもんな』


 本当に雰囲気は最高だな……まぁレイの明るさで、俺もいなりさんも救われている所があるのだろう。口では言わないけど、レイがいてくれるだけでとても助かっているのだ……そんな彼女は、名残惜しそうに口を開いて。


「じゃあ私、明日用事があるからそろそろ落ちるね……類達はまだやる?」


「ああ、少しだけな」


「いなりも、もう少しで終わろうかなって思います」


「そっかー。じゃあ落ちた後は類の配信見とくね!」


「いや寝ろって」


『草』

『草』

『即答』

『見られたくないんやろうなぁ……』

『レイちゃんおいでー』

『やっぱりこの絡み良いなぁw』


「ふふっ! じゃあお疲れ様だよ!」


「はーい」「お疲れ様です!」


 そしてレイは落ちて、俺らは二人きりになってしまう。別にいなりさんといるのは気まずい訳じゃないけど、レイがいなくなると少し雰囲気変わってしまうな……まぁここは俺から話しかけるべきだよな。思った俺は口を開いて。


「いやー……いなりさん。今日は急に仲間に誘ってすみませんね。結構無理やりで」


「あっ、いえいえ! とっても嬉しかったです! 多分あのままだといなり、ずっと一人ぼっちだったと思いますから……こうやって二人の側にいられて、凄く賑やかで。とっても心地良かったです!」


「……そっか。でもレイのやつちょっとうるさかったり、ワガママな所もあるからさ。困ったらことがあったら、俺に言ってくれよ?」


「はい……ふふっ、昼にもレイちゃんに似たようなこと言われました」


「……」


『あっ』

『草』

『似たもの同士だなぁw』

『やっぱり夫婦だった』

『無自覚だったのか……』


 うん、マジで無自覚だった。そんなに俺はレイに似ているのか? それともアイツのほうが俺に似てきているのか……分かんねぇな。


 それでずっと黙っている俺を怒ってると勘違いしたのか、いなりさんは焦ったように俺に謝ってきて。


「……あっ、ごっ、ごめんなさい……!」


「いや、全然怒ってないから……ちょっと考えてただけだからさ」


「あっ、はい、なら安心しました……!」


「……」


 そして再び訪れる沈黙……こうなってくると、普段どれだけレイに助けられてたかを実感するなぁ……やっぱアイツって潤滑油というか、ムードメーカー的な役割を担ってるよな……思ってると、今度はいなりさんから話しかけてくれて。


「あの、気になったんですけど、ここのチーム名って決まってるんですか?」


「ああ……決めてなかったけど、今のところいなりさんが一番強いから、いなりさんの名前を使いたいよね。例えば……いなり組とか」


「……あっ、あー……なるほど……」


『草』

『いなりん困ってるって』

『安直すぎる』

『ダサい』

『止めてくれるレイちゃんがいないよ……』


 どうやらいなりさんとコメントの反応を見る限り、微妙っぽいな……まぁこういうのは全員揃ってから決めるべきだろうか。


「じゃあ明日レイにも聞いてみるか……チーム作ったら旗とかも作ってみたいよな」


「あっ、それならいなりがデザインしますよ! そういったのは得意分野なので……」


「ホントに? 助かるけど、そんな無理はしなくても大丈夫……」


 そこまで言った所で、いなりさんは俺の言葉を遮って。


「大丈夫ですよ。楽しいから、進んでやりたいって言ってるんです」


「……そっか。ありがとう。……でも俺も明日用事で、ログインは遅くなるかもしれないから、あまり手伝えないかも……」


「分かりました。それじゃあ来るまでには作っておきますね!」


「そっか。楽しみにしてるよ」


「はいっ……! じゃあ、いなりもこの辺で落ちますね。お疲れ様です」


「お疲れ様」


 そう言っていなりさんもログアウトするのだった。残された俺は特にやることも無くなったので……壁に立てかけてた剣を手に取って。


「じゃ、明日早くログイン出来ない分、お金稼ぎのついでにレベル上げでもしときますかね」


 言いながら俺は、始まりの草原へと足を運ぶのだった。


『えらい』

『えらい』

『えろい』

『お前のそういうとこ好きやぞ』

『レイちゃん護れるくらいには力付けたいもんな』

『長時間配信ありがてぇ……』

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